吸音で空間のモードチェンジ
地下鉄の駅から延びる地下通路といえば、こんな風景が思い浮かびませんか?
雨の日に靴や傘で濡れても大丈夫なよう、地下通路はタイルや金属パネルで仕上げられることが多いです。火事で燃えないよう、不燃材が求められるということもあります。こういった材料は音を反射しやすく、遠くの人の足音もカツーンカツーンと響いてよく聞こえてきます。
こちらは東京メトロ銀座駅近く、晴海通りの地下にある地下通路です。日本有数の商業地らしく、デジタルサイネージが並び、照明は天井のスリットに収められ、美観に配慮した工夫がされています。ですが、床はタイル系、天井は金属パネル系で、どちらも音を反射します。自動改札機や空調機の稼働音、電車の案内アナウンスなどが響いて、喧騒感が高いと感じます。
ところが、通路の脇の部分、東急プラザ銀座の地下入り口の付近だけは様子がちょっと違っています。
写真手前側の通路では喧騒感を感じるのに、奥側では音が静かになったと感じます。どこかに吸音材があるはずです!
天井は、黒地に白い直線を様々な角度に組み合わせたデザインです。
近寄ってみると・・・
設計した方に聞いたところ、静けさの秘密はやはり天井の吸音材にありました。黒い部分がグラスウールというを黒いガラスクロスで包んだもので、不燃性を備えた吸音材となっており、スラブ(コンクリート床)の下面に設置されているそうです。手前の白い金属パネルは意匠を整えると共に、柔らかい吸音材の保護にもなっていて、穴は十分に大きく、吸音材の性能を邪魔しないよう配慮されています。
こういった仕上はお金もかかるので、どこでもできることではないかもしれませんが、できあがった空間は心地よく落ち着いたものでした。
喧騒感の高い地下通路から上品な商業施設へ入る序章的な空間は、視覚的にも音環境的にもモードチェンジできる空間に計画されていました。
また、地下街では、災害時に命に関わる情報をアナウンスで伝えることもあり得ます。仕上げに吸音材を用いると空間の響きを抑えることができるので、アナウンスの内容が聞き取りやすくなります。
心地よさと安全の両面から、こんな空間が増えていくといいなと思いました。
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