室内での人の声の聞き取りやすさを測る

 室内での人の声の聞き取りを考えると、響きが長くて聞き取りづらいとか、聞き取りやすかったとしても集中したいときに隣人の声が気になってしまうとか、いろいろな状況がありますね。室内での人の声の聞き取りやすさを測ったり評価したりすることはできるでしょうか。その1つの方法を、あるコワーキングスペースの音響改善事例を交えてご紹介します。

コワーキングスペースの聞き取りやすさの改善事例の紹介

 写真のコワーキングスペースは、リモートワーキングスペース、コミュニケーションスペース、子供が遊べるスペースが共存する開放的な空間です。しかし、開放的な空間であるがゆえに、それぞれのスペースの間で互いの声が伝わってしまうという課題がありました。コミュニケーションをとっていると、隣のグループの会話の声が妨げになってしまったり、リモートワークスペースで集中したいのに周囲の会話が気になって集中できなかったり…。
 そこで、リモートワークスペースに簡易なブースを設けました。囲いは側面だけで、天面は開放ですが、側壁の内部を一部吸音とし、ブース内外の遮音性能向上によって内部の静粛性を高め、声の聞き取りやすさの向上を実現しました。

コワーキングスペース
新たに設置した個別ブース(天井はオープン)
個別ブースの吸音(点線部分)

”STI”による人の声の聞き取りやすさの評価の可能性 

 ブースの中の音環境には、ブースの材料や内部の吸音状態、ブースの外の内装や空間の配置など様々な要素が関係しています。このような複雑な音環境の中で、声の聞き取りやすさを評価する指標の1つとして〝STI(Speech Transmission Index)”という指標が提唱されています。
 このコワーキングスペースの対策前後で"STI"を測定したところ、値が改善し、聞き取りやすさが向上していることが示されました。

 室内では、話す人から聴く人の位置に声が伝わる間に、周りの騒音や響きなどの影響により明瞭度が低下してしまいます。明瞭度に影響のある指標として、室内での音の減衰時間を表す「残響時間」という指標も知られていますが、残響時間は室の性能を評価する指標で、室の使い方は反映されません。一方、”STI”は部屋の中の例えば話す人と聴く人の位置関係等での違いが詳細に評価できる上、周りの騒音や、会話、聴覚の特性を加味できます。


 ”STI”のような評価指標を使って、声が聞き取りやすく、かつ、他者の妨害にならないような過ごしやすい音環境に配慮された空間が増えていくといいですね。



補足:
 STIは、明瞭度を定量的に評価する方法として1980年に提案され、現在、IEC 60268-16[1]として標準化されている指標です。また、日本建築学会環境基準AIJES-S0002-2011 [2]では、”聴き取りにくさ”による1st~4thのクラスを利用したわかりやすい評価方法が示されています。
 日本建築学会環境工学委員会音環境運営委員会の室内音響小委員会のインパルス応答測定評価WGでは、測定や得られる指標に関する留意点を記したコラムをWEBで公開しています。このページには、STIの測定精度を確認するためのベンチマークデータも掲載していますので、ぜひ参考にしてください。

室内音響指標ベンチマーク 
(日本建築学会 室内音響小委員会 インパルス応答予測・計測WG)


参考文献:

[1] IEC 60268-16, Sound system equipment - Part 16: Objective rating of speech intelligibility by speech transmission index, International Electrotechnical Commission.
[2] 日本建築学会環境基準 AIJES-S0002-2011 都市・建築空間における音声伝送性能評価規準・同解説,(2011)

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