埋葬
少しずつ彼氏が死んでいく。
少しずつ少しずつ。
彼に振られて、もうすぐ2ヶ月が経つ。
振られてからの1ヶ月、何度も気持ちを切り替えようとしても全然出来なかった。
また私の隣でバカなことを言って呆れさせてくれたり、真剣な眼差しで運転するのを惚れ惚れと見つめる事だけを夢見て、自分を磨く事に専念した。
好きだった。
嬉しい事があれば真っ先に伝えたいし、悲しい事があれば真っ先に声を聞きたくなった。
あれはきちんと恋だったと思う。
好みのタイプとは全然違ったけれど、スッとした目元が私を視界に入れるのが堪らなく愛おしくさせたり、見た目とは裏腹にするりと指先を感じさせる肌触りなんかも触れているだけで昂らせた。
好きだったし、もっと好きになりたかった。
不器用にセックスを誘うところも、きちんと割り勘にしちゃうところも、バカなところも、「呆れちゃうよ」なんて友達には言いながらひっくるめて大好きだった。
それでも、私1人で見つめる世界が積み重なる度に彼の息遣いが私の頭の中から消えてゆく。
取り戻したくて、電話をしてみても、もう思い出せなかったし、今自分と会話しているのが彼なのかすらもう分からなくなっていた。
何度も何度も確かめるように「ほんとに喋ってるんだね…。なんか嬉しいや…。」と言ってみせたけれど、嬉しいよりも、ずっとずっと「分からない」が勝っていた。
今でも気にはなってしまう。完全な無関心にはなれない。きっとこれからもそうだ。
どれだけ新しい恋を重ねても、きっとどの男も私の中に遺品を残していく。
それを大切にする訳でも、ぞんざいにする訳でもなく、きっと私は1人の夜に甘い梅酒を唇に塗りながら、手で温め、眺めるのだ。
大好きだった。あなたも、彼らも。
私のいない世界で私よりも少し不幸な幸せを掴んでいてくれ。
さようなら。
ご冥福をお祈りします。
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?