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人間らしさを取り戻すため野生に帰ろう

理性(知性)をあっという間にスポイルするドーパミン過剰社会

前回、なぜお寺のお坊さんは賢く人格的にも優れているのかということについて考えてみました(※1)。

一言で言えば、お坊さんが日々理性を鍛えるための修行に励んでいるからということになりますが、その中で習慣的な快楽行為が理性の力を弱めてしまうということに触れました。

出家したお坊さんはたいていの場合、お寺に住んで修行を積むわけですが、具体的にお坊さんがやっていることと言えば粗食を食べ、座禅や読経に精を出すことぐらい(失礼ですが😅)で、そんなのどこにいたってできるのでは?と思うかもしれません。

それでもわざわざお寺にこもるのは、やはり俗世にあふれる快楽刺激から身を遠ざけるという意味合いが強いのではないかと思います。

特に現代においてはいたるところに過剰な快楽をもたらす超常刺激があふれています。

加工(精製)食品・ジャンクフード、タバコ、ギャンブル、スマホ(SNS)・ゲーム、ドラッグ、ポルノなど、報酬系のドーパミンを過剰に分泌させる超常刺激は、ドーパミン受容体のダウンレギュレーションを介して人を人たらしめる脳である前頭葉の機能低下(Hypofrontality)を引き起こします(※2)。

前頭葉、前頭前野は思考力、創造力、意欲、社会性などを司っていますが、同時に感情制御(メタ認知)、衝動の抑制をも担っており、一度働きが弱まると自制心が低下し、ますます快楽行為が止まらなくなるというカスケード、負のスパイラルにより、あっという間に理性はスポイルされてしまいます。

あちこちに依存症の罠が張り巡らされた現代社会では、思慮深さや冷静な思考力などが失われやすく、人々が快楽刺激に耽溺し焚書が行われているディストピアを描いたSF小説『華氏451度』の世界観が、50年以上の時を越え再現されているようにも映ります。

過剰な刺激により理性を失った社会は、仏教の六道で言うところの修羅、餓鬼、畜生がうごめく地獄と化しつつあるのかもしれません。

日本男児は世界一劣化しやすい?

日本は世界的にもギャンブル依存症が多いことが知られています(※3)。

これは鶏が先か卵が先かという話で、賭博場(パチンコ店や競馬・競艇場など)がそれだけ多いからとも考えることができますが、日本人の6人に1人は何らかの依存症とも言われており(※4)、民族的な脆弱性がある可能性があります。

依存症の病態には、前述したように快楽物質であるドーパミンの過剰分泌が深く関わっています。

ドーパミンの分泌は抑制性の神経伝達物質であるセロトニンによって制御されていますが、日本人はセロトニン分泌の少ない遺伝子を持つ人の割合が世界で最も高く(※5)、それは報酬系(腹側被蓋野→側坐核)のドーパミンが過剰に分泌されやすいということを意味しています。

パチンコやガチャゲーなどの依存症ビジネスが異常なほど儲かるのも、こうした神経生理学的な背景が関係しているのかもしれません。

また性別で見た時、依存症は世界的に男性に多いことが知られています。

フィリップ・ジンバルドー著『男子劣化社会(原題:Man (Dis)connected)』では、ひろく先進国の間でひきこもりやゲーム中毒、不登校、ニートの男たちが増えていることが指摘されています。

本書では生理学、行動心理学、社会学など、多方面からその理由が考察されていますが、なかでも大きな原因の一つと考えられるのは、男性のドーパミン分泌能の高さです。

 数年前、スタンフォード大学のアラン・リース教授とその研究仲間たちは機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を使って、ゲーム中の脳に何が起きているかを調べた。それでわかったのだが、ゲームをプレイしているとき、女性に比べ男性はより大きな報酬の感覚を得ていて、二倍から三倍もゲームに病みつきになりそうだと感じていた。

 実験では、男性参加者たちの脳の大脳皮質辺縁系の中央 —— 側坐核、扁桃体、眼窩前頭皮質を含む領域 —— に女性たちよりはるかに大きな活性化が起き、しかも活性化の度合は獲得した陣地の量と連動していた。

『男子劣化社会』/ フィリップ・ジンバルドー、ニキータ・クーロン 著


男性ホルモン(テストステロン)はドーパミンの分泌を促進することが知られていますが(※6)、このことはかつて狩猟採集時代に男たちが狙った獲物を確実に仕留めるための集中力を発揮するのに役立っていたと考えられます。

しかし超常刺激のあふれる現代においてはそのドーパミン分泌能の高さが仇となってしまっていると言えます。

もともと民族的にドーパミンが過剰になりやすいうえ、男性ホルモンの影響でさらにドーパミンがドバドバになりやすい日本人男性は世界でもっとも快楽刺激に弱く、劣化しやすいと言えるかもしれません。

原始的でアナログな暮らしを取り入れよう

近年になり、文明は加速度的に進歩してきていますが、一方でその中心にいるはずの人類の大部分はむしろ退化し始めているのかもしれません。

理性の力をスポイルする超常刺激は、ある意味資本主義によっても後押しされてきました。

快楽行為を繰り返すうちに脳内で特定のキュー(刺激)に強く反応する依存回路が形成され、パブロフの犬状態となって深みにはまり抜け出せなくなってしまいますが、ギャンブルやガチャゲーなどはこうした依存形成のメカニズムを利用して課金する、れっきとした依存症ビジネスと言えます。

また近年特に問題となっているのは『スマホ脳』でも指摘されているSNSやインターネットへの依存です。

SNSやインターネットは無限の"あるかもしれない"を発生させる装置であり、それを意識させられ続けることは、脳内でドーパミンがとめどなく垂れ流されることを意味します。

スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツが自身の子供のデジタルデバイスの使用を厳しく制限していたのは有名な話ですが、そのことを強く意識しなければ、デジタルデバイスを使いこなすどころかデジタルの奴隷になってしまうのです。

かつて阿片に蝕まれ亡国の道を歩んだ清朝中国と同じ悲劇が、いまや落ち目のこの国の若者を見舞い、そうでなくても危うい未来にさらに暗い影を投げかけている。

『インターネット・ゲーム依存症』/ 岡田尊司 著


人間の身体というハードウェアは、基本的に野山を駆け巡っていた遠い昔の時代からアップデートされておらず(※7)、環境の激変した現代においては多くの脆弱性を抱えていると言えるでしょう。

アーティフィシャルな超常刺激はその代表例であり、我々のハードウェアがそう簡単に改良できない以上、現時点ではなるべくそれらを避けることぐらいしか対処法はないように思います。

そしてそれを実践しているのがお寺のお坊さんやメキシコの漁師(※8)、山奥ニート(※9)であり、彼らはアナログで原始的な暮らしをしているからこそ、精神的な豊かさを享受できているのかもしれません。

自然の中で暮らし、よく体を動かし、なるべく未精製の食品を摂り、人と語らう…

たまには原始的でシンプルな、人間の暮らしの基本に立ち返るのも大事なことではないかと思います。


※1:

※2: ジャンクフードは超カロリー満点であり食い溜めしておくため、タバコやドラッグは報酬系をジャックすることで、ギャンブルやスマホ、ゲームなどはもっと(生存に有利になる)お金、情報、アイテムが手に入る"かもしれない"という期待感を延々と抱かせることで、ドーパミンの過剰分泌が起こると考えられます。

※3:

※4:

※5:

※6:

※7:

※8:

※9:


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