オタクを保護すべき理由
ネットがつまらなくなったのはオタクがいなくなったせい?
先日はてなでこんなエントリを見つけました。
これに対する反応に以下のようなものがありました。
日本語のブログ記事は浅く表層的なものにとどまっているという主張に対し、その原因は遊び心の無さ、つまりは探求心や知的好奇心の不足にあるのではないかと言及しています。
これはそこから来るマニアックさ、ある種のオタク的要素が欠けているとも言い換えられるかもしれません。
実を言うとベテランネットサーファーであるこの私も同じように感じることがしばしばあり、それがこのことを覚えていた理由でもあります。
ただこれは以前は必ずしもそうではなかったようにも思います。
懐古厨と言われるかもしれませんが、スマートフォンが世の中に普及する前、インターネットへのアクセスがPCに限られていた時代には、読み応えのある論考やニッチなジャンルについて掘り下げたオタッキーな記事など、割とディープなコンテンツが存在していたような気がするのです。
世の中にはいろんな方面にすごい人がいるもんだと当時しきりに関心したことを覚えています。
かつてはネット人口も今ほど多くなく、アフィリエイトや広告収入などネットで収益を上げるビジネスモデルも一般的ではなかったこともあり、ネット上のコンテンツはいわばユーザーの自己満足の産物でしかありませんでした。
しかしかえってそのことが、ネットの世界をより味わい深いものにしていたのかもしれません。
翻って近頃のインターネットからはそのようなディープさが失われているように感じますが、その大きな要因の一つはやはりネットが金儲けの舞台と化してしまったことにあるように思います。
ドイツの哲学者ショーペンハウアーは、優れた文章の条件は何よりもまず書き手に明確な主張や思想があることだと言います。
コミュニティの一生のコピペ(※1)ではありませんが、アクセス数稼ぎやSEO対策のための記事が粗製乱造された結果、ディープなコンテンツの担い手であったオタク達は次第にその姿を消してしまったのかもしれません。
おもしろさの源泉はオタクの情熱にあった?
ところでここで言うオタクとは、ただ受動的にコンテンツを次々と消費していくのではなく、一つのジャンルや作品についてとことん突き詰めていく能動的なタイプのオタクのことです。
知的好奇心や探求心に富むこのタイプのオタクは、脳科学的には背外側前頭前野の活性が高いタイプと考えられますが、彼らのエネルギーの源泉となっているのはその並々ならぬ情熱ともいうべきものです。
その情熱をエンジンとして、本物のオタクはあるテーマやジャンルに関して細部にいたるまでを事細かく把握し、ほかに並ぶ者のないほどの知識を身に着けていることが多々あります。
そして四六時中そのことについて考えを巡らせているため、結果として彼らの頭の中には鋭い洞察や独自の考察が生まれるというわけです(※2)。
それらが結晶化したコンテンツは、アクセスアップやSEO対策を目的とした通り一遍のコピペサイトにはとても真似できるようなものではないでしょう。
かつてのインターネットとは、何の見返りがなくとも自分の意見を世に問いたい、同好の士と意見交換がしたいという純粋なオタク精神からなる世界だったのだと思います。
ディープなコンテンツの正体、それはオタクの情熱がネットの世界ににじみ出たものだったのではないでしょうか。
オタクが教養を身に着けるとイノベーターになる
オタクの類い稀な情熱が、ある分野についての比類ない知識を呼び、彼らに深い洞察をもたらす。
このことは何も漫画やアニメなどサブカルチャーの領域に限ったことではありません。
あらゆる分野における創造や発明についても同様のことが言え、ある意味で歴代のイノベーター達も例外なく何らかの分野のオタクだったと言えるでしょう。
“神は細部に宿る”と言いますが、一つのテーマについて習熟する、誰よりも詳しくなるというのはイノベーションを起こすための必要条件の一つと言えるかもしれません。
武道などの『守・破・離』と言われるプロセスも、「守」、すなわち王道と言われる型を忠実に身に着ける段階を確実にクリアするところから始まるのです。
しかしその次の「破」のステージでは、外部から新しい要素を取り入れることが必要になってきます。
「守」で身に着けた基本の型に「破」で取り入れたアイディアを吹き込むことで「離」、すなわちイノベーションが生まれるのです。
しかし重要なのは、「守」という土台がしっかりしていないことには「破」も「離」もその後に続かないということです。
「守」の土台を築くことだけでもまずもって容易なことではありませんが、その底知れぬ情熱によりある分野を極めたオタクはその土台の上に立つことができた稀有な存在と言えるかもしれません。
「オタクには親切にしよう、いつか彼らの下で働くことになるだろうから」という有名なジョークがありますが、あなたの身近で虐げられているオタクも、ひょっとしたら将来大物になるイノベーターの卵かもしれません。
そっと保護してあげましょう。
※1:
※2:
宮崎駿のジブリ作品をこよなく愛す自称オタキングこと岡田斗司夫氏の考察などはその良い一例だと思います。
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