冷静と情熱の間で
資本主義は大航海時代に始まった?
資本主義の起源には諸説あります。
一般的には18世紀のイギリスの産業革命に端を発したとされているようです。
しかし私は15~16世紀にかけての大航海時代には既にその原型があったのではないかと思っています。
当時のヨーロッパでは、調味料や防腐剤として用いられる香辛料が非常に貴重なものとして扱われていました。
そこでポルトガルやスペインを中心とした西欧諸国では、多くの交易船が香辛料の産地であるアジアの大陸を目指したと言われています。
その時代、新たな富を求めて多くの開拓者が海原に飛び出そうとするわけですが、長期にわたる航海では多くの物資が必要になります。
しかしほとんどの開拓者たちはそれを賄うだけの資金を持ち合わせていませんでした。
そこで当時の資本家が、その交易船が航海に成功したあかつきには持ち帰ってくるであろう莫大な富の大半を見返りとして、彼らに出資をしていたというわけです。
私はここに現在の資本主義の原点があったのではないかと考えています。
ハイリスク・ハイリターンの原則
大航海時代に名をあげた人物として最も有名なのはおそらくクリストファー・コロンブスでしょう(ヴァスコ・ダ・ガマやマゼランの名前を挙げる人もいるかもしれませんが)。
彼は当時のスペインの援助を受けて、インドを目指して旅立ちますが、偶然にもアメリカ大陸(正確にはバハマ諸島)にたどりつきます。
そこで多くの財宝を手にして祖国に持ち帰った(その実態は先住民への侵略行為にあったようですが…)コロンブスは、一躍英雄になったというわけです。
さてコロンブスは当初の目的地とは違ったとはいえ、運よく新大陸にたどりつき、成功者として後世に名を残しました。
しかしその陰には、一度祖国を出たきり還らぬ人ならぬ還らぬ船となった難破船が数え切れないほどあったことでしょう。
なぜそんなリスクを冒してまで、多くの船が海へと旅立っていったのでしょうか。
その理由はやはり、その先に莫大な富という報酬があったからでしょう。
もし航海に成功したとしても、手にできる報酬がたかが知れたものでれば、命をかけて海に出る愚か者はいなかったことでしょう。
無限大とも言えるリターンがあると考えたからこそ、それだけのリスクを冒して多くの開拓者たちが海原へと旅立っていったというわけです。
さて、このことは現代に生きる私たちが投資について考える上でも一つの参考になります。
投資の世界の原則はハイリスク・ハイリターン。
つまり大きなリターンを狙うのならば、それ相応のリスクを負う必要があるということです。
京都大学の客員教授でありエンジェル投資家としても有名な瀧本哲史先生が、ベストセラーとなった著書『僕は君たちに武器を配りたい』の中で、投資家としてのスタンスについて持論を述べている箇所があります。
失敗に投下したお金は、大きな成功で取り戻す。
シリコンバレーの投資家たちはリスクを回避することよりも、リスクを見込んでも投資機会を増やすことを重視する。アメリカ人の投資家に「ダメな案件はひとつだけだ」という話をすると、「それはリスクをとらなさすぎだ。もっとたくさんリスクをとりにいけ」と叱られる始末だ。
投資家として生きるのならば、人生のあらゆる局面において、「ローリスク・ローリターン」の選択肢を選んで安全策をとるより、「ハイリスク・ハイリターン」の投資機会をなるべくたくさん持つことが重要となる。
この瀧本先生の考え方は、千三つの新興ベンチャー企業に資金を投じるエンジェル投資家として成功を収めるうえで非常に重要なものだと言えるでしょう。
一つ一つの投資は非常にハイリスクでも、その投資機会をいくつも持つことでポートフォリオ全体としてはリスクが低減され、結果としてリスクを限定したうえでミドルリターンを狙えるということではないかと思います。
現代ポートフォリオ理論とも共通する考え方ですね。
冷静と情熱のあいだ
ハイリスク・ハイリターンの投資案件を複数持つことで、全体としてローリスク・ミドルリターンを目指す。
私の現在の投資方針は、先の瀧本先生の考え方を参考にしています。
10投資したらそのうちの9つは泣かず飛ばずかもしれない。でもそのうちの一つが大当たりしてくれればそれで良いという発想です。
実際にはそれよりもだいぶ保守的なポートフォリオになっていると思いますが、それでも基本的にはそんなスタンスで投資をしていきたいと思っています。
瀧本先生の投資哲学に共感するのは、そこにロマンを感じるからでもあります。
たしかに安定した資産運用を目指すうえでは、堅実な投資というのも悪くありません。
しかしまだ見ぬ新大陸に思いを馳せた大航海時代の投資家たちのように、そこに夢を見ていたいのです。
ただし全財産を一隻の船につぎ込んだ投資家がいなかったように、適切に分散するというリスク管理は怠ってはなりません。
お宝株への熱い思いと慎重なリスクマネジメント。
そんな冷静と情熱の間に生きる投資家でありたいと思います。
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