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HSPについて思うこと

HSPという概念は少し前からメディアなどでも取り上げられるようになり、今では広く知られるところとなりました。

芸能人のカミングアウトなども話題になりましたが、HSPの提唱者であるアメリカの心理学者エレイン・アーロン博士によると、人口の約20%程度が該当するということのようです(※1)。

気の持ちようの問題ではないかと言われたりもしますが、HSPの特徴であるSPS(Sensory processing sensitivity)は人間だけでなく、魚、鳥、犬・猫、馬、霊長類などあらゆる生物種に存在することが知られています。

このSPSの生物学的意義としては、注意深いという特性が生存戦略の一種であること、また集団における炭鉱のカナリア(※2)的存在として機能することなどが言われているようです。

HSPに関する研究はこれまでに複数行われており、その関連遺伝子としてセロトニントランスポーター遺伝子、ドーパミン関連遺伝子などが指摘されているようです(※3)。

また画像研究では、エピソード・イメージ記憶に関わる楔前部、ミラーニューロンの存在する下前頭回、行動計画を担う運動前皮質をはじめ、感覚皮質(知覚)、帯状皮質(注意)、前頭前皮質(認知処理・制御)、前障(知覚統合)、島皮質(共感)、扁桃体(感情)、海馬(記憶)など、広範な領域の活動亢進が報告されています。

まさにHighly Sensitive Brain、敏感な脳と言えそうです。

HSPはたまに発達障害と混同されることもあるようですが、自閉症スペクトラムでは島皮質や帯状皮質の活動性が低下していることが知られており(※4)、脳科学的にはむしろ対極に位置する概念と言えるかもしれません。

さてHSPと言うと繊細というイメージが先行していますが、HSPの特徴はそれだけではありません。

先のアーロン博士は、HSPに共通する"DOES"と言われる以下の4つの特徴を挙げています。

・Depth of processing(深い処理)
・Overstimulated(易刺激性)
・Emotional reactivity and high empathy(情動の強さ、高い共感性)
・Sensitivity to subtleties(細微への感度の高さ)

HSPはこの4つの特徴すべてに当てはまるとされていますが、これらの特徴は前述した脳の活動性の違いをよく反映しているように思います。

一般に繊細というイメージから連想されるのは、O(易刺激性) や S(細微への感度の高さ)ですが、これらは主に原始的な脳の活動性の高さを反映していると考えられます。

以前にセロトニン分泌の少ない人は情動を感じやすい傾向にあるということに触れましたが(※5)、HSPの関連遺伝子としてセロトニントランスポーター遺伝子の存在が指摘されているように、この神経生理学的な特徴が繊細さと大きく関係しているのではないかと思います。

一方であまり知られていない特徴として"DOES"のD、思考や処理の深さがあります。

この特性を司るのは脳の最高中枢である前頭前野であり、HSPは繊細さと共に思慮深さも持ち合わせていると言えます。

HSPの脳、Highly Sensitive Brain は言うなれば処理速度に優れるものの消費電力が大きく、バッテリーを消耗しやすいCPUであり、航続時間(持久力)で勝負するのには向いておらず、その最大瞬間風速を活かした短期決戦(一点集中)を志向する方が吉と出やすいのかもしれません。

ところで先のようなHSPのパーソナリティに近い国民性を持つ国としては台湾が挙げられると思います。

台湾は日本や韓国、中国と同様にセロトニントランスポーターS型アリル保持者の割合が高く、感情社会になりやすいという背景は共通していますが、一方でEQ(徳)を重視する文化の存在(※6)は、理性による感情のコントロールがしっかり効いているということを示唆しています。

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実際に働いてみると、旅行客として訪れるのとは全く違う台湾人の顔を、たくさん見ることになる。新しい価値観との出合いの連続だったわけだが、その中でも私が特に大きな学びだったのが、「EQを重視する」という文化だ。
台湾では、一般的に人を褒める時などに「あの人はEQが高い」などというように使われている。メディアや大衆からの心ない言葉にタレントがEQの高い対応で返すと、好感度が一気に上がる。
EQが重視されるのは、何もタレントや著名人だけではない。一般的な職場でも、たとえば人前で部下を叱るような上司は「EQが低い」とみなされて尊敬されない。

メンツを大事にする台湾人にとって、どれだけその人が落ち度のあるミスをしたとしても、人前で叱って部下のメンツを潰すような上司は、「自分の感情をコントロールできない人間」だと思われるのだ。だから、どんなにIQが高くても、EQが高くなければ尊敬されない。
先日もベビーカーを押して歩いていたら、スーツを着た私よりもずっと若い男性から「そこのママ、もっと歩道の内側を歩かないと危ないよ」と声をかけられた。注意された、というよりも友人に話すような口調だった。

そして皆が、声をかけ終わると何事もなかったかのように去っていく。ごく自然にこういった振る舞いができるのは、對事不對人の概念が社会に浸透しているからだったのかもしれない。


対して低EQ社会では、HSPは特にストレスを抱えやすく、社会からドロップアウトしてしまいやすいのではないかという気がします。

そして実社会での居場所の無さは、アルコールやギャンブル、インターネットなどへの依存と強く関連すると言われていますが(※7)、HSPがそれほどストレスなく自然体でいられるような場所というのは少ないのが現状ではないかと思います。

身近に一箇所でもそういったオアシスのような場所を作れると、砂漠での旅もだいぶ楽なものになるのかもしれません。

そのような活動(オアシス作り)に、今後は自分も少し携わっていければと思っています。

※1:

※2:炭鉱で発生する有毒ガスをいち早く察知して鳴き声が止む性質を、坑夫が毒ガス検知に利用していたことから転じて、何らかの危険の前兆をいち早く知らせる存在のことを指します。

※3:

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※5:

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