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withコロナ時代のお手軽メンタル強化術

セロトニン欠乏脳という国民病

以前、日本人は民族的にセロトニンという神経伝達物質の分泌量が少ないということに触れました(※1)。

セロトニンは主に神経の興奮を抑える抑制性の神経伝達物質で、ストレス中枢でもある動物脳(大脳辺縁系)をなだめる働きがあります。

しかし日本人はセロトニントランスポーターというセロトニンのリサイクルポンプの数が少ない遺伝子を持っている人の割合が世界で最も高いため、脳内セロトニン濃度が低くなりやすく、原始的な動物脳が興奮してしまいやすいのです。

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セロトニン神経活性の低さは周囲の環境変化に敏感に反応するという性質につながっており、厳しい生存環境においてはこのような性質は生存に有利に働きます。

反面、ストレスを感じやすく(慢性ストレスに弱く)、またセロトニンによって抑制されているドーパミンの過剰分泌をもたらすため衝動性や欲求が抑えられず、タバコ、アルコール、過食、ギャンブル、誹謗中傷(正義中毒)などあらゆる依存行為にハマってしまいやすくなります(※2)。

特に男性の場合は男性ホルモンの影響でさらにドーパミンが過剰になりやすく(※3)、日本人男性は世界で最も依存症になりやすいと言えるかもしれません。

さてこのように現代では何かとマイナスに働きやすいセロトニン欠乏脳ですが、その対策が無いわけではありません。

セロトニン神経の活性度(脳内セロトニン濃度)は生まれつきのリサイクルポンプの数だけで決まっているわけではなく、環境要因によっても大きく左右されるのです。

セロトニン神経を活性化するには

セロトニン神経細胞は主に中脳の縫線核という場所に存在していますが、そこから脳内のいろいろな場所に軸索(触手のようなもの)を伸ばし、その神経末端からセロトニンを分泌しています。

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出典:https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2005/00004/contents/0003.htm


このシナプス前神経から分泌されたセロトニンがシナプス後神経の受容体に結合することで、電気信号が次の神経細胞に伝わるという仕組みになっています。

先にセロトニン神経は動物脳をなだめる働きがあるということを書きましたが、ストレス中枢である大脳辺縁系に主に存在している5HT1A受容体は抑制性のシグナル伝達に関わっており、セロトニン神経が活性化するほど辺縁系は抑制されることになります。

さてそのセロトニン神経ですが、これまでの研究により主に3つの刺激で活性化されることがわかっています(※4)。

・高照度の光暴露
・リズム刺激
・グルーミング

縫線核のセロトニン神経細胞体は、通常時はおよそ3〜5Hzという低頻度で発火(シグナルを発生)していますが、上記のような刺激が加わることでより高頻度に発火することがわかっています。

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出典:https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2005/00004/contents/0004.htm


神経細胞体の発火頻度が上がるということは、その末端からより高頻度にセロトニンが分泌されるようになるということですね。

しかし厄介なのは、一時的にセロトニン分泌が促進されてもその効果が持続するわけではないというところです。

うつ病の薬としてよく使われるSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)や5HT1A受容体刺激薬は、脳内のセロトニン濃度を高めたり、セロトニン受容体を刺激することで抗うつ効果を発揮する薬剤です。

しかしこれらの薬の効果が出るのは早くても1〜2週間程度かかることが知られています。

その理由は脳内セロトニン濃度を一定に保とうとする恒常性があるからです。

具体的にはセロトニン神経細胞体(シナプス前神経)には自己受容体というセロトニン濃度の監視役が存在しており、脳内セロトニン濃度が高まってくると(自己受容体にセロトニンが結合し出すと)、「これはセロトニンが出過ぎだ!」と判断してセロトニン神経の発火を抑えてしまうのです(ネガティブ・フィードバック)。

つまり普段の脳内セロトニン濃度が低い人の場合、一時的にセロトニン分泌が増えても自己受容体の作用により、なかなかセロトニン神経の活性が高まらないのです。

しかしこの自己受容体は頻繁に刺激されているうちに「あれ?今の環境だと、もっとセロトニン濃度が高い方がいいのかな?」という感じで次第に監視役の数が減っていきます。

するとセロトニン神経のブレーキ役が少なくなるため、徐々に脳内セロトニン濃度が高まっていくというメカニズムがあるのです。

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出典:https://nippon.zaidan.info/seikabutsu/2005/00004/contents/0008.htm


つまり日常的にセロトニン神経を活性化するような刺激を取り入れ、自己受容体を刺激し続けてやることで徐々にセロトニン神経は活性化していくということになります。

お天道様は最高のメンタルトレーナー?

ところで北欧など緯度が高く、特に冬の季節に日照時間が短くなりやすい地域では、冬期うつ病という季節性のうつが大きな問題になっています。

これは光刺激が不足するために、セロトニン神経の活性が弱まる(セロトニン分泌が不足する)ことが主な理由と考えられています。

このような地域では冬季うつの治療として光照射療法が取り入れられているところもあり、実際に効果を上げているようです(※5)。

光を浴びるだけでうつが治るとは、なんてお手軽なのでしょうか。

しかしこれは見方を変えれば、日照時間の短い地域でなくとも日光を浴びない生活が続いているとメンタルの調子を崩しやすいということを意味しています。

屋内でも四六時中蛍光灯の光を浴びているじゃないかと思うかもしれませんが、セロトニン神経細胞が反応する照度はおよそ2500ルクス以上とされており、これは通常自然光でしか実現できない明るさのようです。

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出典:https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20150107/430923/?P=4


昼夜逆転して夜型生活になった人が体調を崩しやすかったり、眠れなくなったりするのにはやはり理由があるということでしょう。

前述のようにセロトニン神経はリズム運動によるリズム刺激や、グルーミング(触れ合い)によっても活性化しますが、この中ではただ日向ぼっこをすれば良い日光浴を続けるのが一番お手軽です。

ちなみに日光浴は朝、短時間を勧められることが多いようですが、セロトニン合成は照度と照射時間に相関することがわかっているため(※6)、日中はなるべく明るい場所で過ごすのを心がけるという方が良いかもしれません。

大まかに言えば、照度X(かける)照射時間に比例して治療効果は高くなる。1万ルクスの光を1時間程度浴びると確かな効果が得られる。


コロナ禍にあって屋内で過ごす時間が増えた人は非常に多いと思いますが、メンタルの不調を感じている場合はメンタルクリニックなどを受診する前にまず、一番身近なメンタルトレーナーにお世話になってみましょう。

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