推すことへの覚悟

あなたにとって推しとはなんだろうか。
私にとって推しとは憧れで、親友で、支えで、信念で、
そして…枷である。


2022年の12月15日、私は初めて格ゲーに触れた。
そう、ggstのクロスプレイオープンベータテストである。
未経験のリア友と3人で始めて対戦ゲームとしての、ポテンシャルに気づく。
デザインの良さ、音、エフェクト、
クソデカカウンター、全てが気持ち良い。
毎秒快楽物質が分泌されているのがわかる。
いやだって脳内アラートガンガンなってるもん。
正直本当に合法なのかどうか疑うレベルだった。
制作はアークシステムワークスとかいうらしい。
怖いものがないのかこいつら!?
時代が違えば即お縄についているところである。
なんやかんやで最初のキャラを決めてトレモに打ち込み、リア友と試合をして初鯖にたまたま潜り込み、ストーリーを履修し始めたその頃事件は起きた。

なんだこいつ!?!?!?

なんだ?このツノ生えばってんサングラスマンは?
もともと世界を救った始まりの魔法使いで?
自我の崩壊の後イカれ野郎になり?
己の感動のためだけにドラマを求める
最強の厄介消費型オタクみたいなやつで?
挙げ句の果てに"格闘"ゲームにおいて"格闘"をするどころか
即着弾する銃弾を撃つダァ?
それで?超必殺技がゲーム内屈指のかっこよさ?
技名が「機械仕掛けの神」?コンボで上手ぶれる?
触ってしまえば連携が最強?難易度を度外視すれば自由度の塊?
全キャラの中でぶっちぎりのヒール?
BGMはジャズっぽい跳ねるリズムのピアノから始まり、
ハードロックとオーケストラが共存するとかいう前代未聞の曲!?!?
そしてまるで彼なりの生命讃歌のような歌詞?

をいをいをい…

最高か?
口角が青空に突き刺さったままこのサングラスマンの手をとったことに気がついた頃にはもう手遅れであった。


この男、手がかかりすぎる…
hsボタンの通常技がない。
通常技単体で見ると破壊力があるとは到底思えないし、
後隙は3億年あったりする。
某悪男でいう遠s5hsBRのレベルの基礎コンが化け物難易度。
状況ごと、ゲージごと、リソースごとにコンボ判断を求めてきて
ミスったら状況最悪、その上使ったリソースの回復を使い手に一方的に求めてきて判断をミスるとボタンが一個なくなったレベルで弱くなる。
あれをやれこれをやれでおまけに家計簿(リソース)はこっちに丸投げ、
本人はひ弱なのである。

????????????

いくらなんでも求めすぎだろ!!!!!!!!!!!!!!
この令和の時代にまるで博物館から出てきたようなコッテコテのダメホストみたいな男。なまじ顔がいいからさらにタチが悪い。

ゑゑ…

しかし、惚れた側が負けとはよく言ったもので、
手を引くという選択肢は私の辞書にはなかった。
なんと情けないナポレオンであろうか…
(いや、負けてるんだけどね…)

幸い、トレモは苦痛ではなかった。
この男を輝かせるためならむしろ誇らしさすらあった。
毎日、毎時間成長を感じるところも良かった。
トレモをすればするほどこの男の輝きは増していった。
そして一旦満足して試合に臨む頃に第2の事件は起きる。

全く勝てない。なかなか勝てないのではない。全く勝てないのである。
おかしい。この男最強なのではないのか?
そこで漢らふねまき、ある事実に気づく。

俺は最強ではなくね?

銀河系を揺るがすほどの気づき(当社比)

格闘ゲームってキャラ×プレイヤーで試合してるんだから
0に無限かけても0じゃね?
いや。落ち着け。練習が足りないだけだ。
0より大きくなれば無限じゃねぇか。
コンボミスもあったしと思い直し悔しさをバネにトレモに行きそしてまた試合へ。

勝てない。幾度となく負けるのである。
悔しい。なぜ?どうして負けている?俺の推しはなぜ地に伏している?
相手のキャラはドヤ顔でセリフを吐いているのに?
始めた期間は変わらないはずなのに?

そこでまた気づきを得る。
このゲーム、展開早くね?ステージ狭くね?低空ダッシュ音速じゃね?
体力ワンタッチで半分じゃね?このゲームスピードで地上の技の振り合い、対空、ゲージとリソースごとのコンボ判断をミスなしで?

いくらなんでも求めすぎだろ!!!!!!!!!!!!!!

はぁ!?何個求めてんだこいつ!!!
ジョン・フォン・ノイマンでもギリできるかできないかぐらいのことを一般人に求めてるぞ!!

現代のコンピュータの父ノイマン君

勝つのに要求されることヤバすぎ!
欲望の化身!
この全身ブランド物男!
さすがに付き合いきれんわ…無理やわと思ったのも束の間…
他のキャラを使い出して半刻。
おい、例の男のコンボしてるぞ!?!?他のキャラなのに!?!?

そう、手遅れである。
すでに彼専用の体になりつつある。
彼を悦ばせるためのカラダになっていたのである。
彼、やめてって言ってもたくさん求めてくるし…
もう無理って言っても上手くなりたいなぁってつぶらな瞳で見つめてくるの…

体が持たぬ…

そうやって彼といるのが当たり前になってもまだまだ勝てない頃に心境の変化が起きる。
俺の推しはこんなものじゃない…
俺の推しはこんなもんじゃない…
俺とこいつはこんなもんじゃねぇ…

キャラを変えるなんて選択肢は全く浮かばなくなり代わりに、
悔しさと怒りとやるせなさと嫉妬と後悔の波に襲われるようになった。
こいつはいつだって俺と戦ってくれるのに。
よくもまぁ毎日毎日殴ってくれやがって。
クソが。全員ぶん殴ってやる。

この裏でゲロ吐くほど泣いてる(懺悔)

気がつけば毎晩のようにこのゲームを遊び、
トレモトレモプレマトレモタワートレモトレモのように鍛錬を繰り返し、
湯水のように時間を使いすでにプレイ時間は1500時間を超えた。
これまでの日常生活とは全く違う生活を送り、気がつけば自キャラの連携や
他キャラに対して有効な動きを考えてばかり。
もうこのゲームから逃げられない。

逃げられないのに逃げたくないのが一番やばい

もちろん折れそうになる日は星の数ほどある。
自分と同じ頃に始めた人たちが上に行けば行くほど、
自分より後に始めた人が急成長を見せれば見せるほど、
思う。思ってしまう。人間は比較する生き物だから。
いっそ出会わなければこの苦しみは生まれなかっただろう、と。
いっそ諦めてしまえばこの苦しみも消えていくのだろう、と。
それでも。
それでも。
こいつと上に行きたい。
俺とこいつはやれるんだと知らしめたい。
出会った推しが最強であることを証明したい。
自分は間違ってないと実感を伴って叫びたい。

私にとって1番無念なことは、
推しの可能性を疑ってしまった時でも、
グッズを手に入れられなかった時でも、
推しと共に無様に惨敗してしまった時でもない。

推しとの感動を少しづつ忘れ、思い出に風化させてしまうことである。
まだ推しは輝けるのに、現状に満足して、少しづつやらなくなり、
時間がたったいつかの夜に、「あの頃は楽しかったなぁ」
なんて一人ごちるのか?

冗談じゃない。

今この瞬間の悔しさを、悲しさを、勝ちたさを。
過ぎゆく時間は解決してくれない。
なら、戦うしかない。見せつけることでしか、勝つことでしか叶わない。

戦え。塔に登れ。

自分の中でこの罪深いゲームが枯れる前に。
推しを誇るために。
推しという花を咲き誇らせるために。

咲け。推しよ。






いや、長男だけどマジで耐えられない時ある…
みんなもっとオラに元気を分けてくれ…

痛すぎだろ…

#第二回シュンタックス文学賞
#ggst

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