生活保護(4)78条費用徴収決定の及ぶ範囲

今回は、生活保護法78条に基づく費用徴収決定が及ぶ範囲について考えます。
生活保護法78条1項は以下のような条文です。

不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者があるときは、保護費を支弁した都道府県又は市町村の長は、その費用の額の全部又は一部を、その者から徴収するほか、その徴収する額に百分の四十を乗じて得た額以下の金額を徴収することができる。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000144

一般的には「不正受給」と考えられると思います。収入を認識していたけれど申告をしなかったような場合がこれにあたります。
78条に基づく費用徴収決定(不正受給によって受けた保護費を返すように命じる決定)は、世帯主を名宛人として出されます。
ここでの問題は、世帯主(例えば夫)が亡くなった場合、その他の世帯員(例えば妻)が相続を放棄しても、返還義務を負うのかという点です。
このような場合でも、妻にも返還義務があるとして返還を求める事例があるようですが、実施要領等を見ても根拠が明確ではありません。返還を求める福祉事務所は「世帯主が保護費を受け取るのはあくまでも世帯全員の代表としてであって、保護費は世帯全員に対するものであるから、世帯主以外の世帯員にも返還義務が及ぶ」というような考え方を取っているようです。
しかし、78条は「保護を受け、又は他人をして受けさせた者」と特定の個人を指していることからすると、この程度の理由付けで世帯主以外の世帯員にまで返還義務が及ぶかには疑問があります。

この点について参考になるのが、熊本市が出している問答集に収録されている「離婚した場合の法第78条徴収金の支払い義務」という問答です。
この問答では、生活保護法63条では世帯に対して費用返還決定を行うとされているのに対して、78条では個人に対して徴収決定を行うこととされているため、世帯主以外に78条に基づく義務が当然及ぶわけではなく、「不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者」に当たるか、具体的には「不正受給の意図」があったかから検討するとしています(なお、問答の事案は、世帯主である夫が転居費を受給しながら転居せずに費消し、そのことを妻が把握していなかったというものでした)。
ですから、世帯主以外の人物から相談を受けた際は、不正受給の意図があったかどうかを検討し、もしそれが無かったと考えられる場合は、78条の費用徴収義務が及ばないとして福祉事務所と交渉していくことが考えられます。

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