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献血ポスター問題はおっぱいの問題じゃない

2019年10月、日本赤十字社が漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』とコラボし、宇崎ちゃんのポスターを掲示したりクリアファイルを頒布したりするキャンペーンを行った。

このポスター、ごうごうと炎上した。ポスターというよりもこのポスターを批判した弁護士が炎上した、の方が正しいだろうか。

私もこのポスターには問題があると思う。
ただ太田弁護士と異なり、私が問題に思うのは宇崎ちゃんのセリフの方である。

漫画の主人公である宇崎ちゃんは、

センパイ!まだ献血未経験なんスか?
ひょっとして……注射が怖いんスか?

と言っている。

私はキモオタクなので、宇崎ちゃんがウザイ口調でこういうことを言っているのも容易に想像ができる。

が、これは献血に参加していない人を過度に責めたり馬鹿にしたりするような物言いではないだろうか。

大前提として、献血は自分の意思でやるものである。やるのもやらないのもその人の自由意志である。
それに注射は怖い。私は何度も献血に行ってるが注射は怖い。当たり前だ。20代半ばにもなって健康診断の採血で暴れて看護師さんに後ろからホールドされる人間だぞ私は。

公的なルールにも「献血は自由意志で」と明確に書かれている。

厚生労働省が公布した「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律の施行について」を見てみよう。これは献血に携わる業者が守らなければいけないルールである。

法第2条第2項関係
 「献血をする者」とは、「日本における「自発的な無償供血」の定義及び考え方」(平成15年5月15日付け医薬発第0515024号医薬局長通知)に定める「自発的な無償供血」の定義及び考え方に沿って採血が行われた者をいうこと。「その他の被採血者」とは、それ以外の方法により採血された者をいうこと。

ふむ、自発的である必要があるらしい。

では次にここに書かれている「日本における「自発的な無償供血」の定義及び考え方」についても確認したい。

 我が国において「自発的な無償供血」とは、「供血者が血液、血漿、その他の血液成分を自らの意思で提供し、かつそれに対して、金銭または金銭の代替と見なされる物の支払いを受けないことをいう。この支払いには休暇も含まれるが、供血及び移動のために合理的に必要とされる休暇は含まれない。少額の物品、軽い飲食物や交通に要した実費の支払いは、自発的な無償供血と矛盾しない。」とする。

まとめると、
・献血をするかどうかは自らの意思で決める
・献血で金銭のやり取りが発生してはならない
ということらしい。

またもうひとつ、国際的な基準として、国際輸血学会の出す「献血と輸血に関する倫理綱領」をみてみよう

移植用造血組織も含めて、献血はいかなる場合も自発的かつ無償でなされるべきである。決して献血者に強制すべきではない

そう、決して献血者に強制すべきではないのだ。

なぜ献血は自由意志でやらなければいけないのか。過去にあった「金銭の受給を伴う献血」では、健康被害が問題になった。

健康を害するほど売血を繰り返した人の血液は、輸血しても効果が少ないばかりか、輸血後肝炎などの副作用を招きがちで、これが大きな社会問題となりました。また、自分の生命ともいえる血液を切り売りしたり買い入れたりすること自体、人身の売買につながるとして社会の批判を浴びたのです。

血液事業の歴史│大阪府赤十字血液センター│日本赤十字社

これ、輸血を受ける側の健康被害もさることながら、体調不良にも関わらず献血した側も健康被害を被っているのだ。

私が思うのは、献血を強制すると、立場の弱い人から血を抜かれていくことにならないだろうかということだ。献血を強要して健康被害を起こすのは、恐らく輸血を受ける側ではなく献血する側だ。それは避けなければならない。

だから献血は自分の意思でやらないといけないのだ。
自分の体調が万全で、他者に血を分けてもいいなと思えるぐらいの余裕があるときに来てくださいねというシステムになっているのだ。

輸血の健康被害は日赤がきちんと検査しているので、そんなに問題にはならないのではと思う。もちろん感染症にかかっていることを分かっていて献血に行くのは論外だが。

各種検査項目

血液型検査:ABO血液型検査、Rh血液型検査、不規則抗体検査、HLA検査(一部)
抗原・抗体検査:梅毒血清学的検査、B型肝炎ウイルス検査(HBs抗原、HBs抗体、HBC抗体)、C型肝炎ウイルス検査(HCV抗体)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)検査(HIV-1、2抗体)、HTLV-1抗体検査、ヒトパルボウイルスB19検査
核酸増幅検査:B型肝炎ウイルス検査、C型肝炎ウイルス検査、HIV検査
生化学検査
血球計数検査

検査|安全な血液の供給のために|血液事業|活動内容・実績を知る|日本赤十字社

宇崎ちゃんに釣られてくるオタクの血液は汚いなんてのもただの偏見だ。

宇崎ちゃんの「献血怖い人を笑うかのような物言い」を見て「献血に行かないのはダサいのかな」と思い献血に行く人は、果たして本当に自由意志なのだろうか。
宇崎ちゃんの言葉の裏に「注射怖いのだっさww献血行けよwwww」という言葉が読み取れたりしないだろうか。献血しない人を追い詰めていないだろうか。

また、献血できない人がいることも忘れないで欲しい。怖くて出来ないんじゃない、体重が足りなかったり、血圧が低かったり、血管が細かったりして献血ができない人間もいる。だから安易に献血を煽るべきではないのだ。先輩はパッと見献血できそうな体をしているが、過去に大きな病気や怪我で輸血を受けたり、海外に長期滞在していたりしたかもしれない。

ここまで言っているが、宇崎ちゃんやその他普通の人が会話の流れで「献血怖いの?ダサ!行けよ!www」と言うのは大きな問題ではないと思う。
これを倫理規定や献血に関する法律を遵守しなければいけない日赤がメッセージとして出してしまったから問題なのだ。

たとえば宇崎ちゃんのセリフが
「先輩献血行くんスか?じゃあ私も一緒に行くっス!」
なら問題なかったと思う。先輩が自分の意思で献血に行こうとしていることが読み取れるからだ。

私はよく献血をしにいく。体重や血圧の問題できちっと400ml取れたことはない。申し訳ないなと思いながら200ml献血をする。最近は成分献血に何回か挑んだが血圧の低さと血管の細さで2回断られた。

私が献血しに行く理由はぶっちゃけ自傷行為だ。
手首を切るよりも安全で傷跡も残りにくい。看護師さんに優しくしてもらえるし、いいことをした感で自己肯定感も高まり、アイスも食べられる。ついでに人助けも出来ているらしい。いいことづくめだ。献血はメンタルにいいぞ。

今回の宇崎ちゃんポスターの件で、献血に行く人が増えてたらいいなと思う。宇崎ちゃんのセリフをみて行かなきゃ…となるのではなく、宇崎ちゃんとコラボしてる!かわいい!みたいなポジティブな気持ちで自発的に行く人が増えたらよかったなと思う。問題はあったけど、結局結果オーライだったのかな。
自傷行為でも良いことしてみたい精神でもなんでもいい、クリアファイル欲しいでもいいんだ、献血に行きたいなって思ったら行くといいと思う。あくまでも体調のいいときに自発的にね。

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