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PERFECT DAYS

はじめて市内にある映画館に車で向かった。
観たかったヴィム・ヴェンダース監督作「PERFECT DAYS」。

世の中に存在する職業のなかで、公共のトイレの清掃員さんはいちばん尊敬している。きっかけは品川駅にあった店舗で勤務していた頃、早朝の駅のトイレは恐ろしい汚さなのに、清掃後は最初からなかったかのようにきれいにされていることにいつも感動していた。それ以来、公共のトイレを利用する時はいつも清掃して下さることに感謝の気持ちを抱いている。

数年前に渋谷区民だった頃、広報誌で知ったTHE TOKYO TOILETプロジェクト。さらにヴィム・ヴェンダースがそのプロジェクトをテーマに映画を手掛けるというのを知って、「なぜ?」と思ったのだった。

そして渋谷を離れて数年たち、映画が公開されたこと知る。予告編を観ると想像していたものと全く違っていた。これは観ないといけない気がした。

主人公の平山さんは渋谷区TTT専門の清掃員。住まいは押上にある古い二階建てアパート。仕事ぶりから佇まい日々淡々と繰り返される暮らしのすべてが美しくて、観ていて憧れの気持ちを強く抱いた。無口な平山さんはめったに口を開くわけでもなく、表情が豊かなわけでもない。それなのにほぼセリフもなく淡々と進んでいく日常を観ているだけで、不思議といろいろと伝わってくる。

いちいち説明なんてする必要はないのだ。伏線なんて回収しなくても、そもそも伏線なんて日常には必要ないのだ。

軽ワゴン車で通勤する行き帰りに流すカセットテープの音楽がまた素敵だった。日々同じ繰り返しのようで微妙に違う高速道路を走る車窓の景色と運転する平山さんの表情に音楽がとても合っていて、うっとりながめた。

誰のなんていう曲なのか知りたくて、必死にエンドロールを目で追ったけど間に合わなかった。なのでひさしぶりにパンフレットを購入した。
帰ってからプレイリストを確認ながらApple musicで検索し、曲を聴き返した。聴きながら東京の景色や平山さんのつつましく美しい生活が目に浮かんできた。

フィクションなのにドキュメンタリーのようであり、ロードムービーのように東京が美しく映し出されていた。東京で生まれたものの、東京での生活に疲れ東京から離れたけど、ヴィム・ヴェンダース監督が映し出す東京はなんだか懐かしくて、こんな東京好きだったなあって思い出させてくれた。

パンフレットに掲載された監督のインタビューなどもじっくり読み返したら、もう一度観たくなった。
きっとその時の自分に置かれている状況によって、全然違うことを思ってしまいそう。そんな余白がたくさんある素晴らしい作品だった。

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