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第5回定期開催スペース「喫茶AKSK OTサークル」(ゲストスピーカー:萩さん)テーマ「高次脳機能評価と分析」のまとめ記事



はじめに

高次脳機能障害の評価=検査
と,思い浮かべる人は多いかもしれません.神経心理学的検査,スクリーニング検査は出現している高次脳機能障害を定量化する上では便利かもしれません.しかし,一つの評価は得意としている部分があれば,同時に苦手としている部分や,行う上でのリスクというものも存在します.

今回は,そんな高次脳機能障害の評価・分析についてSTであるhttps://twitter.com/@abyss778 萩さんをお呼びしてスペースでお話をした会のまとめ記事となります.
例に漏れず,今回も萩さんに内容を執筆・チェック・追記していただき完成しました.この場を借りて感謝申し上げます.本当にありがとうございました.

高次脳機能障害の評価とは

そもそも米国の心理学会では行動観察や面接なくしてクライエントのデータを解釈してはならないことを事実上義務付けており,お互いが相補的に作用し合って,その障害像が仮定されていきます.

また,行動観察評価などの定性的(質的)評価の良いところは,ダイレクトに生活に繋がりやすいであると言われています.極端な話,行動観察評価はその評価項目がクライエントに知られても,クライエントの方がそれを意識して改善を目指し,生活態度が変容すれば,活動レベルでの好影響が期待できます.

対して,机上検査等の定量的評価は数値で示せる分,クライエントの方がどの辺りに位置しているかなどは示しやすいですが,活動や参加レベルに落とし込むことに難渋しているケースをよく見かけます.私たちは最終的に,機能を活動・参加の水準に昇華していくスキルを磨いていかなければなりません.
   
また,いわゆる机上検査は学習効果を考慮する必要性や,機密性があるからこそ活きるという側面がある一方で,実生活との乖離が起こることがあります.こういった場合には,定量的なデータについては再解釈の余地が生まれるかもしれません.加えて,目の前で起こった現象に対して自身の解釈が及ばない場合,できるだけ即時に内観を聴くことが介入の糸口になる場合もあります.これも一種の定性的評価であり,定量的評価の解釈を補強してくれる貴重な材料です.

このように,高次脳機能評価においては,量的結果を質的に表現していけることが重要だと考えることができます.

評価・分析のプロセス

萩さん(ST)
萩さんのよく用いる手順として

・サマリー情報
・病巣の大まかな把握
・部屋の状況やクライエントの姿勢や言動
・インテーク面接

などの点に配慮をして評価・分析を始めているようでした.萩さんは,まず行動観察や問診,観察から問題を絞っていく過程を大事にされています.

これはなぜかというと,神経心理学的検査は基本的に対象が決まっているため,検査選択を行う上では前提としてその検査が,今目の前にいるクライエントにフィットするかを吟味できていなければなりません.

また,検査を行う時に私たちはなぜその検査を実施するのか,なぜその検査を選んだのかをクライエントに説明し,同意を得る手続きが必要です.その手続きが,ひいてはクライエントのモチベーションに繋がり,検査結果にも影響しうるためです.ゆえに,スクリーニング検査も含めて実施の前にはその検査選択に至るための情報収集が必要です.

特に萩さんは,初回介入で検査はほぼ行われないようでした.その理由は,初回介入ではラポール形成を主としてインテーク面接と行動観察評価,可能であれば感覚・運動機能の評価を行うことを重視しているからといことでした.要するに,見た目には分かりにくい高次脳機能の評価を行うよりも,感覚・運動機能など,医学に精通していなくても病院という見当が付きやすい評価がラポール形成においても有益に働くケースがあるのではないか,ということを意識されているのだと思います.もちろん,そこを知っておかなければスクリーニング検査の選択自体がままならないという実情もあるようです.

赤坂(OT)
一方,赤坂のよく用いる手順ですが,

・作業療法の説明
・作業療法面接
・面接の中での所作や行動を観察したり,クライエントの思考や使う言葉から高次脳機能障害の程度について推論する
・実際に目標となる行為を観察・分析→結果についてフィードバックしその反応などから自己の認識能力なども併せて評価
・ラポール形成できてきているなら検査実施.

というような流れかなと思います.
ちなみに脳画像診断は初回介入前にみることもあれば,後から病態解釈のためにみることもあるので順番は決まってないです.

萩さんと合致しているのは,検査を網羅的には行わず,クライエントの負担を減らすことや,リハビリを協業的に行っていくためのラポール形成を重視し、行動観察、説明、面接などを優先的に行う点でしょうか.

少し違うのは作業療法目標を共有するという視点や,作業歴を確認し共有していくという点を重視しているために,可能であればクライエントの作業を特定した後,その作業の観察に入っていくことから始め,目標設定していくという作業療法プロセスの中で,同時並行的に高次脳機能の観察・分析を進めているという点かなと思います.

まとめ

STは「コミュニケーションの参加」に軸を据えている.
例えば,「隣の県の友人と会ってお話がしたい」という場合,「お話したい」という思いを核に,そこに含まれる障壁すべてがSTのリハビリに関わるものだというマインドを持つべきであるというのが萩さんのお考えのようでした.この例で言うと,道中の移動手段に関する高次脳機能(実用的コミュニケーション能力含む)についてもですが,どのような格好(身だしなみ的な部分)で会いたいか,どんなところで会いたいか,それを友人と相談する能力も踏まえて、どう他職種を巻き込んでコーディネートしていくという視野を持つことができると支援の幅が広がるのではないかということでした.

以前のnoteでも少し触れましたが,STは医療保険領域で嚥下をみることが多くなっていることと,ST室で机上練習をしている人が多のではないかという話がありましたが,僕としてもクライエントをもっと参加の側面で捉えて病院の外に連れ出していくような支援に関わって欲しいと思います(参加とは院外活動のことだけではありませんが).


また,上記のような事例であればOTは,

・どうして「お話がしたい」ということを,そのクライエントは大事な作業としたのか?
・その作業によってクライエントが感じる価値や役割は何か?
・その作業はどんな習慣を作るか?

などといったクライエントの支援の文脈と,具体的な支援の方向性にコラボレートできるのではないかと考えます.

おわりに

病院などに務めている方で,医師から高次脳機能の評価として神経心理学的検査のデータを(議論の前提として必須なものとして)求められることがあるかもしれません.しかし,それは医師は診断するという役割があるため,検査データは重視されるのだと思います.しかしセラピストは高次脳機能障害がどの生活行為に影響を与えて,どのように今後生活することが健康的な生活に結びつくのかという所を解釈することに役割があります.

神経心理学的検査,スクリーニング検査,面接評価,行動観察評価などはそれら単独で全て十分なものではありません.それぞれの評価のメリットとデメリットを理解した上でリーズニングし支援できることが望ましいと考えます.

ここまで読んでいただきありがとうございました.



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