嗚呼なんて面倒な幽霊屋敷:4.
4.
「ったく、真面目に戻る方法考えようぜ。原因を考えるとか。」
「原因?」
「例えば、気絶したきっかけとか。」
将人にしては真面目かつ建設的な意見。なるほどね、と記憶をひっくり返してみる。気絶するきっかけねぇ、てっきり貧血か何かかと思ったんだけど。
「ああ、おらは小部屋みたいなところで倒れとったのう。あの、一等小さかった部屋、あそこやったわ。」
「ああ、テーブルが一つだけ真ん中に置いてあった。いや、椅子もあったか?」
「せやったっけ?まぁ多分そこや。」
「じゃあ、俺も同じだ。」
確かに、と倒れる直前に部屋を見まわした時の映像を反芻する。あれ、何でそもそもあんな見るから狭い部屋に踏み入れたんだっけ?あ、と記憶に引っかかりを覚えて、二人のほうを向く。
「そーいや二人とも人形触らなかった?これくらいの。」
「あ、触った!」
即座に将人が手をたたく。その横で瑞希も頷いた。
「私あれ、ちょうどいいから持っていこうと思って。」
あ、そういえば何か持ってくるの忘れてた。まぁ当初の肝試しどころの騒ぎではなくなったから、別にいいのだけれど。
「せやせや、おらもその人形持っていけばいいと思って、手に取って……そんで、触った瞬間床とこんにちは、しとったんよ。」
「じゃあ人形が、原因か?」
でも人形が、なんだろう?みんな触ったんだし、気絶したのはその後だけど。だからと言ってバラバラのタイミングで触ったそれが、何でこんなシャッフルを巻き起こしてるんだ?イマイチ、ピンと来なくて黙り込む。
沈黙を破ったのは将人の呟きだった。
「人形に触ると、中身が人形と入れ替わる、とかな。」
「どういうこと?」
首を傾げれば、将人は私の顔でちょっと困ったような表情をして、説明が難しいな、と笑った。
「えっと、まず地下に入ったのはゆりだろ?」
「せやな。」
「つまり、この体だろ。」
将人が今や自分の体……つまり、元私の体を指した。
「そうだね。」
「人形に触ったんだよな。」
「うん。」
まだ彼が言わんとしていることがはっきりしない。腑に落ちない、と顔に書いてあったのか、将人が苦笑いを浮かべた。
「まぁ待てって、ちゃんと説明すっから。ゆりが触った人形を、今度触ったのは、」
「おらだな。」
「そう、つまり、これだろ。」
将人が今の私の体、正しくは瑞希の体を指さす。
「まず人形を触ったゆりが、次に触った瑞希の体に入っている。最初にゆりが人形を触った時に人形にゆりが移ってて、後から触った瑞希と入れ替わった。って、事なら辻褄が合うかな、と。」
「え、ん?ちょっと待って、そうすると私がこの、瑞希の体に入った時、人形の中には入れ替わった瑞希がいたんだよね?」
完全に背景に宇宙が広がっているスペース瑞希は放っておくことにして。待てよ、確かに行けるかも?
人形に私が触る。私が人形に入る。人形に瑞希が触る。私が瑞希に入って、瑞希が人形に入る。瑞希がいる人形を、瑞希の次に触ったのは将人だ。今将人の体の中には?瑞希がいる!
「人形に触ることで、中身が人形を通して入れ替わった、ってことじゃねぇか?だから、綺麗に次に来た人に入ってんだよ。」
「あれがやべぇ人形だったわけね。まぁ、そもそも入れ替わり自体冗談みたいな話だし、理解は出来るけど。」
まさか、と出来れば笑い飛ばしておきたい話だ。でも、現に入れ替わっているのは事実。
「でもまぁ、上手く利用すれば戻れるってことだ。つまり逆に、最後だった俺が最初に行って、次に今は瑞希の俺の体が触れば、俺は戻れるはずだろ。」
「そんでおらの次におらの体、つまり、ゆりが来ればいい、ってこっちゃな。」
瑞希の理解も追いついたらしい。ほら、上手くいきそうじゃないか、と笑う将人を見ていると、どうも引っ掛かりを覚えてならない。どこだ。何がおかしい?
「分かった気がするばい。」
「上手く、いくといいけど。」
「いかんかったらアイスやな。」
脈絡!とキレるだろうな、と思いながら将人のほうを見た。
「アイスでもなんでも奢ってやるよ。」
え、と私の口から洩れた呟きは誰に聞かれることなく床に落ちる。
「じゃあ、俺から行くからさ。そうだなぁ、先上がってっから一階で合流しようぜ。」
なんだ?なにが、こんなに、引っかかる?
「ねぇ将人あんたさ、」
「ん?」
振り返った自分の顔は、自分の思い付きに自信を持っているだけの無害な笑みで。
「いや、いいや何でもない。」
何がおかしい?なにが、こんなに、引っかかる?懐中電灯を取って部屋を出ていく後姿を見ながら、ゆっくりと先ほどの話を思い返す。何かが、確かに、食い違っていた。
気に入って頂けたらサポートおねがいします 美味しいものを食ってまた何か書いてお渡しします、永久機関ってわけです……違うか