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日本初のFASTは、FASTの枠を超えたFASTだった

※トップ画像はChatGPTに「巨大な「FAST」の文字が日本に上陸している様子を画像にしてください」と要望し、数回やりとりして作成されたもの


6月20日付のこのリリースに注目した人は多いだろう。

「FASTが日本初上陸」と聞いて「いや、ABEMAがあるでしょ」とツッコミを入れる人もいるだろうが、ABEMAはFASTと標榜してない。またサービス名がそのものずばりのFASTチャンネルだから、FASTというサービスが日本初上陸なのだと解釈もできる。それより私は、リリースに既存のメディア企業の名が出てこないのが不思議だった。BBM株式会社とあるが、いったい何者なのか。自分で確かめるしかないと、さっそくメールで取材を申し込んだ。

BBMの代表取締役CEOの福崎伸也氏が自ら取材に応じ、サービス企画部プロデューサー・的場優氏と同部ディレクターの當麻敬之氏が同席した。

FASTをユーザーに提供するのはBBMではない

まず読者が知りたいであろうことを先にまとめて書いてしまおう。「BBMなんて知らないし2017年設立のベンチャーが配信サービスなんて大丈夫?」と思った人は多いだろう。そして「いきなりFASTサービスを始めて会員獲得できるの?」と言いたい人も多いのではないか。
まずBBMはもともとアクセンチュアで動画配信サービスの裏方をやっていたチームがスピンアウトして作った会社だ。福崎氏の言葉を借りると「ビデオオンデマンドの立ち上げ支援屋さんを裏でやっているコンサルチーム」だった。突然出てきたように見えて実は、動画配信のプロフェッショナル集団なのだ。独立後も様々な動画配信サービスのサポートを請け負ってきた。ベンチャーだが、この分野の経験は豊富だ。
そしていきなりゼロから会員を集めるのは確かに大変だが、FASTをユーザーに提供するのはBBM自身ではない。BBMと契約したサービス事業者が提供することになる。リリースには「BBMは日本初となるFASTに容易に参入できるシステムを開発し」とある。BBMは「FASTに参入できるシステム」を、事業者に提供するわけだ。
さらに、BBMが提供するのはFASTだけではない。FAST以外にも医療サービスやECなど、事業者が載せたいサービスを様々に選びユーザーに提供できるシステム。Netflixも選べるし、FASTはそんなサービスのひとつ、ということになる。
ここからは福崎氏の説明を、順を追って文章にしていこう。

スマートスティック事業を始め、販売数は累計100万台

BBMがスタートした2017年は、動画配信サービスが出揃って、テレビメーカーもスマートテレビを核にし始めたタイミングだった。そのOSとして、AndroidTVがSONYのBRAVIAや、SharpのAQUOSに搭載された。
一方、テレビに挿入して使う外付けデバイスもAmazonのFireTVなどが普及し始めた。GoogleもChromeCastを発売していたが、それとは別に外付けデバイスの開発をGoogleから託されたのがBBMだった。
同時に、レオパレスからBBMに、運営するマンションに提供するテレビサービスについて相談があった。Googleから委託された外付けデバイスが採用され、当初は10万台、さらに10万台と導入されて50万台に達した。つまりBBMはBtoCではなくBtoBの形で動画配信の外付けデバイスを提供するようになったのだ。
その後、今度は大阪ガスが、サービスを生活支援に広げる一環として、このデバイスを採用してくれた。その結果、デバイスの販売数は累計で100万台を超えた。
ここで彼らのユニークなビジネスモデルを説明しよう。

画像提供:BBM社

図にあるBBM agentはデバイスに載せるサービスの受け皿。動画配信のようなエンタメに限らず、テレビを媒介とした様々なサービスを搭載できる。これを福崎氏は「お弁当の箱」と呼んでいた。レオパレスや大阪ガスはこの図の左上のビジネスパートナーだ。お弁当の中身を選びユーザーに提供する立場で、会員からそれぞれのサービスの料金を徴収する。驚くことに、BBMはシステムを無料で提供する。ユーザーが支払う料金からレベニューシェアを受け取るのだが、比率はわずか1%。そこがポイントだ。1%ならビジネスパートナーも導入しやすい。無料でシステムを提供して1%のレベニューシェアを受け取る。よくできたビジネスモデルだと思う。

新たなスマートスティックでFASTサービスを提供

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