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待ち合わせ

 私はいついかなる時も、冷静沈着に物事を分析してしまう。そんな自分を改めていやらしく思えた瞬間だった。

 
 だって相手はこんなにも情熱的に私に感情をぶつけてくるのに、私はそれを優しく包んだり激しく返そうともしない。どうしてもそうなれないのだ。

 

 私は、どんなに静かに端っこにいようが、どんなにひっそり座っていようが、目立ってしまう。ずっとずっとそうだった。小学生の頃から、皆でふざけていても私だけ注意されることが多く、いつも腑に落ちなかった。
 
 
 高校生になってからは、真面目一直線のクラスメイトの中で一人浮き、それが逆に愛嬌となって先生達に可愛がってもらった。学校帰りの公園では、他のクラスのちょっと悪い友達と悪戯に煙草を吸っているところを何度も保健体育の柴田先生に見つかって、その度に見逃してもらっていた。

 
 柴田先生は私だけではなく、他の生徒達を平等に可愛がってくれたし、もう40歳を過ぎていて若くは無いから、女子生徒達も安心感があった様だ。私も最初は柴田先生に興味なんて無かったが、テニスの授業の時に腰に手を添えられ、右手を握って優しく教えてもらい、呆気なく好きになってしまった。その年の夏に入る頃、水泳の授業に向けてのプール掃除を頼まれて更衣室へ行った時、初めて関係を持ったのが始まりだった。

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 「センセ……次の時間、空いてる?」

 
 
 体育の授業が終わってから、柴田先生にこっそりそう聞いて、次の時間は空きだと言う先生と、プールの更衣室で待ち合わせをした。私は急いで制服に着替えながら、先生が待っているプールの更衣室まで、どのルートで行こうか考えていた。

 

 私は誰にも見つからないように待ち合わせ場所へ行かなければならない。足音を消す為に上履きを脱いで両手に持ち、廊下と階段を滑るように駆け抜けた。学校のプールは、本校舎から長い渡り廊下を通り、少し離れた場所にあった。だから待ち合わせ場所の更衣室までは長くて、ドキドキして息を切らせながら走った。

 

 更衣室の電気は消えている。手に持っていた上履きをそっと履いた。中に入ると薄暗く、一番奥にある、プールサイドに繋がるドアの摺り硝子から、唯一外の光が漏れていた。今にも降り出しそうな今日の天気のおかげで、灰色の光だった。
 
 そのぼやけた光を頼りに一歩ずつ、そっと踏み出すと、突然ロッカーの影から先生が飛び出して来て後ろから口を塞がれた。私は先生のいつもの悪ふざけに声を出そうとしたが、誰かに見つかってはいけないので黙ったままにした。

 先生はそのまま後ろから制服のリボンを解いてブラウスのボタンを片手で器用に外していった。

 私の白い肌が暗闇の中にぼんやり浮かんでいて、先生の少し日焼けした手の甲はあまり見えなかった。先生は私の口を塞ぐのを止めて、後ろから両手で、私の白くて柔らかい胸をすくい上げて弄んだ。そのうち片手でベルトを外してズボンを下げたのだろう。先生は私のスカートを捲りあげて勢い良くショーツを下げ、一気に挿入してきた。

 その瞬間の感触と先生から漏れる息づかいに違和感があって、私は首を左に傾けて、ロッカーの向こう側の壁の全身鏡を見た。

 私は驚愕した。

 五十嵐だ……

 

 私の背後から挿入していたのは、柴田先生では無く数学の五十嵐先生だった。

 数学の五十嵐はこの学校に赴任してきて五年目になるらしい。この学校の先生の中では若い方だ。背が高くてスラッとしているが、ガリガリでは無い。顔も整っていて、メンズ雑誌のモデルの様だった。
 五十嵐は、私がいつもつるんでいる他のクラスのやんちゃなメンバーに人気があり「五十嵐」と、呼び捨てにされていた。五十嵐自身も、そのメンバーに呼び捨てにされるのが嬉しい様だった。

 
 私は自分のクラスでは友達は作らなかった。勉強ばかりしているクラスメイトと、何を話せばいいのか分からなかった。他のクラスのやんちゃな男子とふざけている方が楽しかったからだ。
 休み時間の度にその男子達と一緒に居たから、五十嵐も私のことをだんだんと呼び捨てする様になってきた。廊下ですれ違う度に「おぅ、ユキ」と必ずひと声掛けてくれた。

 でも私は五十嵐のことがあまり好きでは無かった。昨年、他のクラスの女子が五十嵐に告白した時に「一発やらせてくれるのか?」と、ニヤニヤしなが聞いたという噂があったからだ。それを聞いた時、私は気持ち悪過ぎて、軽蔑に値する存在として私の心に刻まれてしまったのだ。

 そんな五十嵐に私は今、侵されている。私は後ろから激しく突かれたまま、声を出そうとした。五十嵐は片手で私の口をさっきよりも強めに塞いだ。

 「やめて、五十嵐、やめてよ」 

 五十嵐の大きな掌のせいで、私の声は声にならなかった。

 「ユキ……?んっ……柴田先生は来ないよ。さっき病院から連絡があって、柴田先生は帰ったんだ…奥さんが倒れたから…ぁあっ」

 
 私は「柴田先生の奥さん」という言葉を音で聞いて、あぁ、そうか、そうだった……柴田先生には家庭があって、奥さんが大切なんだ。それは分かっていたけど、頭の片隅にはいつも、私のことを一番に想ってくれているのだろうな、と思っていた。
 だけどそんな筈は無い、奥さんが倒れたら駆け付ける。当たり前のことだ。私は五十嵐に後ろから突かれたまま「柴田先生の奥さん」について考えていた。

 

 「ユキ……ぁあ…ぁ…ユキお前、柴田とどうなってるんだよ……柴田は……」

 

 五十嵐はやっぱりエロ教師だった。あの噂は噂では無かったのかもしれないな。それにしても五十嵐とするのは、柴田先生としてる時よりも気持ちがいい……と思ってしまった。

続く……

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