軽い気持ちで救急車を呼んではいけない
ちょうど1年前のある夜。自室でスヤスヤ寝ていると、突如として心臓を掴まれたような激痛に襲われた。カッと目を見開き、直感する。
「心筋梗塞だ」
心臓の病気は1つしか知らないので間違いない。
ズキン
間髪入れず、鈍い痛みに襲われる。死ぬのかな、ママ・・・(泣) スマホをたぐり寄せ、ググる。
『心臓 イタイ 』[検索]
もしかして… 心筋梗塞
ママ(泣)(泣)(泣)(泣)
運命は突然だ。こんなところで死ぬとわかっていたら部屋を片付けておいたのに。せめて『イノベーションのジレンマ』などの頭の良さそうなタイトルの本を出来るだけ自分の近くにおき、「生前めちゃくちゃ読書家でしたよ」感を出して目をつぶった。
が、しばらくすると痛みは治まった。
そのまま少し考えて、もう1回寝ちゃおっかな?とも思ったが、寝ているあいだにまた発作が起きてそのまま…なんてこともあり得るのではァ? と心の中の賢いオタクが呟く。おそらく『イノベーションのジレンマ』を読破したオタクだ。
ここで選択を迫られる。救急車を呼ぶべきか。しかしすでに痛みは治まっている。それならタクシーで病院に行くべきだ。落ちつけ、貧困層であることを忘れるな。そういうわけで、 “緊急相談センター”に電話をかけることにした。
#7119
この番号は救急車を呼ぶか迷ったときに、専門家に症状をつたえ判断をゆだねる窓口だ。さっそくダイヤルを合わせる。
「眠っていたら、胸がズキンと痛んで…今までに感じたことのない痛みっていうか…それで…電話しました…」
「なるほど。では、救急車を手配しますか?」
???????
「.... 救急車を手配しますか?」
それこっちが聞きたいやつ〜!だから電話してっし〜!(笑)
ややウケしつつ「どっちでもいいです」と返す。
「・・・・。」
え。。。
こういう窓口で気まずいとかあるんだ。。。
何で沈黙?こんなことで電話するなって思ってるん?ウチ重たい?なんで?なんで?なんで????直すし、別れるとか言わんでょ。。。不安になった私の中のメンヘラが、ポツリと呟いた。
「でもちょっと、胸・・・イタイかも・・・」
「では念のため、救急車を手配します」
「ぅん」
ーーーーーーーーーー
やれやれ、事が大きくなってしまった。電話を切り、胸に手をあてる。完全に痛みは引いていた。というか、結局2回しか痛みは感じていない。
「怯えすぎたな....」
わたしはそっと起き上がり、散らかった部屋を見渡す。けっこう散らかっている。男の人(救急隊員)来るし、片付けようかな・・・
※ここから先は、DQNの奇行なので笑ってゆるしてください。
部屋を見渡した結果、わたしは「この部屋に救急隊員は入れない」と決意した。むしろわたしが迎えに行く。救急車に乗りにいこう。軽くヘアセットをしてパジャマを着替え、ポーチに貴重品をつめる。部屋の戸締りと、やさしく笑う練習をして外に出た。完全に「渋谷に行くときの私」だ。
家を出て階段を降りると、遠くから
ピーポーパーポーーーーーー
と“お迎え”の音がした。かなり緊張する。前髪を整えながら大通りに出る。そこで、救急隊員とすれ違った。救急隊員はわたしに目もくれずアパートの方へ駆けてゆく。
「エッ」
振り返って叫ぶ「あの!!わたしです!!」
・・・お友達の方ですか!?
「 いえ、本人です」
・・・・・エッ!?!?!?
「エッ!?!?!?」
5秒ほど見つめ合った後、とりあえずその場でじっとしてください。動かないで。と指示され、救急車まで20mの距離で横になった。しばらくすると担架がやってきて、わたしは静かに20m運ばれた。
めちゃくちゃ気まずい。
救急車の中でバイタルを計られながら事情を話す。こんな感じで呼んじゃってごめんなさい。何度も謝っていると、救急隊の班長が「大丈夫ですよ。万が一のこともありますから。呼んでくれて良かったです」と声をかけてくれた。班長♡♡♡班長は微笑みながら、手際よく病院に電話をかける。
「もしもし、こちら、意識鮮明!!!」
そんなことはないよと目を細める
「体温は 35.4℃!!!!」
生まれつきの低体温だ。ここぞとばかりにコホコホ、寒いかも...と震えてみた。だがこの程度では心配してもらえない。
「緊急度は・・・低いです!!!!」
ごめんね
ーーーーーーー
緊急度が低いわたしは、じぶんで病院を選べることになった。
「この時間だと料金は高くなりますが、大学病院が一番近いです」緊急度が低いのにわざわざ高い病院に行く必要ないだろと思いながら、「班長が言うなら・・・絶対に大学病院にしてください・・・コホ・・・」と伝えた。
5分ほどで大学病院に到着。1時間ほど待たされて、心電図とレントゲンをとることになった。正直「本当はなにか見つかって、来て良かったぁ…になるんじゃないの?」と期待していた。しかし、診察室では素人目に見ても「異常ナシ」と分かる綺麗すぎるレントゲンを指差され「異常ナシ」と伝えられた。
大学病院を出ると、すっかり朝になっていた。わたしはパン屋でベーグルとコーヒーを買い、ベンチに腰掛けて「なんで朝活してるんだろう…」とぼんやり考える。ふと医者の言葉を思い出す。
「心筋梗塞だった場合、40分ほど激痛が続きます。次は40分くらい痛かったら心筋梗塞だと思ってください。そしたら救急車、すぐ呼んでくださいね。」
いや、40分も耐えられる訳ないだろ。
ベーグルをかじりながら「次は5分我慢しよう。まぁでも、生きててよかったぁ〜」と心の底から感謝した。
これはちょうど1年前の 今日の話。
おしまい。
p.s 賢いオタク(今日の話?うるう年ではァ?)
いいんですか!?!?