追及 自民裏金事件 政治ゆがめる企業・団体献金改定規正法 残した「抜け穴」〜すべてがNになる〜

2024年7月23日【1面】


禁止反対自民だけ

「『金権腐敗の温床』には何も手を付けず、そのまま残してしまった」―白鳥浩法政大学教授(政治学)は、自民党の裏金事件を受けた政治資金規正法の改定について、こう指摘します。

 1980年代末から90年代にリクルート事件など金権腐敗事件が相次ぐ中、腐敗の温床となった企業・団体献金の禁止は急務でした。ところが、当時の「非自民」政権と自民党の談合によって強行されたのは、政治腐敗への国民の怒りを小選挙区制導入にすり替え、企業・団体献金を温存する偽物の「政治改革」でした。

共産党反対貫く

 この時、これに真っ向から反対を貫いたのは日本共産党だけでした。以降、日本共産党は、企業・団体献金禁止の法案を繰り返し提出し続けてきました。先の通常国会では、企業・団体献金禁止が国民多数の世論となり、初めて他の野党からも禁止法案が提出されるなど、いまや拒否するのは自民党だけとなっています。

 問題の焦点は、「偽物の政治改革」のなかで残された、政党や支部を通じた献金と事実上の献金である政治資金パーティー券購入の「二つの抜け穴」をふさぐことです。

 白鳥氏は「『平成の政治改革』の際には、政治資金パーティーの問題性が指摘されていたものの、最終的に『選挙制度改革』(小選挙区制の導入)に論点がすり替えられてしまった。この時に詰め切らず、積み残した腐敗構造が、いま裏金という形で露呈している」と言います。

 実際、今回の事件は、パーティー券の購入という「抜け穴」を利用した事実上の企業・団体献金が裏金の原資となりました。

 一方で、自民党が先の通常国会に提出し成立した改定規正法は、肝心の企業・団体献金には一切触れず、パーティー券購入者の公開基準額を「20万円超」から「5万円超」に引き下げるというだけのものとなっています。

中身は変わらず

 白鳥氏は「法改正はしたけれども、中身は何も変わっていない。『20万円』を『5万円』にしたというが、これは1回のパーティーの話で年間の総額ではない。5万円を4回に分けるなどすれば20万円になる。これで問題が解決したというのは欺瞞(ぎまん)に満ちている」と指摘。「むしろこの制度を残したところが、ある種の肝だ。自民党は全く反省していないし、変わってもいないことを象徴している」と強調します。

 「網に魚がかかった。ところが、魚も賢くなって網の隙間から逃げようとしている。そういう感覚だ」と述べるのは情報公開制度に詳しい三宅弘・元日本弁護士連合会副会長です。

 法の網の目をいくら小さくしてみても、「抜け穴」があれば、そこから新たな裏金づくりの道がつくられます。政治腐敗の根を完全に断つためには、大本にある企業・団体献金の全面禁止に踏み出すしかありません。

 (1面のつづき)

国民主権貫くためには

 「政治にはコストがかかる。禁止、禁止、禁止で全て禁止してしまって、こうした現実を見ることがない案であってはならない」―。岸田文雄首相は企業・団体献金についてこう開き直り、受け取りを正当化しています。

自民“力の源泉”

 その根本には、自民党が企業・団体献金を“力の源泉”としてきたことがあります。20年間(2003~22年)に自民党本部が受け取った企業・団体献金は464億円にのぼります。主要政党の中でも群を抜く金額です。

 石村修専修大名誉教授(憲法学)は「自民党は、自ら決定できる選挙の時期を見て、お金を用意する。選挙の時のために、お金が集められて配られる。そのために一番手っ取り早いのが企業からお金を集めることだ」といいます。「企業からお金を集めるという制度自体が政治の腐敗を起こす。政治腐敗の事件の原因が企業献金だということは、すでに国民はわかっている。なのに、どうしてやめられないのかが疑問だ」

 自民党が企業・団体献金を正当化する根拠として持ち出すのが八幡製鉄事件の最高裁判決(1970年)です。企業には政治的行為をする自由があると認めたものです。

 しかし、この判決は「大企業による巨額の寄付は金権政治の弊を産む」と指摘。「弊害に対処する方途は、さしあたり、立法政策にまつべきこと」だとして、企業・団体献金を禁止する立法措置の必要性は否定していません。

株主多数も反対

 岡原昌男元最高裁長官は同判決について、93年11月2日の衆院政治改革特別委員会で次のように述べています。

 「(自民党は)一部だけを読んで企業献金差し支えない、何ぼでもいい、こう解釈しておりますが、違う」「企業献金というのは、法人がその定款に基づかずして、しかも株主の相当多数が反対する金の使い方でございまして、これは非常に問題がある」

 憲法は、主権が国民にあることを宣言し、国民に参政権を保障しています。国民個人個人が自ら支持する政党に政治資金を寄付し、政治献金をすることは主権者としての参政権の行使そのものです。

 政治のゆがみを正し、国民主権を貫くためには、企業・団体献金の禁止が不可欠です。

論理破綻の多い判決を利用

専修大学名誉教授 石村修さん

 自民党の裏金事件をめぐる国会論戦で、岸田文雄首相は八幡製鉄事件の最高裁判決を持ち出して、企業による政治献金を正当化しました。しかしこの先例は、少なくとも関連する法規が改正されてきたことで、そのまま引き合いに出せるものではなくなっています。

 企業による政党への献金を考える上で前提とすべきは、企業は私法人だということです。そして、企業は本来的には営利追求を目的にしており、公序良俗に反しない限りでの活動が認められています。さらに、企業活動は、社会の一員としての共通の利益に資する活動が求められています。公的な性格が本来的にはないはずなので、企業自体が直接政治活動を行うことは、本来的には許されていません。

 企業がなんらかの政治的な活動をしたとすれば、その構成員の個々の政治的な活動に大きな影響を与えます。現実には、企業は経団連やそのほかの業界団体を結成するなど、政党と“癒着”するシステムをつくっています。団体を通じて献金を行い、その結果は国民の参政権を侵害することになります。

 生活を豊かにして、健康で安全な生活を望む国民がいても、それをないがしろにして、業界団体の意向を尊重する―。原発推進や消費税増税など今の政権の強硬な姿勢に表れています。政党や政府が国民の意思よりも、財界や大企業の意向に従うことと企業・団体献金は結びついています。

 政治活動は、本質的には自然人である国民の判断で決定されるものであり、会社が直接政治活動を行えば、そこに利権が絡むことは必至です。

 政治献金のための会費徴収を求められた税理士会員が、献金は目的外だとして訴え勝訴した南九州税理士会事件の最高裁判決などと比べると、八幡製鉄事件は論理破綻が多い判決だと言えます。それにもかかわらず、政府がこの判決を重視するのは、自分たちに都合がいい判決だからだと考えます。

 (2面)

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