公安警察がでっち上げた大川原化工機事件 大川原正明社長に聞く安保政策に便乗した冤罪〜すべてがNになる〜

2024年4月22日【1面】

大川原化工機(横浜市都筑区)は2020年3月、軍事転用のおそれがある装置を不正に輸出したとして外為法違反の疑いをかけられ、大川原正明社長ら3人が警視庁公安部に逮捕されました。安全保障の名のもとで企業活動に介入、監視する政府の経済安全保障政策に関連づけて作り上げられた事件とみられます。検察官は初公判の直前に起訴を取り消しました。異例の結末になった冤罪(えんざい)事件について、大川原社長に聞きました。(丹田智之)

 ―公安部のみたては、大川原化工機が輸出した噴霧乾燥機(液体を粉末にする装置)が「あるべきではないところで見つかった」というものでした。事実無根の容疑で逮捕、起訴され、警察署や拘置所での身体拘束が約11カ月も続きました。

 公安部が内偵捜査に着手したのは17年5月ごろです。18年10月の強制捜査のあとから一貫して無実を主張してきました。任意の事情聴取は、役員や社員を含めて290回を超えます。初めは「捜査に協力すれば分かってもらえるだろう」と考えていたのです。

 ところが公安部は強制捜査後の1年半の間、私たちを逮捕し起訴するために検察官と経済産業省の幹部を説得していました。安保政策関連への注目に便乗し、世間の話題になる事件に仕立てようとしたのでしょう。

 約30年間で300台くらいの噴霧乾燥機を輸出してきましたが、ここ15年くらいは全ての売り先に対して軍事利用しないとの誓約書を提出してもらっています。そもそも生物兵器などを製造することが不可能な機器仕様です。ばく露防止対策がされておらず、最低限の除菌・殺菌ができる機能もついていません。

 ―国会では政府が指定する秘密を大幅に増やして民間企業の技術者や研究者を監視、処罰する経済秘密保護法案が審議されています。冤罪の当事者として言いたいことはありますか。

 私たちは健全な輸出産業であるべきだと考えています。化学機械を製造する同業者が不当な容疑で逮捕、起訴されることがあってはなりません。

 経済安全保障自体には賛成ですが、同法案は、何が安全保障に該当するかが明確ではないと感じます。「安全保障に支障を与えるおそれがある」という規定が解釈を広げてしまう問題もあります。軍事機密とは違う分野に法規制を拡大しないでほしいという思いがあります。

 (1面のつづき)

人質司法 懲役より酷

 ―起訴後の保釈請求を東京地裁が何度も却下しました。拘置所で長期の身体拘束が続くことは「人質司法」と呼ばれます。

 警察署内の留置施設では体調管理が難しく、精神的なダメージも大きかった。拘置所でも弁護士などを除いて接見が禁じられ、面会が許されている懲役よりもひどいと感じました。あまりにも理不尽です。検察官は「証拠」があるから起訴したはずです。危害を与えることのない人は、そもそも逮捕する必要性もないはずですし、起訴の時点で速やかに保釈するべきだと思います。

 基本的に警察官は自分たちに都合がいいことだけを供述調書に記し、都合が悪いことは残しません。そうした行為が常態化しています。

 公安部が“立件に不利な実験データ”を隠していたことも明らかになりました。公正な捜査とは言えません。

 会社の損害も大きく、周囲から犯罪者と見られることで社員の家族が苦しみました。当初は警察、検察の情報だけが報道されてきたからです。そうしたマスコミの姿勢も問われます。

 (10面)

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