ナマズオと赤い団扇
うぺぺ、ぺぺぺ。ヤンサの町に夏の風が吹き抜ける。
ナマズオ族の若者ギョシンは、いつものように長い髭をなびかせながら、赤い前掛けをはためかせて町を歩いていた。首の鈴が風に揺られ、カランカランと涼やかな音を奏でる。
「オイラ、今日こそは運命を変えるっぺ!」
ギョシンの頭には大きな×字の傷が光っている。7年前、神託で聞いた不吉な運命。それを変えるため、彼は様々な文化の祭りを続けてきたのだった。
そんなギョシンの前に、突如として赤い大きな団扇が舞い落ちてきた。
「うぺぺ!これはっぺ?」
ギョシンは慌てて団扇を拾い上げる。見れば、何やら不思議な文様が描かれている。
「おや、ギョシン君。また珍しいものを見つけたねぇ」
背後から聞こえてきた声に、ギョシンは振り返った。
「あっ、セイゲツさん。これ、どっから落ちてきたのか分からないっぺ」
「ふむふむ。これは面白い。私の知る限り、この文様は古代ナマズオ族の祭具に使われていたものだよ」
セイゲツは眼鏡を光らせながら、にやりと笑う。
「へぇ〜、セイゲツさんはやっぱり物知りっぺねぇ」
「当然さ。私のような知識人が…あっ、いや、そうだね。ありがとう」
セイゲツは思わず興奮して語尾が出そうになるのを必死に抑える。
「よーし、オイラこの団扇を使って新しい祭りを考えるっぺ!」
ギョシンの目が輝く。そんな二人の会話を、近くの茶屋で聞いていたのは、ギョリンとギョドウだった。
「ボク、あの団扇に目をつけたっぺ。あれを手に入れれば、きっと大金持ちになれるっぺ!」
ギョリンは成金の夢を膨らませる。
「お前な…。まぁ、俺も借金返済の足しにできそうだっぺな」
ギョドウは小悪党らしく、さっそく悪だくみを始めていた。
数日後、ギョシンの新しい祭り「赤団扇祭」の準備が整った。町のあちこちに赤い団扇が飾られ、ナマズオたちは首の鈴を鳴らしながら、嬉々として準備に励んでいる。
「うぺぺ、みんな協力的っぺねぇ」
ギョシンは満足そうに町を見渡す。そこへ、ギョリンとギョドウが近づいてきた。
「やぁ、ギョシン君。ボク、この祭りの運営を手伝わせてほしいっぺ」
ギョリンは笑顔で話しかける。
「そうだっぺ。俺たちにも何か仕事をくれっぺ」
ギョドウも同調する。
「うぺぺ!二人とも協力してくれるっぺ?ありがたいっぺ!」
純粋なギョシンは、二人の下心に気づかず喜んで受け入れてしまう。
祭りの日、町は赤い団扇で彩られ、活気に満ちていた。ナマズオたちは電気を放出しながら踊り、三叉の銛で魚を突く伝統芸能を披露する。ギョシンは中央で、拾った赤い団扇を掲げて祭りを盛り上げていた。
その時だった。
「うぺぺ!団扇が光ってるっぺ!」
ギョシンの持つ団扇が突如、まばゆい光を放ち始めたのだ。
「これは…古代ナマズオ族の言い伝えにあった『幸運の光』だ!」
セイゲツが驚きの声を上げる。
光は瞬く間に町中に広がり、ナマズオたちの体を包み込んだ。
「なんだか体が軽くなったっぺ…」
「髭が綺麗になったっぺ!」
「電気がもっと出せるようになったっぺ!」
町中が歓声に包まれる。そして、ギョシンの頭の×字の傷が、みるみるうちに消えていった。
「うぺぺ…オイラの運命が変わったっぺ!」
ギョシンは涙を流して喜ぶ。
その光景を見ていたギョリンとギョドウは、自分たちの企みを恥じ入った。
「ボク…大金持ちになるより大切なものがあったっぺ」
「ああ…俺も詐欺なんかやめるっぺ」
二人は心を入れ替え、純粋な気持ちで祭りに参加することを決意した。
その日以来、ヤンサの町では毎年「赤団扇祭」が行われるようになった。ギョシンの拾った一枚の団扇が、町全体の幸運をもたらしたのだ。
ナマズオたちは、これからもずっと幸せに暮らしていくだろう。
うぺぺ、ぺぺぺ。ヤンサの町に、幸せの風が吹き抜けるっぺ。