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失った能力が回復する!?脳の可塑性について

(2020.10.12 投稿)

今回は脳の可塑性についてのお話です。

脳卒中の患者がリハビリや日常生活を経て能力を回復できるのは、脳に可塑性があるからです。

脳の可塑性とは

経験に応じて脳は変化する――。今では当たり前に思えるだろうが,脳が自らを再構成する能力には,もっとドラマチックな意味がある。
 手術や薬の助けを借りるまでもなく,脳は一生を通じていつでも大きく改変できる。必要となれば,脳の各領域は以前とは異なる課題をこなすようになる。ある領域が機能障害を起こしたり傷ついたりした場合,別の領域が代役となって失った部分の役目を果たすことができる。こうした役割分担の変更は,脳梗塞によって言語・運動機能を失った人や脳性小児麻痺患者,指を1本ずつ動かすことができなくなった音楽家や作業員,強迫神経症患者や読字障害患者などで見つかっている。知的にも肉体的にも厳しい訓練を重ねることによって,彼らは失われた機能を取り戻した。
 なぜこうしたことが起きるか。それは脳に可塑性があるからだ。化学物質の変化から新しい神経細胞(ニューロン)の形成,より大きな領域で起きる神経回路の再配線まで,脳内で起きるあらゆる変化を指す。
 かつては,遺伝子によって描かれた脳の設計図があり,脳はそれに基づいて形作られると考えられていた。しかし脳内地図は大きく変化する。障害を乗り越えられたのは,患者の脳内地図が変化したことを示す。
 こうした訓練は小児麻痺などの影響で読字障害になった子供にも効果があったとの報告もある。一部の科学者はさらに訓練やゲームによって統合失調症や自閉症,加齢に伴う物忘れを改善できるかどうかを調べている。今のところ,結果は公表されていない。しかし,そのアイデアが実を結んだら素晴らしいに違いない。

出展:日経サイエンス 2003年12月号

つまり、一度壊死した細胞が元に戻ることはないが、脳への刺激により損傷していない部位が壊死した細胞が担っていた機能を代替し、失っていた能力が回復するということです。

我が家では、左脳前頭葉分に脳出血による壊死がある、四歳になる娘を育てています。

娘の場合は母親の胎内で脳出血が発生したため、そもそもはじめから能力自体を獲得していないのですが、壊死している部分が本来担うべき能力を他の部分に代替えして担ってもらうべく、日々療育に励んでいます。

リハビリに取り組む上で大切なこと

そんななか、脳の可塑性について詳しく知りたいと思って手にしたのがこの本です。


この本は、現役の外科医でもあった著者が三度もの脳卒中にみまわれ、そのたびにリハビリによって能力を回復していく過程が書かれており、我が家にとっても非常に参考になりましたし、勇気を与えられました。

自分自身の症状や能力を取り戻していく過程を、医師の視点で書いているところが非常に参考となる本です。

この本の著者は、東京女子医科大学在学中に最初の脳出血を起こしますが、後遺症なく卒業、整形外科医として同大付属病院に勤務。26歳で郷里高松に戻り香川医科大学(現・香川大学医学部)に勤務。その後、実家の山田整形外科病院の院長となって間もない33歳のとき、2度目の脳出血により脳梗塞を併発、高次脳機能障害に至ります。それでもリハビリ医を目指し、愛媛県伊予病院に勤務しますが、37歳で三度目の脳出血、半側空間無視など新たな後遺症が加わりましたが、姉が運営する介護老人保健施設の施設長として社会復帰を果たしています。

三度もの脳出血に見舞われながらも、そのたびにリハビリを経て社会復帰していく姿は本当にすごいと思います。

この本の中で、著者はこのように言っています。

脳は出血や梗塞で血が足りない状態になると、自然に新しい血管が生えてきて血流をまかなっていることが多い。脳を使おうという刺激で血液の需要が高まると、血管は先へ先へと伸びようとするらしい。同じように脳細胞もまた、使えば使うほど、それが刺激となって新たな細胞を形成し、故障部分を修復してくれるのである。

つまり可塑性を発揮し、能力を回復していくには、脳をどんどん使っていくことが大切ということです。

著者の左半身は、脳卒中の影響で感覚が無い状態であったのですが、左の手足の先にジンジンする感じ、長時間の正座のあとで麻痺していた感覚が戻ってくるときの、あの感じが強くなってきているとのことです。

これは脳出血によっていったん死んだ組織の中に、グリア細胞という神経の信号をつなぎあわせる細胞が増えてきて、再び情報が電気信号として脳内を走りだしたということを示しており、著者の脳は確かに目覚めている、ということを実感として感じるのだと言っています。

一方でこのようなことも言っています。

何度も言うようだが、経過も人それぞれで、どれだけよくなるとは簡単には言えないが、共通して断言できるのは、時間がある程度必要ということ、たとえ脳の大部分が壊れたとしても、少しでも生きている脳みそさえあれば、これから新しいことを覚えていけるということ。「もうだめだ!」と投げてしまったら、それがあなたのゲームオーバー。

脳のリハビリのためには、能力を回復したいというしっかりとした意識を持ち、ただし焦らずに時間をかけて取り組んでいくことが大切なようです。

すぐにできないからといって匙を投げずに、根気よく続けていかなければなりません。

まとめ

この本の中で著者も言っていますが、脳卒中による障害は、発症した日からどんどん悪くなっていくものではなく、その日を底として、日々少しずつ良くなっていくものです。

最終的にどこまで能力が回復できるかは予測ができませんし、元と全く同じ状態に戻るとも限りませんが、脳には可塑性があり、仮に壊れた脳であっても常に変化し、常に学習していて、可能性が広がっているんだということを思いながら、娘の療育に取り組んでいきたいと思います。

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