なんで監査法人は増減理由を知りたがるの?
「この科目残高ってなんで増えた/減ったんですか?」
会計監査を受けたことがあれば、こんな質問ってよくきますよね。
聞かれた方はめんどくさいなぁと思いながら調べるでしょうし、聞いた側は熱意を持って聞くこともあれば、形式的でめんどくさいなぁと思いながら聞くこともあります。
なぜ会計士はそんなに増減理由を聞きたがるんでしょう?
そこには、一応監査基準上の要請もあるのです。てことでご説明します。
増減を聞くのは、分析をしたいから 〜 監査の目的って?
まぁそりゃそうだろうって思いますよね。そうなんです。(てか、この表題NHKのチコちゃんみたいな話し方。)
では、なんで分析をしなきゃいかんのか、ってところを説明します。
基準の言葉ではなく、口語体をつかっても表現していきますが、
監査の目的は、企業の作成する財務諸表がすべての重要な点において適正に表示されていることを保証すること。
つまり利用者が投資判断を間違えるような重要な間違いがないですよ、ってことを表明することにあります。
この「重要な」がポイント。監査人は完璧に正しいことを要求しません。大体合ってる、と表明することが監査の目的なんです。
その目的を最大効率で達成するためのプロセスに、「分析」が組み込まれているので、監査人は分析をし、疑問点を会社に確認するんです。
監査計画時の分析 〜 どこがヤバイ?
監査計画時、つまりこれから監査を始めるという段階で、監査人はまず分析を行います。この分析の目的はリスクを評価することにあります。
監査の考え方として「リスクアプローチ」という素晴らしい考え方があるのですが(これはホントにそう思ってます)、簡単にいえば、重要な間違いが起きやすそうなところ(リスクエリア)は頑張って、そうでないところは頑張らないということを冒頭である程度決めていきます。
その時に使用される検証手段が「分析」で、
つまり過去と比べておかしな動きの科目はないか?そもそも残高が大きい科目は何か?を計画時に探しておき、どこを頑張るかを決めていきます。(どちらかというと、どこを頑張らないか、という判断の方が重要だと思ってます。)
その時の判断が誤ってしまうと計画崩れしてしまうので、会社に増減をヒアリングしたりします。
監査実施時の分析 〜 実際どうなん?
計画を立てて、いざ監査を実施する際には、
ホントにざっくりいくと、個別数値が正しいことを検証する手続きと、大体合ってることを検証する手続に分けることができます。
個別に根拠資料とあてていくのはやっぱり手間なので、
「残高がある程度予測しうる(前年と同じくらいのはず、他の科目と相関するはず、など)」場合には分析をして大体合ってることを検証することが多いです。
この場合、監査人は「これぐらいになるはず!」という推定値を立てるのですが、その的から外れると、会社の増減説明に頼ることになります。
「頼む!取締役会の報告資料とかに細かい増減理由が書いてあってくれ!」と願いながら会社の分析資料を探したりしますが、そこになければ質問をせざるを得ない、という流れです。
こんな感じで、会社に分析負担を強いることになります。
監査の完了 〜 森を見てみた。どんな感じ?
ここまでの手続で各科目の残高があってることを確認してきた訳ですが、
OKを出す前に、財務諸表全体で見ておかしなところがないことを検証する必要があります。木(各科目残高の妥当性)は見たけど、森(財務諸表全体としての妥当性)ってどうなん?というのを確かめていきます。
個別に見たら大丈夫だと思っていても、
・なんで取引が増えたことで売上高増えてんのに、売上原価がふえてないの?
・説明を受けていた予算と実績が全然違うけど、合ってんの?
というような疑問が改めて生まれることもあり、それが重要な虚偽表示を示唆するような怪しい残高ではないことを監査の最終段階で改めてチェックしていきます。もちろんわからなければ聞きます。
最後に 〜 ホントは会社にも同じ観点を持ってもらいたい
ここまで、なぜ監査で分析要望を受けるのかということを書いてきましたが、
実は監査人って、皆さんが思ってるほど複雑な頭のいい分析をしていないです。せいぜい前期と比べて見たり、回転期間分析する程度のもんです。
その程度の分析をした結果、なんとなく「この残高っていいの?」ってことを聞いているんです。
そして、ほとんどの監査人は、こう思っていると思います。
「増減要因書いた資料くらい作っといて欲しい・・・」
かくいう私もよくそう思うのですが、まっとうな体制を作れている会社であれば担当者が試算表を作り、上長の承認を得るプロセスにおいて増減は把握しているはずなんです。会社自身も適正な数字を作り上げる責務を全うしなければならないですから。
監査人もアホだけど頭は悪くないので、
まったくもって意味のない分析は流石にしません。
監査を受ける会社側も、質問を受けた領域については分析の必要性を随時検討していただき、監査人と目線を合わせることで、
決算プロセスの一環としてきりなはせない「会計監査」に効率よく対応していただければいいな〜と思います。
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