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「あの夏、祭り」 〜彼と小説 短〜

「 祭?...行きたいの?」
結局付き合ってくれた人
パッタ パッタ パッタ
振り返らなくても分かる、あの足音
「お待たせ」

彼を
見る 
息が止まる

見慣れない、夏の、涼しげな姿
急に胸の辺りが脈打って
視線が泳ぐ
(その格好で来るなんて、聞いてない)

『…似合う、ね』
「行くぞ」
こちらの言葉を遮るようにそう言うと
さっさと歩き出すひと
隠しようの無い照れをお互いに見ながら
祭囃子に近づいていく

人々の喧騒 どうしようもなく、弾む心

「ん」
前を向いたままのひとから後ろに伸びた手
『え?』
返事の代わりに2回
手先が揺れた

………..

「歩けるか?」
慣れない下駄 痛む足先
彼の腕に軽く掴まり歩く、祭の帰り
喧騒の落ち着きと共に、街の色も戻っていく

「履き慣れないもの履くからだ」
『だって』
(見て欲しかったから)

湿気を帯びた熱気と並び歩く、沈黙

差し掛かる、ひとけの無い神社の石段
こんな時間に鳴いてる、蝉いっぴき

『ね。蝉って夜も鳴いてたっけ』

彼がフイに止まる

『….どしたの』

その一瞬、蝉の音が消え
世界は無音になる

体を離した彼が下を向き笑う
「...何でこんなに甘いの」

さっき二人で食べた、クマモンの綿菓子のせい、
かな

(終)

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