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郷愁と感謝 〜特急ひたち上野発仙台行き〜

ふるさとの 訛なつかし 停車場の 人ごみの中に そを聴きにいく
石川啄木

常磐線沿い出身の私にとって、東京に行くといえばスーパーひたちで、最終停車駅は上野駅。
17番線ホームに降り立つと、駅員さんがたっているボックスがあって、そこで特急券を回収されたらそこが入り組んだ上野駅の入り口で、ドキドキしながら山手線に乗りこみ、雑踏に紛れる、というのが通例。
帰りも駅員さんがたっているボックスで改札を受けて17番線に入っていくと東京での楽しい時間が終わり、日常へゆっくりと戻っていく。
家族で旅行に来てワクワクした思い出も、東京で1人でやっていくドキドキとワクワクを抱えながら降り立ったのも、冒頭の俳句の像をみてちょっと切ないような気持ちになるのも、全て上野駅の17番線ホーム。
時が過ぎて駅員さんがたっているボックスが廃止されても、上野東京ラインが開通して品川までひたちが走るようになり、多くの特急ひたちの上野駅発着ホームが変わっても、上野駅の17番線が、私の東京の原点で、懐かしくて、あたたかい場所でした。

2020年のダイヤ改正で「約10年振りに仙台行きの特急が復活する」というニュースをきいたとき、私は胸がいっぱいになりました。
震災以降、原発付近が不通区間となり、最終駅はいわきに。
常磐線特急といえば「仙台行き」のイメージが強かった私は、なんだか切ない気持ちになりながら、「いわき」の文字を見て実家へ帰っていました。
だから、仙台行きが復活すると聞いて、なんだか青春が帰ってきたようで、すごく暖かな気持ちになりました。
東京から仙台まで走るのは1日3本。いま、東京から仙台へ行こうと思ったら同じ上野駅から乗れる東北新幹線の方が早く、みんなそれに慣れてしまっているから、常磐線特急仙台行きは需要があまりないのかもしれませんが、それでも仙台行きを復活させてくれたJR東日本の意地と誇りに強く感謝しています。

勝手に思い入れが強かった「特急ひたち上野発仙台行き」が2022年のダイヤ改正でなくなり、仙台行きはすべて品川駅発になってしまうということをきいたとき、いずれはくるかもと思っていたものの、こんな早いか……と少し身構えてしまいました。
当時の「上野発仙台行き」は朝8時発の1本のみ。だけど、絶対乗らないと後悔する……そう思い、どうにかダイヤ改正までに乗るぞ!と無理やり仕事の予定をこじ開けた結果、なんと乗車日はダイヤ改正の前日、2022年3月11日に。奇しくも震災から11年のその日、私は青春の詰まった特急ひたち上野発仙台行きに揺られ、4時間かけて仙台へ行くことになったのでした。

これからも見られなくなる訳ではないのに切ないような気がする仙台行き

別に上野駅から出る時は特段珍しいことも特別なこともないのに(少し記念写真を撮ってる人がいて、きっとこの人たちも上野発仙台行きを惜しんでいるんだろうなと思ったりした)なんだかウキウキして、駅弁を買って食べながらお出かけしました。

崎陽軒の春のお弁当

途中まではいつもの実家への道でも、その先にいつもより長く乗らなければならない区間があり、私は「その先」で見える海が大好きでした。
凪いでいて、少し他人事で、柔らかくて、時々眠くなる海を眺めました。
11年前、あんな大きな地震があって、津波があったことなんて忘れているような海でした。

その先も、ずっとずっと電車は進んでいき……。
広野や浪江の辺り、原発のある辺りの駅やそれより先の震災で流されてしまった駅は、乗降者数も多くなさそうなのにめちゃくちゃ綺麗で立派で、なんだか少し複雑な気持ちになりました。
確かに私はこの駅が、この路線が復旧してほしいと思っていたし、復旧して嬉しい気持ちもあったはずなのに、実情とちぐはぐな駅をみて、そこにいる人の生活の見えなさ、お金で解決を図ったような強引さが、少し心を冷やしました。

仙台に近づくと、電車は激しく揺れるようになった。
いつの間にかかなり街中近くを走っていたが、あまり線路の状態はよくなさそう。
4時間近く電車に揺られた最後がガコガコで、少し疲れた体に響いたものの、ジェットコースターに乗っているようで楽しかったなぁ。

途中でSuicaの営業区間が変わって、東京で入場したSuicaでは出場できないことに気づき、車内で改札を受けました。
昔はスーパーひたちの中を歩く駅員さんに必ず特急券をみせていたんだよな、と懐かしい気持ちになりながら、駅員さんを呼び止め、レシートをもらいました。
なんだかレアな気がして、出場の時に回収されたくないな〜なんて思ったりしました。

そうこうしているうちに、気づけば仙台にたどり着き、まだ肌寒い東北を実感しました。

ちょうど呪術廻戦にハマっていたので狗巻くんを連れてハピナ商店街での任務に。おそらく彼は新幹線で来ただろうけど……

仙台では青葉城に行ったり、雪の深い山の中の温泉に入ったり、荒川静香と羽生結弦のモニュメントをみたり、ベタな観光をひと通りして、次の日には東京に戻りました。
もちろん新幹線で。

行きの半分の時間で東京に戻ってきて、新幹線の速さに改めて感動したけれど、急ぎすぎな現代を生きる私たちは、たまには時間を無駄遣いするのもいいんじゃないかなと思いました。
たまには。

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