四肢のアジャストと脳

四肢のアジャストメントが脳に与える影響とは

カイロプラクターが背骨や骨盤以外にもアジャストメントでアプローチできるということは実はあまり知られていないように思います。

背骨・骨盤矯正といった言葉が先行してしまっているため、もしくは腰痛・肩こりに良いといったような先入観があるからでしょうか。

たしかにカイロプラクティックでは主に、脊椎・背骨や骨盤に対してアジャストメントを行うことが多いですが、関節内の受容器や周囲筋の筋紡錘へのアプローチと考えると、四肢へのアジャストメントももちろん可能だということは想像しやすいです。

足首へのアジャストメントを初めて受けた時の思い出

自分が初めて足部・足首にアジャストメントを受けた後、大げさではなく「しっかりと地に足がついて立っている」と足首から身体全体の感覚が変わったことを覚えています。

カイロプラクティックでは、脊椎・骨盤以外にも、四肢の関節である、足首・膝・股関節・肩・肘・手首、さらには顎など、~関節という名前が付いているものにはだいたいアプローチすることができます。

脊椎・骨盤とはまた違った方法になるので、それらに特化した教育やトレーニングももちろん必要になってきます。

四肢に対してアジャストメントを受けることで、単に動きが良くなるだけではなく、その部位を脳がより認知できるようになるとされています。

それはどういったメカニズムからくるものなのでしょうか?といったところで今回の研究論文の紹介です。

★対側の四肢マニピュレーションが脳に与える影響

機能神経学(Functional neurology)で有名なDr. Carrickらによって2010年に発表された研究です。子どもの発達障害へのアプローチで近年有名なDr. Melilloも参加していました。

◆Carrick instituteのウェブサイト

◆Dr. Robert Merilloのウェブサイト

とりあえず言い訳ですが、読んで理解するのがなかなか難しい内容でした。自分自身も機能神経学について勉強しようと学生時代から幾度となく挑戦してきましたが、毎回返り討ちにあっています笑

ということで暖かい目で読んでくださいね。

◎導入:人間の目には”盲点”というものが存在する。盲点が大きい側の頚椎に対してアジャストメントを行うと脳のはたらき(皮質活動)が増加するという先行研究がある。特に反対側からの刺激がより脳に大きな影響を与えているとされている。*例:右側からアジャストメントを行うと左の脳のはたらきが増加するなど。この変化は実際に解剖学的に盲点のサイズが変化したということではなく、神経学的に脳のはたらきが変化したからと推測できる。盲点はさまざまな情報を基に補完される(Perceptual filling-inまたは補完知覚)が、それは脳のはたらきなので盲点のサイズの変化を計測することが脳の変化の計測に応用できるのではないか?視覚情報・聴覚情報・脊柱からの情報が視床で統合されるため、脊柱マニピュレーションが影響を与える可能性もあるのでは。
◎方法:62人を31人づつの2グループ(AとB)に分ける。マニピュレーションに対する禁忌や視覚病理に関しては準備段階で評価済み。Aグループにはマニピュレーションに似た刺激(Sham)を与える。Bグループには上肢へマニピュレーションで刺激を与える。両グループともマニピュレーション直前後での盲点のサイズを計測する。アジャストメントを行う側については、盲点の大きいサイドに対して行う*。
◎結果・考察:マニピュレーション前の盲点のサイズは両側の平均で118.2mm(右:118.8mm、左:117.7mm)。マニピュレーション後、Bグループでは平均で14.7419mm小さくなった。Aグループでは、平均で1.4149mm。盲点のサイズが小さくなる⇒脳のはたらきの増加(改善)といえる?視覚野が関節・筋肉からの求心性の情報(特に固有受容感覚)に影響を受けた可能性がある。今後の課題として、より大きなサンプルでの研究が必要であり、その効果がどのくらい続くかを調べることも必要。特に、片方の脳のはたらきが一方より低下しているような場合は効果があるのでは?

◎引用文献:Daubeny N, Carrick FR, Melillo RJ and Leisman G. Effects of contralateral extremity manipulation on brain function. Int J Disabil Hum Dev. 2010 Nov, 9(4).

この研究から思うこと

いやー難しいですね。とりあえず四肢のアジャストメントに関しても、単にその部位の動きを良くするだけでなく、からだ全体への影響があるのではということが伝わってくれればいいかなと思います。

自分は普段の仕事で運動をする人をみることが多いので、脊椎・骨盤以外の関節にアジャストメントを行うことはとても多いです。特に、足首など以前捻挫をしてからなかなかよくならないといった問題を抱えている方にはとても効果があると思っています。

ケガをした時、筋肉や靭帯がしっかり治るということも大切ですが、脳がその部位をしっかりと認知できるように、早い段階で関節の状態を整えるということもやはり大切なのかなと思います。

ただそれを、脳のはたらきとの関係をみるために、盲点を計測すると思いつくあたりがすごいところですね。

足首・膝や肩・手首に関してもカイロプラクティックという選択肢を

脊椎・骨盤に対するアジャストメントはからだに刺激を入れる場合にとてもパワフルなものですが、四肢に関しても程度は変わると思いますが、同じようなアプローチができるというのは是非知っておいてもらいたいところです。

特に長い間、四肢の関節の悩みを持たれているような方には、選択肢としてアジャストメントも考えてもらいたいなと思います。以前、友人が言っていた言葉「関節から脳へと語りかけている感じ」というのがとても良くアジャストメントを表していると思います。

近江顕一, DC

研究に関してもうちょっと

盲点の計測やメカニズム、神経学的な関わりの細かい部分に関してはまだまだ理解できていないところがあり、全てをしっかりと説明するのは難しいです。

*補足として、アジャストメントを行う側・盲点の側・脳のはたらきの側を例を使って説明すると。右の盲点が左より大きい⇒左の脳のはたらきが低下⇒右の四肢にアジャストメントを行って刺激を入れる⇒左の脳のはたらきが増加⇒右目の盲点が小さくなる(脳のはたらきが増加)、です。

電気鍼を使用しても同じようなことが起こるという研究があり、今回のマニピュレーションと併せて、同じようなメカニズムとして説明できるのでは。
視覚障害と頚椎からのフィードバックには関係性があることがわかっている。
Aグループに対するマニピュレーション(Sham)は、Loadしていないアクティベーターを使って固有受容感覚の低い部分に行う(関節部や手のひらを避け、中手骨背面側の中間、尺骨背面側の中間、上腕骨外側の中間)
Bグループでは、ディバーシファイドを使用。箇所は、第一手根中手関節・第二~五中手指節関節・月状骨・腕尺関節・肩甲上腕関節・胸鎖関節。
この研究では、盲点が大きい方とは逆側にもマニピュレーションを行ったが、同側からの方が明らかに効果が大きかった。
盲点の計測・評価は再現性が高いので、指標として信頼できるのでは。

もっと詳しく知りたい方は是非フルテキストを読んでみてください。

*研究の中で、アジャストメントではなくマニピュレーションという言葉を使う理由に関してはこちらから↓




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