アジャストと脳

頚椎へのアジャストメントと脳の働き

腰痛や肩こりなど、痛みに効果が?というイメージがあるカイロプラクティックですが、カイロプラクターとして仕事をしていると単純にそれだけではないということを経験します。

クライアントさんの反応が、自分で説明が出来ないくらい劇的な時や、なんでそこまで良くなったんだろう?と不思議に思うこともあります。

そこには、「痛みに効く」「関節の動きをよくする」といった単純で、局所的なものではなく、もっとからだ全体に影響する何かを経験として感じとっているカイロプラクターは少なくないと思います。

アジャストメントが脳に及ぼす影響

2000年代に入ってから、「カイロプラクティックアジャストメントが脳に及ぼす影響」というテーマに関する研究がよく出てくるようになりました。

それまでは、「関節のずれが歪みが神経を圧迫して~」といった考えが長い間カイロプラクターの間ではなんとなく言われてきていました。

”関節の動きが悪くなる⇒脳に正しい情報が送られなくなる⇒正しい情報が入って来ないので脳が予想と過去の経験から判断してしまう⇒正しい指令が出せない”

今現在のカイロプラクティックのメカニズムとして少しづつ広まりつつありますが、その研究の先駆者がなんといってもニュージーランドのカイロプラクターであり神経生理学者でもあるDr. Heidi Haavik (BSc-Chiro, PhD)とそのグループです。

この記事では彼らが初期に発表した研究を紹介します。今の流れを作ったような研究なのでカイロプラクターには是非参考にしてもらいたいです。

★頚椎へのマニピュレーションが感覚運動統合を変える、体性感覚誘発電位を用いた研究

2007年にClinical Neurophysiologyから発表された研究です。カイロプラクティック特有のジャーナルではないところがポイントです。そして共同研究者のDr. Bernadette Murphy (DC, PhD)も覚えておいていただきたい人です。

◎導入:カイロプラクティックによる痛みの軽減や機能の回復のメカニズムは明らかになっていない。反射興奮性への影響に関する研究はいくつかあり、脊椎(関節)の機能低下が中枢での情報処理に影響を与えていることが徐々に言われ始めている。関節の機能低下による脳への情報低下が神経可塑性の変化を引き起こすのでは?これらがカイロプラクティックで行う脊柱マニピュレーション(SM)が身体に与える影響の説明になるのでは?
◎方法:末梢神経からの求心性の情報をモニターし、体性感覚誘発電位(SEP)の記録を脊柱マニピュレーションの前後で計測し変化を調べた研究。24人を2グループ(脊柱マニピュレーション vs. コントロール群)に分けて行った。頚椎へのマニピュレーション(HVLA=High velocity low amplitude、高速度低振幅)を用いる。触診での①関節の動きの低下と②その部位への圧痛があるセグメントを脊椎機能の低下とする。コントロール群では、他動でマニピュレーションを行う前の位置に頭をもっていく(肌・筋肉・前庭からの影響があるかどうかも評価する)。
◎結果・考察:脊柱マニピュレーションのグループにおいて前後で脳の情報処理や他部位とのコミュニケーションを行う部位においてSEPによる記録に変化がみられた。変化が持続したのはマニピュレーション後の20~30分。コントロール群ではみられなかった。頚椎からのインプットが変化したことで、脳内での処理に影響が出たのでは?一過性ではあるが神経可塑性の変化が観察された。コントロール群ではみられなかった変化のため、HVLAタイプのマニピュレーションが引き起こした可能性がある?最も大きな変化は脳内で他の部位とのコミュニケーションを行う部位でみられたので、感覚運動統合にも影響している可能性がある。

この研究から思うこと

カイロプラクティックが脳や身体全体に与える影響。今までカイロプラクターとして経験はしているが、なんとなく感覚で理解しているだけでこれといった説明をすることができないということが多くありました。

まだまだ可能性の域を出ませんが、アジャストメントというカイロプラクティック特有のものが単に関節の動き、痛みの緩和と言ったことではなく、脳での情報処理に影響しているというのは個人的にとても面白いことで、カイロプラクティックという職業を正しく認知してもらう上で引用できるようになるといいなと思います。

1895年に生まれたカイロプラクティックを現代科学で説明できる?

1895年にカイロプラクティックを生み出したD.D.Palmer。その当時、なんとなく感じとれていたものが、先輩方が受け継ぎ伝えてきたものが、現代科学でもしっかり証明できるのでは!というところに自分はとても魅力を感じます。

そういった意味でDr. Haavikのグループの研究は、本当にカイロプラクティックという職業の今後に関わる大切なものだと思っています。

近江顕一, DC

研究に関してもうちょっと

体性感覚誘発電位(SEP=Somatosensory Evoked Potential)に関しては正直難しくて、理解できていないのが本音です。脳に何からしらの変化・影響が出たのではということくらいしかわからないので、その点はご了承ください。

頚椎へのアプローチということで、椎骨動脈の異常に関するテストも研究の準備段階で行っています。

一次体性感覚野(S1)での変化(N20)がマニピュレーション後に20分程度持続、最も大きい変化は"皮質ー基底核ー視床ー皮質ループ(CBGTC loop)"といった複雑な働きをする場所での変化(N30)で、30分程度の持続がみられた。➡感覚運動統合への影響の可能性
脳での情報処理に影響を与える要素として筋紡錘(Ia)からの情報が考えられる。脊椎においては周辺の細かい筋肉からのもの。

難しいですね…

*研究の中で、アジャストメントではなくマニピュレーションという言葉を使う理由に関してはこちらから↓


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?