MIENEXTAGE2024「旗揚げ公演」

MIENEXTAGE2024「旗揚げ公演」開幕!

私にとっても恒例イベントになってきた。この挨拶文も前に書いた気がする。感想文も毎回同じようになりがちだけど、パワーある劇団の方々が毎回趣向を凝らしてさまざまなネタ持ってきてくれるからその心配はなさそうだ。とても助かる。

さて、今回のミエネクはいつもとひと味違う。どう違うのかというと、今まではそれぞれが珠を繋いでひとつのブレスレットを作り、それを露店に並べてさあどうぞというスタイルだった。未来ある学生たちが、働きアリみたいにちょろちょろと露店の裏方で動いている。これが従来のミエネク。
今回は、それぞれの珠玉を出し合ってひとつの美しいネックレスを作りましょうというものだ。ネックレスを作るのに必要な珠に通す糸が、働きアリだった高校演劇部の学生たちである。

劇団立ち上げにはさまざまなものが必要となる。人、場所、お金、そして何よりも演じるのに必要な脚本だ。これぞという脚本を探し、高校生たちが悲喜こもごも奇々怪々、現実と非現実、情緒と辛辣の脚本の世界へ、世にも奇妙な物語のタモリみたいな感じで案内してくれた。さあ、学生たちよ。素晴らしい脚本を我々にプレゼンしてくれ!

【劇団Cr→】「レディ・ファイト」

嫌な感じのしない女性を描かせたらこちらの脚本家さんは天下一品じゃないかと思う。人間ドックならぬ、美を徹底解剖する美容ドック(ごめんなさい正式名忘れてしまいました)を受診しにやってきた三人のアラサー女子。自分たちにいかに美が必要か、美を手に入れたら何をしたいか。お互いに慰めあい、同情しあい、おそらく学生時代から変わらぬであろう女の子のノリも交えながら団結力を見せていたが、現れたスタッフの一言で状況が一変する。

何と三台あるうちの機械がひとつ壊れてしまい、どうしても今日は二名までしか検査できないとのこと。三人娘の顔色が変わる。それまで息の合った会話を展開させていたのに、この検査を受けるべきは我以外になしと先を争うように信憑性を説くが、それがどう~も三者三様ちょっぴり虚しく、ちっぽけ。そのちっぽけな虚しさを美で補おうとするのが女性だし、ピンチになると多少の自我が剥き出しになるのもまた女性。三人で詰め寄っているうちにだんだん声が大きくなっていくのすごく自然でリアルでびっくりした。私もいい年の女だから共感そして叫喚するところも多く、結局変わり身の早さで憎めない感を出してくる彼女たちのことを応援したくなった。三人が女優さんにはあまり見えなかった(褒めてる)

【蕎麦猫】「闇バイト」

・音が鳴ったら窓に手を振る
・部屋から出てはいけない
・やまびこ注意
※原文ママではありません

怖い。怖かった。ある二人の女性が奇妙なバイトに申し込む。部屋に閉じ込められ、音が鳴ったら窓に向かって手を振るだけの簡単な作業だ。それ以外の時間、暇を持て余しながら黙々とたったひとつの指令をこなしていく。すでに何度も目に入って気にもならないのか、二人が壁の張り紙に目を向けることはないし、話題に上ることもない。疑問を持ったところで、答えがあるはずもない。部屋の中には、女性が二人。それだけだ。

この音がまた怖くて。いい感じに気持ち悪い。気軽に見直すことができないのが演劇だけれども、もし可能なら、手を振る際の彼女たちの表情の変化に注目してもらいたい。最初は気軽。笑顔さえある。それから飽きたような雰囲気。そしてひとりの異変。それから無。それから……。
たしかに、闇が深そうなバイト。

【劇団ハイエナ】「エビはマメな水換えが必要」

男男女女の四人兄妹。ことの発端は末っ子のヒカリの恋愛相談だ。「明日告白するね」とすでに告白予告を受けた場合どうしたらいいかと、多少長生きしているひとつ屋根の下の兄姉たちに救いを求めるヒカリに、それぞれがそれぞれの個性でもって答えようとする。するとそこへ、突然未来の長男(五年後)がやってきた。彼は言う。ここで軌道修正しておかないと、未来のヒカリがホスト狂いで人生潰れてしまうぞと。気軽に始まった恋愛相談が実はとんでもなく圧のかかる選択になってしまった。正味二十分しかいられないくせにくっそしょうもない話を延々繰り広げる長男(五年後)に追い立てられるように、兄弟たちは策を練る。そこで見えてきたもの……それは、以外とこぢんまりした、水槽の話。

家族は一番近しい他人である、という言葉がある。私も実家暮らしのため、ときおりこの言葉を噛みしめ、痛感することがある。友達でもない、自分でもない、でも他人より知りすぎている他人の集合体。特に兄弟は性差を超えて横一列に並ぶ同志であり、気軽に上下をつけられる関係であり、甘えやすく、傷つきやすく、面倒くさい。

てっきりこの予告告白をどう転がすか兄弟それぞれ吟味し合って発展させていくのかと思っていたら、話は意外な方向へ。現在まったく家に帰ってきていない長男、その五年後が来たことによって下の者たちの不満が一気に爆発。まさかあの流れでガチでモラハラ糾弾になると思わないじゃないか。もはやヒカリの恋愛相談なんてどうでもよく、わずか二十分の間で自分たちがどうすべきか、兄弟たちは少し思うところがあった模様。小説の○○事件簿エビ兄弟シリーズなんてタイトルで出てきそうな人たちだった。

【玉彩★Ca劇団】「サン★ガッツ」

結成三十年のシニアヒーロー戦隊サン★ガッツのメンバーは、地味な仕事でヒーローとしての充足感を得ていた。町内の見回り、ちょっとした警備。バイトで収入を補填しながら、休憩時は買ってきたミカンをこたつで囲むのが彼らの日常である。そんなとき、サン★ガッツの守備範囲(笑)にミカンの化け物ミミミカン(だったかな?)が現れる。本当にすみません。名前を一回で覚えるのが苦手で……。勢い込んで立ち向かうサン★ガッツ。見るも無惨に返り討ちにあい、逆にミカンにアジトに乗り込まれ、太刀打ちできなかったが、ひょんなことからミカンの化け物が実はメンバーの妹であることが発覚し、サン★ガッツは本部に逆らってでも彼女を新メンバーとして迎えることを決意するが……。

三重の劇団、三重の演劇、三月公演に絡めてこれでもかとサンを押し出してくれてどうもサンガツ。
悲しいくらい中年。足も腰も弱ってるのにいまさら夢も生き方も変えられなくて、しかも自分に甘くて……全部中年。一生懸命だけどダサくて弱いニッポンのおじおばの姿をこれでもかと見せられた。すごく笑ったし、すごく笑われていた。年をとるって物悲しいから、笑いに変えられると安心する。けしてバカにされたり、こうはなりたくないと蔑まれない笑いなのだ。どころかちょっと、サン★ガッツ楽しそうだな、混ぜてもらいたいなと思える空気感なのだ。おじさんとおばさん可哀想だけど楽しそう。誰かを助けたいと思って隠蔽する姑息で半端な感情論も昭和。

でもそれでいい。それがいい。と思わせてくれる非常に賑やかしくて明るくて可哀想で面白い。ちょうど疲れた尻にはちょうどいい肩の力が抜けたのを力いっぱいやってくれる良い演劇を見せてもらった。個人的に大好きな推し脚本家の作品なので最高だった!みんな声が大きくて素晴らしい。地味だけど、大事なこと。

さて、個性豊かな脚本を集めた若き学生たちが下した決断は……やはりそうなるね。わかる。観ていると作り手になりたくなる。でもやはり観客のポジションを譲りたくない私はここにいるけど、学生たちはどんどん演劇界に石投げたり、同じ水で優雅に泳いでほしいと思った。
ういういしい演技がとてもかわいかったよ。四西生さん、各劇団の方々、今年もお疲れ様でした。


⬆⬆⬆毎年、チラシのイラストは玉彩★Ca劇団に所属する姉が担当しています。毎回すごいよ〜!

【Misaco】X(旧Twitter)→@Misacojp

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