無題

記憶の残滓だけでも集めたい人がいるように思える。
そんな人たちに向けて、あるいは自分のために少し書きとどめておく。
彼と思い出話することはもうできないのだから。
書いているうちに色々と思い出せたことがあった。



彼とは同じ大学だった。
ニコニコ動画は関係なく、10年以上前からリアルの知り合いだった。
初めての接点は彼が鹿児島から上京して間もなくの頃で、小さなステージで歌っているのを見た。
NUMBER GIRLに強く影響を受けたであろうステージングは熱くて男臭くて素晴らしかった。
ライブ後彼に直接「素晴らしかった、君にはすごい才能がある」と伝えた。
彼はくしゃっと笑って「ありがとうございます」と言っていたと思う。
普段の静けさとステージでの振る舞いにギャップがあった。

その後、ボーカロイドのブームが巻き起こり、自分もその熱狂に酔って楽しんでいた。
まだ小さな会場で開催されていたボーマスに行ったとき、出展する側で彼がいた。
「なんでいるの?」と。
「秘密にしておいてください」と言われた(当時は表に出ないよう意識していたようだ)。

ライブでのイメージから、フロントに立って暑苦しい音楽を叫ぶのが彼に合っていると思っていたから、少女が(を)歌う曲を創って評価されているところにもギャップが合った。
しかし改めて音楽を聞いてみると、禅問答のような歌いまわしや、使う言葉に彼の断片が垣間見えてきた。

彼が引っ越す前に遊びに行ったことがあった。
わたしはギターを持って、彼が恩人への贈り物として創っている個人的な音源を少しだけ手伝った。
あとはお酒を飲んで音楽の話をしていたのだと思う。
当時の彼の小さな部屋はダンボールだらけだった。

引っ越しをしたタイミングで、また遊びに行った。
鍋を食べた。
たっぷり野菜を入れて作ってくれた。
わたしは一人で飲みきれないお酒を持っていったと思う。
彼の家から一緒に弾き語りをする生放送もした。
(友人ということで名前は出さなかった)

ヒトリエが動き出すところで、当時創ったばかりの曲を聞かせてくれた。
ものすごくかっこよかったが、羨ましさからサカナクションやRADWIMPSの影響あるだろ、と微妙な感想を言ってしまった。
いいものをいいと言えない人間は最低だ。

アーティストの格好良さ、理想のバンドの姿など音楽の話から、将来結婚すると思うか、など、色んな話をしていた。
構築したばかりの、素晴らしい音楽環境で多少自慢げに音楽やライブDVDを聴かせてもらったのは思い出深い。
お酒を飲みつつ好きな音楽を交換していると、いつしか朝になっていた。



どんな出来事も、時間とともに薄れていく。
時間とともに、あるべき場所に落ち着いていくだろう。


もっといい音楽を創れたであろうし、創りたかっただろうなと思う。
この界隈で、本名で呼び合うのは彼だけだった。



<追記2021/11/08>
haruka nakamuraさんのライブに一緒に行ったことを思い出した。
ぼくがこんないい音楽あるんだぜ、と紹介したら彼は既に知っていた。

10人程度しかお客さんがいないような、
haruka nakamuraさんの小さなライブに誘って、
二回ほど一緒に聴きに行った。
当時のharuka nakamuraさんは限りなく即興の音楽で、哲学的なライブだった。
(おそらく関係者の)子供が外で遊んでいる声が音楽に溶け込んでいて素晴らしかった、
そんな感想を言い合った記憶がある。
純粋な音楽だった。

その後に、彼の家に遊びに行ったんだった。
生放送したときの動画が見当たらないのは、彼の家のPCから放送したからか。
話す声が聞けるかも、と思ったけれど残念だな。
あとはボイトレの先生を紹介したり、検索したら色々やりとりがあった。
LINEにはもう履歴が消えてしまったけれど、友人としてアカウントが存在している。
過去を振り返るのは好きではないけれど、できるだけ忘れたくないと願ってしまう。

<追記2023/04/05>
彼の四回忌になる。
つい最近思い出したことがあったので、追記する。
以前、同人のCDをDJのやまだひさしさんと創ろうという話があって、そこにwowakaくんが協力してくれたのだ。詳しくは思い出せないが、やまだひさしさんの口笛の録音を担当してくれたのだと思う。音源がやたらキレイだったので、おそらくEDITまでしてくれていたんじゃないだろうか。
2012年の話だ。
学生の頃のことをあまり思い出せない、、あの時一緒だった人がもし読んでいたらDMください。

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