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『人生のカレンダー 「家」の再生の物語(仮)』⑤

父との時間1

「報告です。お話聴いてくれますかぁ」。

来た!
ちかちゃんはSNSで近況をUPして楽しそうにしている様子をいつも見ているので、近況は分かっているが、人生のカレンダーがどういう変化をもたらしているか、問題はここ。

「お父様とはどう?」

「おばあちゃんは、先日亡くなって、お葬式も挙げたんですが、それからもパパとは頻繁に会っているんですね。とっても仲良しです」。

「ふんふん、それはすごい」。

「私の主治医の先生は、お財布代わりにしちゃえよとかいって、おいしいものでもごちそうしてもらえって言ってたんですけど、パパ、私の手料理が食べたいって言いだして、私の家に来たいって言って、先日、オムライスを出したんですね。おいしそうに食べてくれました」。

「うーん、すごいね」。

「もう、ありきたりのたわいのない食事ですし、それとありきたりの会話なんですけど、このありきたりの会話がとっても愛おしいんです」。

「うんうん」。

「私ね、なんでね、パパが私を置いて出ていったのか、ずっと疑問に思っていたんですけど、このことを聴いてみたら、私はしっかりしているから大丈夫だと思っていたらしいのね。そりゃしっかりもしますよ。だってね、パパとお母さんはいつもけんかしていて、仲裁に入って何とかけんかをやめさせようとしてれば、そりゃ自分がしっかりしないとと思うじゃないですが」。

「うんうん」

「それで、思い出のメリーゴーランドの置物はどうなってる?って聞いたんですよ。そうしたら、すでに手元にはないけど、同じような立派なメリーゴーランドを探してきてくれて、くれたんですね」。

「うんうん」

「私のこと、ずっと覚えていてくれたんだなぁって思いました」。

「う~ん、それで、今どんな気持ち?」

「それで、いろいろなことを思い出してきたんですけど、パパが家を出ていくとき、ドアがパタンとしまった時の音を今も覚えているんですね」。

「うんうん」。

「それでね、今こうやって話していて、ずっと迎えに来てくれるのを待っていたんだって、思うんです」。

「それで、迎えに来てくれたと」。

「そうですね、迎えに来てくれたんです、今まで失われた時間を取り戻すために」。



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