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「2回接種後に免疫機能は低下に転じることがLancet論文で示された」は根拠不明

[2023/4/23更新]
「2回接種後に免疫機能は低下に転じることがLancet論文で示された」は根拠不明。本論文にそのような記述はない。図のグラフは逆転(マイナス)したのではなく、信頼区間がゼロを跨いでいるので、有意差が無しと判断するのが正しい統計学。複数のファクトチェックがFALSEと判定。

【解説】
 ワクチン効果を表す中心点の実線が8ヶ月経過したところで逆転(マイナス)したので「効果はマイナス、感染し易くなった」という主張であるが、重要なのは信頼区間がゼロを跨いでいること。つまり、統計学的に有意差は無く、論文では「検出不能」としている部分を、推測で都合良く読み取っているだけである。
 ゼロに収斂せず、マイナス側へ下降しているので、いずれマイナス効果の有意差が出るのではないかとの意見があるが、これもデータが無いので推測でしかない。
 元データを確認すると、マイナス側に働いた要因は以下の2つのみ。
1) 180日以上経過時、年齢80歳以上の接種者は未接種の1.8倍いる。
2)120日以上経過で、アストラゼネカ製のワクチン効果が-19%もある。
 いずれも原因は不明。年齢・性別など多数の交絡因子の補正が必要で、バイアスの影響を排除しきれないと著者も認めている。

◾️Lancet論文(2022/2/4)
 スウェーデンの全人口を対象に、ワクチン接種後9カ月間の感染、入院、死亡のリスクに対する有効性を調査したもの。この論文の結論は「ワクチン効果は4カ月以上経過すると若干の低下がみられるが、9カ月までは良好に維持される」である。
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(22)00089-7/fulltext

◾️Figure 2(論文中の図)
「完全接種後9ヶ月までの重症度を問わないSARS-CoV-2感染に対するワクチン効果」
8ヶ月経過後は、信頼区間がゼロを跨いでいるので、統計的に有意差無し。論文では「検出不能」としている。効果は「有る」とも「無い」とも言えない。

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◾️Table3(論文中の表)
「あらゆる重症度のSARS-CoV-2感染に対するワクチン効果」
180日以上経過時、年齢80歳以上の接種者は未接種の1.8倍いる。

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◾️Table2(論文中の表)
「完全接種後9ヶ月までの重症度を問わないSARS-CoV-2感染に対するワクチン効果」
Pfizer BNT162b2
121~180日47%(95%CI:39~55)
211日以降23%(95%CI:-2~41)
Moderna mRNA-1273
181日以降59%(95%CI:18~79)
Asutorazeneka ChAdOx1 nCoV-19
121日以降-19%(95%CI:-98~28)

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以下はファクトチェック。

[Leadstories ファクトチェック]
「2回接種した8ヵ月後の免疫機能は未接種よりも低い」と主張する記事があるが、その根拠は唯一のカテゴリー、年齢80歳以上で完全接種後180日以上経過した人という極小のサブセットのみである。この一群を除いては、ワクチン接種を受けた人の方が良好であった。
https://leadstories.com/hoax-alert/2022/07/fact-check-covid-vaccines-do-not-suppress-immune-system.html

[factcheck.org ファクトチェック]
論文中にそのような記述は見つからず、図の誤った解釈であるように見える。数値は統計的に有意ではないので、非常に不確かなものである。また、ワクチン接種後の時間の経過とともにコロナウイルスに対する免疫が低下することを、あらゆるものに対するヒトの免疫が低下すると誤って一般化した解釈をしている。Lancetの論文にも、他のどこにも、そのような証拠はない。
https://www.factcheck.org/2022/07/scicheck-covid-19-vaccination-increases-immunity-contrary-to-immune-suppression-claims/

【追記】
ワクチンや治療薬の有効性・安全性については自己でご判断ください。当方は、皆さんが正しい情報を基に判断できるよう、デマの指摘に努めます。