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「マスクに捕集されたウイルスが再吸引される(Foegen効果)」は根拠不明

[2024/7/25更新]
「マスクに捕集されたウイルスが再吸引される(Foegen効果)」は根拠不明。提唱者Fögen氏の論文に疑義あり。データ元の先行研究は「感染率減」なのに、Fögen氏の論文はなぜか「死亡者増」。Fögen氏自ら仮説と言うように、当論文からはFoegen効果の科学的な根拠は見いだせない。

【解説】
 提唱者Dr.Zacharias Fögenの論文をTown hallが記事にして拡散したもの。Foegen効果とは、マスクに付着した飛沫が乾燥して微粒子になり、それを再吸引すると症状が悪化するというもの。 
 Fögen氏は著名な反マスク論者。「Foegen効果」は氏が論文で自らの名を付け命名しただけで、学術的に認められた説ではない。他者の論文で「Foegen効果」に言及したものは無く、Fögen氏の論文もこの単著論文が唯一である。
 Fögen氏が論文で元にした先行研究は、結論が「マスクを義務化すれば感染防止効果が上がる」である。この先行研究のデータに死亡者数を加え「マスクを義務化すれば死亡者が増える」と全く逆の結論に再解釈したのがFögen氏の論文であり、Foegen効果の根拠であるが、これには幾つかの疑義がある。
 例えば、データを引用する際に恣意的に抽出し直していること。死亡者数は新型コロナ以外の死因を含む総数であること。米国では義務化してもマスクの装着率は期待するほど上がらないこと。死亡者が実際にどれくらいマスクを装着したかデータが無く不明であること。「感染拡大し死亡者が増えたから義務化した」のに「義務化したから死亡者が増えた」と誤った解釈をした可能性があること、など。
 いずれにせよFögen氏が自ら”Hypothesis(仮説)”と書いているように、当論文では根拠に乏しく推論の域を出ていない。
 マスクの優れた捕集能力は一旦捕まえたウイルスを簡単には離さないとする実験結果もある。

◾️拡散されたTown hall の記事
https://townhall.com/tipsheet/scottmorefield/2022/06/05/new-study-mask-mandates-associated-with-increased-covid-death-rate-n2608241

◾️Dr.Zacharias Fögenの論文
“The Foegen effect  A mechanism by which facemasks contribute to the COVID-19 case fatality rate”
https://journals.lww.com/md-journal/Fulltext/2022/02180/The_Foegen_effect__A_mechanism_by_which_facemasks.60.aspx

◾️カンザス州マスク義務化データの先行研究
“Trends in County-Level COVID-19 Incidence in Counties With and Without a Mask Mandate - Kansas, June 1-August 23, 2020”
マスク着用義務のある郡とない郡におけるCOVID-19発症率の推移-カンザス州
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33237889/

◾️マスク義務化と装着率に関する論文
“Mask wearing in community settings reduces SARS-CoV-2 transmission”
マスク装着は感染の顕著な減少に関連するが、マスク装着率は義務化以外の要因も寄与している。義務化は粗く不均質で、平均8.6%しか着用率を増加させない。
https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2119266119

◾️Fögen氏
反マスクで有名なドイツの心療内科医師である。https://zachariasfoegen.wordpress.com

◾️Fögen氏の論文を反証する記事
Mcgill大の記事“The Fögen Effect Masks a Big Methodological Issue”(2022/7/22)
Fögen氏の論文は彼の唯一の論文で、彼が単独で書いたもので、生態学的誤謬に陥っている。
https://www.mcgill.ca/oss/article/critical-thinking/fogen-effect-masks-big-methodological-issue

◾️Environmental Science & Technology(2023/7/3)
マスクが感染の媒介となることは実験により否定されている。マスクに新型コロナウイルスを付着させ、一時間後に人工皮膚に押し当てた実験。感染性のあるウイルスは移行しなかった。これはマスクの外側の実験であるが、内側でもマスクの優れた捕集能力はウイルスを簡単には離さないと考えて良い。
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.est.3c01581#