【優】Duck Detective: The Secret Salami @ 2024-05-28

私に読書の趣味はない。以前付き合っていた女が根っからの小説好きだったのだが、私が読める物語なんて推理小説ぐらいしか無いと主張すると心底呆れられたものである。まったく、推理小説の何が悪いってんだ、バカ女が。謎解きってのは本質的に楽しいものなんだ。特にその謎が、簡単すぎず、難しすぎずのいい塩梅で、かつ演出や表現が優れており、筋書きも意外性があって面白ければ、誰だってついつい夢中になって最後の結末まで読んでしまうだろう。本日ご紹介するDuck Detectiveはまさにそういう良質の推理小説のようなゲームなのだよ。

現在はリリース直後のセール価格が適用されており、定価1200円の1割引で1080円となっている。


長所

  • 謎解きゲームや推理ゲームはビデオゲームとしてはシンプルである以上、その面白さはどうしても謎自体に左右される傾向が強い。そして謎解きの面白さというのは大変にバランスが取りづらいものだ。簡単すぎては白けるし、難しすぎては解けずに苛つくわけだが、本作Duck Detectiveは「やや難しめ」ではあるものの、うまくバランスを調整できている。少なくとも簡単すぎて白けるよりはプレイしていて面白かったし、どうしてもわからなければヒントモードが用意されているので、そちらを活用すればよいだろう。私も数回ヒントのお世話になったが、ヒントを使ったからと言って直接答えが出てくるようなことがないのもよい。むしろ、ヒントありでちょうどよいぐらいの難易度かもしれない。

  • 謎自体の面白さに加え、もう一つ、謎解きゲームの面白さを決定的に左右する要素がある。それは演出である。ゲーム性そのもので面白くする余地が難しいとなると、どうしても登場するキャラクターを魅力的にしたり、演出を興味深くして、あたかもアニメや漫画、映画や活劇のような面白さで補わなければならなくなる。その点において本作Duck Detectiveは、満点の合格だ。定価1000円のインディーズゲームのくせに、何と本作、英語ではあるものの、フルボイスである。しかも声優に造詣のない、英語ネイティブ話者ですらない私が聞いてもわかるぐらいに、とにかく全員演技がうまい。嘘や隠し事をしているような場面ではきちんとそれが演技に現れるのもニクい。

こいつが主人公のDuck Detective(本名Mc何某さん)なのだが、ビビるぐらいの中年おじさんイケボで語ってくれる。男の私ですら惚れる。惜しむらくは日本語ではない点だけである。

ちょうど、このファンアートのおっさんみたいなイメージ。それぐらいのイケボ。他の登場キャラも男女いずれも見事な演技だ。

  • ゲームシステム自体も良い。オーソドックスな探偵ゲームや謎解きゲームの要素が散りばめられている。関係者に話を聞いてみたり、証拠品を探したり、部屋の中や相手をよく観察することでヒントやキーワードを得るというものである。最終的には集めたキーワードを利用して推理を完成させれば物語が進行する、という仕組みだ。特に捻りのある点はないが、その分、基礎に忠実にクオリティ高く作られており、不満感や安っぽさ、萎える要素がまるでない。雑念なく没入させてくれる。

証拠物の調査を行っているところ。自分のマウスカーソルでルーペを動かして証拠物を隅々まで詳しく探索し、違和感のある点を探す。ルーペで拡大されているところだけが詳しく読めるというのがニクい。右の一覧に表示されているキーワードだけではなく、それ以外の細かい重要なヒントが多数、絵の中に隠されているぞ。本物の探偵や鑑識になりきって細部に至るまで真面目に調査しよう。


短所

  • 謎解きゲームには本質的に解消できないアキレス腱が存在する。そう、リプレイ性である。そしてネタバレに弱い。一度遊び終わってしまったら再度遊べないという問題点はどうしようもないのだが、本作のコンテンツ量の少なさが追い打ちをかける。1000円のゲームにボリュームを期待するほうがおかしいかもしれないが、それでもこの量ではとても満足できない。ゲーム自体が大変良くできているだけに惜しい。

  • そして我々日本人を悩ませる英語の壁である。そこそこ難しい単語が登場する上に、英単語をきちんと理解していないと回答できない問題まで存在する。主人公のDuck Detectiveがせっかく驚くほどのイケボで喋ってくれたとしても、何を喋っているか分からんのでは台無しだ。

  • どちらかというと謎解きの難易度は難しい側で、かつ、すべての謎が「明示的に」説明されない点に注意しなければならない。手元の資料や会話の端々など、何処かには必ずヒントが存在するが、それがわかりやすい形で回答の答えとして登場する事は殆ど無く、謎の回答を行う際には少し踏み込んで推理した結果を入力しなければならない、というバランスだ。例えばこれが逆転裁判やダンガンロンパであれば「答えそのもの」がどこかに必ず見えているようなヒントが多いのだが、それよりも一手ヒントが少ない状態で推理して答えを返さなければならないので、そこだけ慣れるまで難しい。

  • 謎自体に対する不満は少ないが、それでも私見で2箇所ほど理不尽な謎が存在した。正確には理不尽というほどでもないが、手がかりが手元で簡単に見直せない場所に隠れてしまっているのだ。その他、謎の回答は穴埋め問題になっているのだが、ヒントを見ない限り一意に定まらないような穴埋めが発生する問題も存在して、これには少々腹が立った。


総括。探偵ゲームや推理ゲームに求められる基礎基本がきちんと守られている、まさにお手本のようなゲームだ。難易度も決して難しすぎず、かといって子供だましのナゾナゾでは断じて無い。惜しむらくは大変にコンテンツが少なく短い点、そして英語の壁だ。将来的にDLCや続編で新事件と共に日本語吹き替えが実装された日には向かうところ敵なし、はなまる満点。頼むから今すぐ追加コンテンツを売ってくれ、1000円でも2000円でも私は払うぞ。