Teardown @ 2020-11-01

【良】ボクセルベースの破壊表現が注目されている作品であるが、本作品の本質はまるで別で、AIが極端にザルな泥棒シミュレーションゲームをゲームとして成立させるためにはどうすればいいか?という答えであるように思われる。AIが極端にザルだから何を壊してもバレないのだが、その代わり目的のアイテムに触れたら絶対にバレてしまい60秒で逃げ出さなければならないのだ。このようなゲーム体験は過去になく非常にユニークで楽しいのだが、現段階ではまだ短所が長所を上回っているゲームのように感じられる。ゲーム自体がバグってんじゃないのかというぐらいに重すぎる上に、何をどう設定をいじっても30分で酔ってゲロ吐きそうになるのが辛すぎて優評価を与えられない。

長所
・PVやストアページの説明を見ると、史上初の体験が得られるボクセル破壊表現を楽しむゲームのように錯覚しがちなのだが、どちらかと言うと本作の本質はTheif Simulatorのようなゲームに近い。つまりパズルゲームとして、警報を避けながら他人の敷地や家に押し入り、特定のアイテムを回収するゲームなのである。しかしながらこれまでの泥棒シミュレーターゲームが、泥棒と聞いて皆が想像するであろうステルスを中心としたゲームであったのに対し、本作はいわばエクストリーム強盗とでも言わんばかりの超絶力技強盗を楽しむゲームなのである。すなわち、ステルスゲームの問題点はどうしてもAIをアホにするしかない点なのだが、本作はそれを逆手に取り警備を極端にザルにした泥棒ゲームを作るにはどうすればいいかをよく考えて設計しているように見える。本作のルールでは、特定のアイテムを手に取るまでは基本的に家を壊そうが大爆破しようがショットガンで蜂の巣にしようがクルマで体当たりしようが何をしても絶対にバレることがないのだが、逆に特定のアイテムを手にしたら絶対にバレてしまうのである。このゲームルールの設定を活かすべくボクセル破壊を利用したというのがこれまでにない良さだ。
・肝心の破壊表現についても、たしかに本作ではあらゆる物をボクセル単位、いやボクセルがあまりにも小さいから、まるでピクセル単位のようにあらゆる物を破壊することが出来る。地面も乗り物も建物も鉄も。壊せないものなど水以外に無い。パズルゲームとしてこの自由度はまさに破格である。
・では自由であるがゆえに楽勝であろうか、と問われたら、むしろ逆である。本作のパズルゲームとしての難易度はむしろ非常に高い。なにせ、普通に歩いたらマップ一周2分3分はかかるであろう広さのマップから、4箇所だとか5箇所を、たったの60秒で回ってアイテムを回収しなければならないのである。常識的に考えては不可能なことを可能にするために本作の異次元の自由度を最大限に活用しなければならない。本作のアラームはアイテムとアラームの間の線が切れるかアラームが破壊されない限り何をしても発令されないのだから、例えばアラームとアラームの間の線を維持したまま周りを全て破壊して壁ごと切り取って運んでもアラームは一切発令されないのだ。つまり家をまるごと基礎から切り取ってダンプカーに乗せて逃げる、みたいな戦略が立派に通用するのである。こんなメチャクチャなゲームはおそらく本作が世界で初めてのはずだ。

短所
・まず最大の問題点として異常にゲームが重い。それもただ重いのではなく、何か開発者の技術力不足または実装に問題があるのではないかと思われるような重さなのである。具体的にはFullscreenをやめてBordered Windowにすると劇的にゲームが軽くなるとか、VSyncを1/2フレームにすると重すぎてゲームにならなくなるとか、本来であれば軽くなるはずのオプションを選んだほうが劇的に重くなるなどといった現象が多発しているのである。もちろんこの後の最適化やバグ修正で全てが解決して何の問題もなくなる可能性もあるのだが、開発者の能力不足の可能性もゼロではない。
・二番目に、やや個人的な問題かもしれないが、このゲームは異常なほど3D酔いがひどい。3D酔い対策にはFoVを広くして(一般的に90度前後が良いと言われている、それより広いと違和感のほうが増える)Head Bobbing頭揺れ表現をオフにするのが良いのであるが、本作はデフォルトのFoVが90度であるにも関わらず何故か非常に視野が「近く」感じられ、おまけにHead Bobbingの設定をゼロにしていても武器の攻撃アニメーションで画面が揺れまくり、高いところから着地すると画面が揺れまくるのである。全くHead Bobbingの設定が機能しておらずあっという間に酔ってしまう。私のプレイを後ろから見ていた友人も「5分で酔うでしょこれ」と顔をしかめていたぐらいだ。私も30分以上どうやっても我慢できない。2時間半プレイしてレビューを書くために4回は休憩しているのだ。
・さて、肝心の破壊表現についても、たしかに何でも壊せるのは楽しい体験なのだが、一方で壊れ方については大いに不満がある。まるで鉄を壊そうが木を壊そうがレンガを壊そうが、何を壊そうがプラスチックのレゴブロックをバラバラにしているかのようで、重さもなければ勢いもまるで感じない。要するに壊していてもカタルシスをあまりにも感じられないのである。何を使って何でも壊せる、という点については革新的だが、壊れ方については言うほど本能に訴えかけてくるものではない。
・おまけにゲームのルールがパズルであるため、何でもかんでも脳みそ空っぽにしてぶっ壊しまくるというようなゲームプレイが難しい。最初に緻密に計画を立て、もちろんその計画の中で誰も思いつかないようなクリアの仕方をひらめいて、家まるごとフォークリフトで移動してクリア地点に移動するとか、そういう事もできるにゃ出来るのだが、大概のシナリオにおいてなんというか「想定されたクリアの仕方」みたいなものが見える作りになっていて、それに従って計画通りの場所を計画通りに破壊して進路を切り開かなければならない。少し間違って壊しすぎてしまうと考えていた進路を使えなくなったりとか、最悪の場合アラームが起動してしまって一からやり直しになってしまうとか、なんというかこう何でも壊せるゲームと聞いて最初に思いつくような遊び方が現状ほとんどできない(一部できるマップもあるが最初の方だけである)。今後のゲームモードの追加やMODのサポートなどで化けるかもしれないが、現段階ではパズルとして遊ぶしかない。

PVやストアの説明書きと実際のプレイ感覚が大いに乖離しているため、購入する前には慎重になることをオススメする。いかにもド派手にトラックで建物をぶっ壊し爆弾で倉庫を吹き飛ばすゲームのように見えるのだが、実際には非常に緻密に事前に計画を練った上で余計な箇所を破壊しないように精密な破壊を要求されるのである。そこには破壊の爽快感はあまり無いのだが、逆に計画通りにコトが進んで60秒以内に全ての目標をゲットしてスマートに逃走できたときのパズルゲームらしい楽しさが確かにある。これまでにない体験なのは間違いない。ゲームのコアは素晴らしいダイヤの原石なのだ。後は開発者がどのように問題点を切り落として美しい宝石に仕立て上げるかにかかっているだろう。今すぐ買わなくてもよいが、ウィッシュリストに入れ注目して待つに値する作品だ。


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これがゲーム開始30秒後の画面そのままである。まぁ早期アクセスが始まったばかりのゲームであるから、一切のチュートリアルがないのはまだ許してやるとしても、この絵を見ているだけで吐きそうにならないだろうか?なんというか、何かがおかしいのである、本作のグラフィックは。見ていてなんというか、パースが狂っていると言うか、違和感がどんどんと沸き起こってくる、特に手前の看板がひどい、これを注視していると全く動きがないのに吐きそうになってくる。背景がリアルな光源なのに手前がゲーム的なボクセルだから、私の奥行方向の感覚に違和感が発生しているのかもしれない。


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まず肝心要の破壊表現について。本作の世界は非常に粒の細かいボクセルでできていて、ご覧の通りクルマや船で体当りするとまるでレゴブロックが砕けていくかのようにバラバラと砕けていく。なかなか爽快であるが一方で重さが無いのも気になる。とはいえこの静止画で見るよりも実際に動いているゲーム内のほうが圧倒的にリアルに感じられるのは、きちんとばらばらになった全てのボクセルに物理演算が働き、重さがはたらいで崩れるとか勢いが働いてふっとばされるところが再現されているからだろう。


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さて、次はゲームシステムの話だ。本作のシナリオは基本的に「手に触れた瞬間に60秒のカウントダウンが始まるアイテムがマップのそこら中にN個散らばっているので、カウントダウンが終わるまでの間に全て回収して脱出場所に戻ったらクリア」というパズルで構成されている。それ以外にも建物を壊すだけとかアラームが一切ない(実際には火災報知器があるのだが火を付けなければいいだけなので事実上アラームなし)簡単なステージもあるのだが、それらは単なるイントロダクションであって本作のメインではないようである。Tabキーを押すとご覧のように上面図が開いて、どこから何を回収してどこに戻れば良いのかがすぐに分かる。


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当たり前だが、初期状態ではそれらのアイテムを全て60秒で回収するのは不可能な状態になっている。鍵がかかった建物の中にあるだとか、建物の高い場所にあっていちいち階段を登らないとならないとか、様々な理由で、だ。そこで本作のメインテーマである破壊が必要になってくる。壁に穴を開けてみるだとか、むしろ壁ごと切り取ってしまうだとか、塔を狙った方向に倒して橋にしてみるだとか、無限の可能性を利用して進路を切り開くのである。

初期装備であるスレッジハンマーは絶妙に弱いバランスになっており、鉄やレンガの壁を破壊することができない。スクショのようにレンガの壁に穴をあけるにはちょっとした工夫が必要になるのである。もちろんクルマで豪快に体当りしてぶっ壊しても構わない。


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さて、準備ができたらアイテムを手に取る。そうすると見てのとおりにカウントダウンが始まって、これがゼロになると失敗である。急いで事前に計画した通りの道を通ってアイテムを回収していく。

面白いのが今手に持っている初期装備のスプレー缶で、これを使えば壁に落書きをするようにマークを付けることができる。脱出経路を事前に書き込んでおくとかすると便利に使える。後はまぁ、怪盗のロールプレイングがてら現場にグラフィティでも残すとかいう使い方もできるぞ。


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クリアするとこんな感じで経路を再現してくれて超面白い。今回私はかなりコンサバな方法を使ってクリアしたが、もっと大胆にやってもいいだろう。なにせこのマップだけでも乗り物は6台近くある。建物を全て瓦礫にしてもまだ足りるぐらいはあるはずだ。


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本作にはお楽しみのアンロック要素もある。マップのそこら中にこんな感じで換金アイテムが落ちていて、これをくすねていくことでお金をためて手持ちのツールを強化するのに使うことができる。何でも破壊できるゲームゆえ本来では到底考えられないような場所に高額換金アイテムが隠されていたりするのが非常に面白い。


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最後に、ストーリー要素も簡素ではあるがきちんと用意されている。まるで先ほど名前を挙げたThief Simulatorのような雰囲気だ。開発元もストーリーにはそこそこ力を入れる予定のようなので楽しみにして良い。金のない主人公にロクでもない仕事を寄こす連中との掛け合いストーリーはベタだが楽しめる。