【可】Ruinarch @ 2023-04-30

私はタワーディフェンスゲームが大の好物なのだが、御存知の通りタワーディフェンスゲームの供給はずいぶんと細ってしまった。しかしそれ以上に貴重なのが、あなたが神の視点になってNPC住民の生死を自由に操る「アリンコゲーム」と私が呼ぶジャンルのゲームだ。本作Ruinarchは貴重な貴重な純然たるアリンコゲームであり、村人達に噂話を流して扇動しお互いに殺し合わせたり、ゾンビ化する感染症を蔓延させて皆殺しにしたりとやりたい放題を楽しめるのだが、本作にはアリンコゲームにおいて頑なに守られなければならない大事な要素が欠落している事に気づいてしまった。それはアリが全滅しないこと、そしてアリを虐める方法はプレイヤーが自由に決定できること、この2点である。

定価2570円、現在は10%セールで2313円。


長所

  • 今や絶滅危惧種となった純然たるアリンコゲームの体験が忠実に再現されている。しかもただアリンコゲームが出来るというだけではなく、本作で神、いや魔神の立場となるプレイヤーが取れる行動の幅は驚くほど広い。一般的にありがちな魔法で直接攻撃したりしもべをけしかけたりといった原始的な干渉行為は当然として、Plague Inc.のように自由にカスタマイズできる疫病を村に蔓延させてみたりだの、村人を監視して不貞行為を密告し当事者同士を怒り狂わせ互いに殺し合わせるだの、人間の統治者をサイコパスにしてエルフを夜な夜な殺させることで人種間対立を煽り戦争を引きおこすなど、プレイヤーに許される行動の自由は驚くほどである。


村人に集団恐怖症を与え、パニックを起こした男が集会場で大暴れ。当然周りの人間も反撃を開始し、周辺は矢弾と魔法が飛び交う血みどろの惨劇に早変わりだ。もちろん私の自身の手は全く汚していないぞ、警戒度メーターは全く高まっていない。ハハハ。
人間の集落は守りが堅いから、まずは統治者の嫁を拉致って洗脳し悪魔崇拝カルト教団員にしてしまい、彼の元に送り込んでカルトの教えを囁かせるわけだ。こうしてトップをカルトに引き込むことで内部崩壊を狙うぞ。
もちろん、正面からありとあらゆる火力呪文を投射し、エルフの村を森ごと灰燼に変えてやってもかまわないわけだ。矮小な森の民の反撃など恐ろしくはない、もっと燃えるがいいや!


短所

  • 最大の問題点はアリンコゲームという村人を思うがままの自由な方法で殺すことで楽しむゲームジャンルに、勝利条件を強いるという概念を付与してしまったことである。例えばリッチを初手で選んだ私は疫病を流行らせたりネクロマンサーに死体の軍団を作り上げさせて楽しみたいのだが、ゲームをクリアするためには疫病を蔓延させるだけではポイントが足りず、他にも村を力付くで破壊したり村人をいじめて不幸にしたりといったタスクをこなさなければならない。それらのタスクに必要なスキルや建物はランダム入手となるため、場合によってはクリアが不可能になることすらありえる。
     ゲームをクリアするためだけではなく、各種研究や強化のために必要となるChaos Orbを取得するためにも複数の手口を行わなければならない。というのも単一の行動で稼げるChaos Orbに上限が定められているためである。それ自体はゲームバランスとして悪くないと思うのだが、真の問題は本来自分が選択した魔王の種類にそぐわないようなゲームプレイを強制される点にあるのだ。LichならばLichが得意な範疇のゲームプレイでのみ得点を稼いでChaos Orbを稼いでゲームがクリアできるのであれば文句も少ないであろうに、Lichを選択してもPuppetmasterの仕事まで全てこなさなければクリアどころかChaos Orb稼ぎもおぼつかないようでは自由度が感じられない。

  • 簡単に全滅する村人たちにも問題がある。本気で絶滅させるつもりなど無いのだが、Chaos Orb稼ぎのために少々村にちょっかいを出すだけで村が一つ消し飛んでしまう。村人たちは続々と移民としてやってきてくれるが、そのペースも十分ではない。全滅を防ぐためにも広いマップでプレイするほうが快適だ。

  • ゲームバランスに偏りがあると言わざるを得ない状況。例を挙げればサイコパス化のような決まれば村一つが簡単に滅ぶような能力の強化に必要なChaos Orbの量と、攻撃魔法のような比較的に強化の恩恵が少ない能力の強化に必要なChaos Orbの量が同じだったりする。Blessedを解除できるRemove Buffの最大強化は最終的にほとんど必須とも言えるのに、攻撃魔法は多数用意されていても大多数に使い道がない。

  • ゲームモードがフリープレイしかないのも不満だ。勝利条件が規定されているのであればそれを生かしたフリープレイ以外のゲームモード、例えばストーリーモードやキャンペーンモードを期待してしまうところだが、そのようなものは用意されていない。

  • Steam WorkshopとMODに対応しているが、今見てみたところ誰もMODを作っていないので、MODにゲームバランスの調整を期待することもできそうにない。

  • 最後になるが、2500円は流石に内容に見合っていない。価格が1000円~1500円程度なら同じ内容でももう一段階高い評価を差し上げられるはずだ。


このクリア条件システムがとにかくつまらない、6科目24タスクから13目標をクリアすればゲームクリアとなるのだが、科目ごとに用意されているタスク量が少ないため複数の科目に手を出さなければならないのである。そのためPuppetmasterが得意でもない疫病操作をやる羽目になったり、Lichが直接的に攻撃魔法などで村を破壊する行為に出なければならない。せっかく自由度の高い村人いじめが楽しめるようにしておいて、クリアするためにはやりたくもないお代をクリアさせなければならないというのは、完全にゲームが自らを破壊している。


総括。純粋なアリンコゲームとして本作には他にはかけがえのない面白さがある。しかし私の思うにアリンコゲームに勝利条件というものを付与してしまったことそのものが間違いだったのではないか。我々は生かさず殺さず、適度にアリ同士が殺し合うのを上から目線で鑑賞したいだけなのであって、別にゲームとして特定の目標を攻略したいとは思わないし、攻略のために特定の目標を強いられるようなプレイもまっぴらごめんだ。幅広い選択肢が用意されているにも関わらず、Chaos Orbを稼ぐために特定の行動を強いられてしまうが故にすぐにプレイが単調となり、飽きを感じてしまう。残念だが価格に見合った価値が提供されているように最後まで思えなかった。素材と調理方法は間違っていないのに、シェフの腕が悪いがゆえに台無しになった料理、それがRuinarchの体験だ。



一応ゲームクリアという状態まではプレイしたが、正直最後の方はただの作業で全く楽しくなかった。最初の村を滅ぼすまでの間、好き放題やっているうちは実に楽しいのだが。