Children of a Dead Earth @ 2019-07-23

【秀】まだ7月も終わっていないが、私的GotYに選定しても良い。これ以上無いぐらいに現実味の有る宇宙艦隊戦を楽しめるゲームは地球上どこを探しても存在しない。雰囲気としてはCold WatersNaval War: Arctic Circleのようなリアル系現代戦とKerbal Space Program (KSP) を完璧に融合させたような感じ。

長所
・完全にユニークなテーマ。KSPのような宇宙飛行シミュレーションですらユニークなテーマなのに、それに加えてリアルな現代戦シミュレータのような戦闘までが一緒くたにされているのだから、ユニークすぎて今後同じテーマのゲームは未来永劫出てこない恐れさえある。
・KSP以上にリアルな軌道計算。具体例を挙げるとKSPですら実装されていないNボディ計算が行われており、現在自分が周回している天体以外の天体からも重力の影響を受ける。したがってKSPでは実現不可能なラグランジュ点がこのゲームでは再現されており、実際にラグランジュ点まで移動しなければならないステージも存在する。
・KSPを凌ぐ軌道操作の容易さ。例えば参照点を現在周回中の天体以外の任意の物体全てに変更できるし (このおかげで敵艦に向かって直接真っ直ぐに遷移する軌道が計算しやすい) 、ある程度まで接近したらインターセプト可能サインが表示されるので後は指示するだけで自動的に軌道を計算して実行してくれる。MechJebより簡単。
・戦闘シーンは普通にテンションが上がる。分間300連射のレールガン8連装砲が弾幕の雨嵐を敵艦に浴びせ敵艦の装甲が赤熱貫通剥離していくさまが非常に美しい。もちろん核ミサイルで原型を留めず消し飛ばしても良い。
・ゲーム上に存在するすべての要素、戦艦は当然としてミサイルに砲にミサイルのペイロードにドローンに核熱エンジンの燃焼チャンバーの材質に至るまで文字通り全ての物体を自由自在に変更したり新規作成したりできるエディタの存在。ゼロから自分だけの宇宙機を開発することすら可能。さらにSteam Workshopに対応しており、開発した宇宙機を発表したり人の宇宙機を借りてくることはもちろん、簡単なMODとしてゲーム内に登場する素材を増やしたり (核分裂燃料だけでも20種類ぐらいにまで増える) 核融合炉を追加したりすることができ、宇宙機の研究開発だけで文字通り永遠に遊んでいられる。
・全て英文テキストではあるものの、非常に考えられておりよく出来たメインストーリーと、それを補完する時代背景の説明、宇宙飛行の説明、宇宙での戦闘についての文章などが多数盛り込まれており、読み物としても面白い。よくある「核戦争が起きて地球が滅びたので宇宙に逃げました」なんていう小学生が考えるような筋書きでは断じて無い。地球が非常に現実の政治でも起こりえそうな滅び方をするのでぜひ頑張って読んで欲しい。
・地味に音楽が良い。普通に名曲ばかり。

短所
・異常に難しい。ゲーム自体の難易度が難しいと言うより、リアルな宇宙飛行そのものが異常に難しいので無理もない。最低でもKSPをプレイし、月飛行、金星飛行、木星の衛星への飛行、軌道上ランデブーあたりを余裕でこなせる程度の宇宙飛行の知識がないと詰まる。このゲームではそれに加えてホーマン遷移軌道ではない直接インターセプトする軌道や軌道面の一致しない対象への効率的かつ高速な接近軌道が計算出来ないと話にならないので更に難しい。チュートリアルやゲーム内ヘルプも相当丁寧に作られているがいかんせんテーマが難しすぎて完全未経験の人だと置いてけぼりにされる危険性が高い。ぶっちゃけこのゲームを全て金メダルでクリアできる人はJAXAだのNASAだのにそのまま就職可能だと思う。
・面クリア型のゲームなので、全てのステージをクリアするとやることがなくなってしまう恐れがある。一応ステージエディタ等は用意されているとはいえランダムに戦闘だけを楽しむモードはなさそうで、その点は不満。
・エディタが使えるのがメインストーリーをある程度進めた先になるのでエディタだけを使いたい人でもストーリーを進めなければならない。
・Nボディ計算が重い。相当優れたPCでも、軌道上に多数のミサイルなどを並べるとリアルタイムの軌道計算に支障が出てくることがある。
・ストーリーもヘルプも時代背景の説明もよく考えられており面白いのだが、いかんせん全て英語、それも難解な天文学用語と軍事用語が満載、おまけに小説的な表現も相まって読み解くのが苦痛極まりない。TOEICスコア800点以上でも片手に辞書がないと全く読めないレベル。普通にゲームをプレイするだけであればそこまでではないがシナリオが読めないとロールプレイの楽しみは半減する。
・音楽以外の全てが地味。UIはマイクロソフトオフィスみたいだしグラフィックは10年前のプレステのゲーム並。

このゲームは断じて万人向けではない。全編英語のみ、グラフィックはPS2のゲーム並、派手さのない戦闘、難しすぎる宇宙飛行。しかしそれらの障壁は全てこのゲームが現実的な宇宙戦争シミュレータを再現するために必要不可欠であるからに他ならない。200年後の公用語が日本語であるわけがないし、宇宙戦艦がデカデカとアニメチックな光沢の有るペイントをされているわけがないし (通常宇宙機は塗料の分だけ機体が無駄に重くなりデルタVの無駄になるので一切ペイントしない) 、レーザーが周りから見てピカピカ光るわけがないし、宇宙で派手な爆発音がするわけもないし、かっこいいバリアもなければ敵の主砲に何発も耐える怪しい装甲があるわけもないし、そしてNボディからの重力を受ける宇宙飛行は死ぬほど難しいのである。それが最高に良い、と思える人には究極至高のゲームであると断言する。


以下蛇足

何だこの地味なゲームは。

地味。地味。ジミー大西。

最近見なくなった、いつも図書館で本ばかり読んでいるメガネの委員長タイプの女の子より地味。見てくれが綺麗なわけではない、動きが綺麗なわけでもない、そもそもカットインシーンもムービーも一切ない。現代っ子からすれば何が良いのか一切理解できない。そもそも宇宙戦争だの宇宙戦艦と言ったらみんな、

こういうカッコいいのを想像するだろう。比較的リアル系で地味と言われる銀英伝の宇宙戦艦だって、

こうである。いや~渋い。カッコいい。素晴らしい。

ところがこのゲームの宇宙戦艦と言ったら

これである。どう見ても土色のコケシか座薬か大人のおもちゃにしか見えない。主人公が乗る宇宙戦艦が↑こんな形のアニメなんて一話で打ち切り待ったなしだろう。常識的に考えてこんなゲームがウケる訳がない。


だが私にとってはこれ以上に面白いゲームは無い。神ゲーだ。以下、いかに私がこのゲームにぞっこんラブかという話を延々と書き連ねていく。死ぬほど長いので覚悟して欲しい。そもそもここまで読まずに閉じているかもしれないが。


KSPをプレイした人間の感想として思うのはやはり技術レベルが現代よりも200年先を行っているだけはあるな、という点である。上記の燃料タンカーなど質量37000トンもあるにもかかわらずデルタVが21800m/sもある。基本的にこの時代の宇宙機のエンジンは全て1液式核熱エンジンになっているおかげで非常に効率がよい飛行が可能だ。とはいえ決してSFに片足を突っ込んでいるわけではなく、プラズマ推進だの核融合スラスタだのラムスクープだのダークマターだの反重力だのといったチートっぽい要素は一切存在しない。結果として、現代の宇宙飛行よりは遥かに優秀だが、自由自在に天体の重力をガン無視して機動することはできず、その点では現代の宇宙飛行の基本の延長にある、というのがこのゲームのバランスの非常に優れているところだ。


ゲーム自体の話をすると、まずチュートリアルシステムが非常に良く出来ているということが挙げられる。既に述べたようにテーマ自体が異常に難しいのでどれほど優秀なチュートリアルでも人を選びまくるのであるが、それを差し置いても良く出来ていて、しかもステップがゆるく、少しずつ少しずつ基本を学んでいく事が可能だ。


こちらがこのゲームのメインとなる起動画面だ。緑色の四角が味方艦で緑の線がそれらの周回軌道、水色の線が自艦の現在実行中の軌道、画面中央付近の白丸とそこから伸びる赤青緑がKSPでもおなじみのマニューバーノード、その先のオレンジ色の矢印が実際のロケット噴射実行プランだ。これはある程度まで接近した後オートランデブーを実施した結果だが、見ての通りKSPとは異なり一度に噴射するのではなく細かく細かく噴射を実行するため非常に精度が高い。このあたりは楽ができるように作ってあり、大まかな軌道プランが間違っていなければ最後のランデブーは自動計算にやってもらえるのでKSPよりも奥が深いにもかかわらず簡単に操作できるのが好印象だ。


私が非常に気に入っているこのゲームの機能としてこの参照点変更が挙げられる。KSPでは軌道参照点は常に自分が周回している天体で固定になっているのだが、このゲームでは文字通りステージ内に存在するあらゆる物体を参照点に指定できる。この絵は現在月周回軌道上でランデブー先のもう一つの味方艦を参照点にした状態で、見ての通り綺麗な数学的曲線軌道を描く。この状態では対象の味方艦が画面中央から動かないと仮定した状態での自らの軌道が描かれるからこのようになる。

たとえばこういう軌道修正をして味方艦に到達するようにすると、月を参照点にした視点に戻すと、

実際にはこういう飛行プランであるということがわかる。このように参照点を自由に切り替えながら飛行プランを自由自在に作成していくことで宇宙戦闘で不可欠な戦術的機動が可能になるわけだ。民間飛行と異なり、戦闘飛行は燃費を犠牲にしてでも相手に早く到達する事が大事になったりする。


さて実際の戦闘はというとこんな感じだ。これは私の砲撃艦が約40km先の敵艦めがけて11ミリ速射レールガンをぶっぱなしているところである。見ればわかるがクソクソ地味だ。だがそれが良い。

これは相手側からの視点だ。こちらのほうが有効射程が20km以上長いので一方的に撃ちまくっている。相手も馬鹿じゃないので必死こいて回避機動をとりつつ少しずつ間合いを詰めてきているのだが、やがて回避しきれずレールガンの餌となった。南無阿弥陀仏。


しかしながらこのゲームはリアルな戦争を再現するのが醍醐味となっている。そして現実世界の戦争で戦艦同士が砲で撃ち合うなんてことはもはや無い。そんなのは第二次世界大戦で終わって今やゲームとアニメの中でしか再現されないものだ。

では砲ではなくて何で戦うのか?ミサイルとドローンである。

こちらが我が航空母艦から出撃した総勢25機のドローン航空隊である。ドローン艦隊だけを相手にぶつけることで母艦は安全な機動で逃げ回りつつ敵艦を攻撃できるわけだから非常に安全で効率がいい。ドローンの弱点はデルタVが小さいため軌道に制限があり、また戦闘時の機動でデルタVを激しく消費してしまう点があるが、今回は敵艦を沈めたらその後の帰還は考えなくていいので思う存分やってしまえばいい。

敵艦まで約15km、855m/sで接近。接敵まで17秒。交戦開始。

ああああああああああああああああああああああああああああああああぎんんんっもぢいいんじゃあああああああああああああああああ

どうであろうか、もう地味なゲームだなんて一言も言わせないぞ。地味なメガネ委員長がメガネを取ったら実は超可愛かったみたいなお決まりの話も悪くないとは思わないだろうか?


話といえば、このゲームはストーリーテリングも非常に良く出来ている。

こんな風に宇宙飛行の基礎を教えてくれたり、

こんな風に宇宙戦闘の基礎を教えてくれたり、

こんな風に登場する勢力についての情報が逐一提供されたりする。女皇Kinoshita Asamiが200年間に渡って支配を続けるNippon Primeだぞ?良くない?Kinoshita Asamiちゃんガン萌えではないだろうか?


さて長くなってしまったが最後に簡単にミサイル戦闘の話をして終わりにする。

このゲームではミサイルも宇宙機の一つとして実装されているので、運用としては体当たりで攻撃するドローンのようなものだ。ただし帰りのことを考える必要がないので大胆にデルタVを消費して相手に最速で突入する機動を選択することができる。また宇宙では地上と異なり爆風によるダメージが殆どないため攻撃ミサイルはほぼ全て核弾頭を装備している。熱と中性子によるダメージを与えるためだ。

それでは実戦行ってみよう。

小さすぎて何も見えないが、こちら私が発射した80発の攻撃核ミサイルである。このステージでは相手もミサイルでおもっきし反撃してくるので、相手のミサイルがこちらの艦隊に到達するよりも先にこちらのミサイルが相手の母艦に到達するような一直線の戦術軌道を発見できるかがキモになる。相手に遅れてしまうと先にこちらが相手のミサイルに襲われて死んでしまうということだ。

幸いにして2回ほどやり直した結果、相手のミサイルよりも先に相手の戦艦を私のミサイルが捉えた。これより突入開始。

751m/sで突入2秒前。相手も必死に対空砲で迎撃を開始したがもはや焼け石に水である。2秒後に80発の核弾頭を全身に浴びて宇宙の藻屑と化した。

またこのゲームのミサイルは現代潜水艦のワイヤー誘導式魚雷のように結構細かい操作が可能になっていて、例えば加速・巡航・最終誘導を細かく手動で指示したり、相手の迎撃ミサイルを回避するために散開を指示したり、さらには巨大な戦略核で相手の攻撃ミサイルの群れをまとめて蹴散らすべく手動で起爆して大爆風を起こすこともできる。今回、この襲撃の直前に敵が放った反撃ミサイルが自艦に迫ってきていたので、こちらからも迎撃ミサイルを発射して途中でインターセプト、そのまま自艦に接敵する前に迎撃することが出来た。現代のイージス艦の海戦みたいで実に楽しい。