【優】Across the Obelisk @ 2022-09-08

かの偉大なるSlay the Spireが切り開いた「ローグライトデッキビルディングゲーム」というジャンルは多くの後続者を生み出した。当然それらのフォロワーはSlay the Spireに存在しなかった要素を加えて独自性をアピールした。本作Across the Obeliskが採用したチーム制もその一つだ。しかし本作にはもう一つ、過去のローグライトデッキビルディングゲームにありそうでなかった新要素が盛り込まれている。マルチプレイヤーだ。

8月中に購入していれば割引が受けられたのだが、今購入すれば満額支払いとなり、2,190円。割引がなくとも十分に安いから、早期アクセスを卒業したインディーズゲームの相場としても、ローグライトデッキビルディングゲームの相場としても、手に取りやすい適切な価格であると言えるだろう。


長所

  • 先ず何より最初に称賛しなければならないのは、本作のローグライトデッキビルディングゲームとしての素性の良さである。仮に本作にマルチプレイヤーがなく、仮に本作がチーム戦ではなくソロプレイで、仮に本作のワールドマップがSlay the Spireのように簡素なものであり、要するに何一つ本作が持つキャッチーな特徴が存在しない素うどんのようなゲームだったとしても、それでも本作はローグライトデッキビルディングゲームとして普通に面白いのである。
     面白さを支えている要素の一つに多彩な攻撃方法や攻撃属性が挙げられる。物理属性だけでも斬撃、刺突、打撃が用意されている。同様にエレメンタル属性として炎氷雷、精神属性として聖闇心。それぞれ全てに合わせたデバフが用意されており、例えば炎デバフは相手に火傷を与え、斬撃のデバフは相手に出血を与え、聖属性のデバフは相手の聖耐性を落としつつ攻撃を与えたプレイヤーに回復を与えるような特性がある。どの属性にもデバフにも明確な特徴があり、攻め筋やビルド筋が豊富で何を使っても楽しいのである。
     他にも例えば、ローグライトデッキビルディングゲームでおなじみの秘宝(アイテム)は装備品という概念で登場し、1キャラにつき4つのスロットという制限の下、装備品をとっかえひっかえ入れ替え付け替えする楽しみがある。余った装備品は持ち越せず消滅してしまうし、スロット数の制限があるから集めれば集めるほど無限に有利とはならないのだが、その代わりにアイテムを手に入れる機会が多く用意されており、より自由にビルドを組めるようにゲームが設計されている。

  • 圧倒的なボリューム。特に「アンロック要素の量」「アドベンチャーモードのマップ」この2点のボリュームについては類似他作の追従をまるで許さない圧倒的な物量を誇る。カードはプレイしているだけで次々に新たなものが発見されるし、一方でキャラやアイテムはある程度狙ってアドベンチャーモードのマップをプレイし、イベントをこなさないと解放されないためプレイ目的と目標が明確でついつい引き込まれてしまう。

  • 忘れてはならないのがマルチプレイヤー。あとから取ってつけたようなダサい実装などでは断じてなく、安定性もプレイフィールも「元からマルチプレイを想定して作られた」ように感じられる。4人で一人一人のキャラを受け持つのだが、街では各々が好き勝手に店に入って好き勝手に物を買ったりデッキを調整したりできるのに、いざ戦闘となると4人で力を合わせてプレイしなければならない。このあたり、複数人で冒険者パーティを組んでテーブルトークロールプレイングゲームを遊んでいるかのような錯覚すら覚えるのである。

  • 以上、盛りだくさんの要素を支えるUIUXの設計も見事である。カードの効果を読む際の雰囲気としてはHearthstoneに近く、全てのゲーム内効果やアイテム、カードなどはマウスオーバーするだけで丁寧に解説が表示される。頻繁に未知のカードや効果、アイテム等に遭遇する本作を遊ぶ上で説明のわかりやすさ・迅速さ・丁寧さは極めて重要な要素であり、本作のUIは十分にその大役を果たしている。


短所

  • 欠点は3つ。1つ目がテンポの悪さ。本作は何をするにも従来のローグライトデッキビルディングゲームよりも随所に時間がかかる作りとなっている。
     ゲーム開始と同時に4人からなるチームを編成しなければならず、編成した後は4人分の初期装備と初期デッキを街で準備しなければならない。もちろんデッキは事前にテンプレとして保存しておくことが可能なのだが、それでも4人分の準備はやはり手間であるし、マルチプレイヤーの場合は遅いプレイヤーの準備完了を手持ち無沙汰に待たなければならない。
     戦闘も4v4であるからSlay the Spireなどより全体的に時間がかかるバランスとなっており、1ターンにデッキから引いてプレイするカードの枚数も平均して従来の4倍といったところだ。ソロであれば操作量が増えるし、マルチであれば味方のプレイをこれまた待つことになる。問題を悪化させていることに、デフォルト設定の戦闘速度が長時間のプレイには耐えられないぐらい遅く、かといって高速設定にするとテンポは改善するのだが敵が使用するカードのテキストを読んでいる暇が1秒もなくなってしまい、何が起きているのか理解できなくなってしまう。
     ワールドマップの移動先も選択肢も豊富であり、それ自体は楽しいのだが、一つ一つのボリュームが多くきちんとテキストを読んで選択肢を選ばなければ効果がわからなかったり、後半のイベントのためのフラグを用意しなければならなかったりするため適当に脳死でスピーディーにすっ飛ばすのは難しい。
     最後にメタ要素・周回要素であるアンロック要素も、種類と質が大変に豊富であるのは素晴らしいことだが、一周が5時間6時間もかかるゲームで12人のキャラを一人一人アンロックしていくとなると、それだけでも膨大な時間が必要となってしまう。時間がかかると考えるか、それだけ遊べる要素があると考えるかは貴方次第であるが。

  • 2つ目がとっつきにくさ。喩えるならば初心者が一切のルール説明を受けずにMagic the Gatheringをプレイさせられるような感覚である。チュートリアルは存在するし、先述の通りUIもよくできていて効果やアイコンはその場ですぐに調べられるのだが、それらは全てプレイヤーがローグライトデッキビルディングジャンルのゲームのプレイ経験があることが前提となっている。その上でもまだ難しい、何故ならダメージタイプが9種類、デバフタイプも20種類前後、バフタイプも20種類前後、そのうち10種類程度は最初のデッキの初回プレイでも活用を余儀なくされるようなものばかりである。BlockとShieldの違いすら最初はわからないというのに、これらを活用しなければあっという間に殺されてしまう。もちろん、一度理解してしまえばこれら全ては長所と変わるが、このとっつきにくさが理由でプレイヤーを選んでしまう可能性は否定できない。

  • 最後の欠点はバランス。本作には多数の攻撃手法や攻撃属性、バフデバフが用意されておりそれらが面白さにつながっていると申し上げたが、特にアドベンチャーモードでは「特定の世界で登場する敵には特定の攻撃が有意に効果覿面」であったり、逆に「特定の世界では特定の属性攻撃がまるで役に立たない」というような事態が頻繁に発生する。代表例は炎属性であり、溶岩マップには炎属性耐性が8割を超える敵が無数に存在するだけではなく、一部の敵は自身の火炎デバフを消費してライフを回復するようなカードを使ってくるため、火炎ダメージを使用すると却って敵を利するような有様である。もちろんそのような世界に入る前に街でビルドを調整すれば良いのだが、世界に合わせてプレイスタイルを強要されているようで私は面白みをあまり感じられなかった。


総括。確かにマルチプレイヤーが可能なローグライトデッキビルディングゲームという独自要素は目新しい。しかし本作の真の魅力はそのような飛び道具だけではない。ローグライトデッキビルディングゲームとしての王道の面白さを正しく実装することに成功したからこそ、チーム戦やマルチプレイヤーがと言った飛び道具要素が魅力を持つのである。些細な欠点も確かに存在するが、それらを加味しても本作の完成度は称賛に値する。ローグライトデッキビルディングゲームジャンルを嗜むゲーマーであれば誰にでもおすすめできる作品だ。