【可】Insurmountable @ 2022-04-20

登山家は何故危険を冒して山に登ろうとするのか。そこに山があるからだ、という名言があるのだが、このInsurmountableをプレイする精神も同様である。ただそこに山があるから登るのである。というか、それ以外の理由でこのゲームをプレイするモチベーションなど到底湧きそうもない。


Epic Game Storeにて4/22まで無料入手可能。先に述べておくが、有料2700円どころか半額1350円ですら私には買う価値を見いだせないので、今のうちに無料で拾っておくと良い。


長所

山登りをテーマにしたローグライト系のゲームはおそらくこのゲームを差し置いて他に無いだろうし、その実装も悪くない。

  • まずテーマがユニークな点について、そしてそのユニークなテーマを見事にゲームとして仕立て上げた点については大いに称賛したい。雪山登山において大事な要素である「体力」「温度」「酸素」「正気度」「ライフ」の5点要素、そしてそれらを間接的に司る「時間」をうまくマネジメントする必要があるように設計されている。
     例を挙げると、急いで急な崖を最短ルートで進むと体力を大きく消耗してしまうが、逆に崖を迂回すると体力の消耗を抑えることはできるものの、大きく時間を浪費し、その結果体温が低下したり、酸素を失ったり、正気度が減少してしまったりする。酸素がほぼ存在しない高山領域では時間を浪費しないように体力を使ってでも急ぐことが大事になるが、逆に比較的に高度の低い土地では体力温度酸素と言ったパラメータを温存しつつ前進するのが大事になってくる。

  • 本作のゲーム性を支えているのはカメラだ。はるか遠くにわずかに見える山の頂を目指すゲームなのだが、移動としては一歩一歩眼の前の小さな稜線を超えていかなければならない。それを適度なカメラの画角制限が阻んでくるのである。例えば崖の影に隠れたアイテムを見落としてしまったり、遠くが見えず通行可能なルートを見誤ってドツボにはまってしまったり、といったトラブルが発生するのである。このカメラ操作と慎重な移動先の選定こそが本作の大事なプレイスキルであり、この要素の少ないゲームにリプレイ性やプレイングの上達する喜びを生み出してくれている。


短所

だが冷静になって考えてみよう。本作は本当に山を登るだけである。

  • 結局、本作は単に「エネルギー」「温度」「酸素」「正気度」「ライフ」という5つのステータスポイントをマネジメントするだけのゲームである。派手な戦闘や見せ場なども一切ない。単に淡々とこれらの数値をマネジメントするだけでゲームのすべてが完結する。たしかに面白いのだが、何時間も没頭して遊んでいられるほどの面白さは無い。

  • そして残念な事に、そのマネジメント要素も浅い。ランダムイベントは種類が限られており、合計プレイ時間が10時間にも満たない間にほぼすべての選択肢を理解することが可能だろう。強キャラクタークラスや強スキルツリーもある程度決まっているから、すぐに理解できてしまって、すぐに最適解を取る事が可能になってしまう。そして一度最適解にたどり着いてしまったが最期、特に面白みのある発展やどんでん返しはない。

  • ストーリーが追加されたらしいのだが、こんな程度のストーリーなら最初から存在しなくても良いのではないだろうか。結局やることは山を登るor山に隠されているアノーマリーをセンサーで見つけて到達する、この二択がほぼ全てなのだから。


総括。目の付け所は良いと思うし、プレイしているとついつい時間を忘れて何時間も続けてしまうこともあるのだが、それはあくまで私に今すぐプレイしたい他のゲームが特に無いからである。よく出来た完成度であるのは認めるが、結局のところ本作については登山というテーマ自体に人々に愛される魅力があまりなかったと判断できるゲームだろう。イベントの種類にしても目標の種類にしても何の種類にしても物足りない、ただ毎回同じように山を登るだけのゲームプレイに終始する。一度何が大事で何は無視してもよいかの判断ができるようになってしまうと、後はほとんどただの消化試合である。無料で少し遊ぶ分には悪くないが、これに2700円を支払うつもりには到底なれない。