Outer Wilds @ 2020-06-02

【三位一体】これが私の下した最終評価だ。本作は10年に1度の革新的な神ゲーでもあり、かつ平凡な面白みの3D宇宙探索アクションアドベンチャーゲームでもあり、かつ意地の悪い昭和のゲーム開発センスの連中が作ったホスピタリティの欠片もないプレイするたびに怒りと吐き気が湧いてくる超弩級のクソゲーでもある。この3つ全てが同時に存在し、プレイヤーによってそのいずれかの体験として現れる。それこそがOuter Wildsだ。そのため残念ながら、万人におすすめは絶対にできない。

※今調べたところSteam版ももうすぐ登場するらしいので、Epicは絶対に嫌な人でも安心してプレイしてほしい。何ならPS4でプレイしてもいい。

本作の三位一体は以下のように分類され評価される。

神ゲーの位格
・コアゲームループ。22分でタイムループする小さな星系を旅する、という本作の世界の構造はまさに天才の創造にふさわしい完璧な作りである。これまで存在したあらゆるゲームとは異なる体験をもたしてくれた。タイムループもののアドベンチャーゲームはすでに数多く存在するのだが、これほどまでにタイムループする仕組みとコアゲームループが噛み合っているゲームはそうそうお目にかかれない。
・本作の謎解き要素及びパズル要素のなかで、一つだけ、私の知る限り他に類似例が一切ない、まさに10年に1度の傑作と呼ぶにふさわしい画期的な要素を持った謎解きが存在する。これに関しては夢中になりながら最初から最後まで自力で解くことができ、その結末も最高のカタルシスであった。これはまさしくPortalを初めてプレイし結末を迎えたの感情そのものであった。この部分だけでもプレイした価値があった。
・少しだけネタバレを許してほしい。本作はマルチエンディングであり、本来の正式なエンディング以外にも複数のエンディングが用意されているのだが、その中の1つが神がかっている。ゲーム内にヒントは一切なく、純粋に世界に対する観察と知識と好奇心と探求がプレイヤーに要求されるのだが、これを自力で発見することができたのであればおそらく天にも昇る心地を味わえるだろう。正直私もこのエンディングの存在をあとから知って自力で発見できなかったのを後悔してしまった。なのでもしこの駄文を見てくださった未プレイの人がいるのであれば、ぜひ自力で挑戦してみてほしい。

凡ゲーの位格
・実は本作の筋書きについては私は神ゲーだと思っていない。よくあるアドベンチャーゲームのストーリーラインに馴染んでおり、推理モノや謎解きモノに十分に慣れているプレイヤーであれば、ある程度の地点で本作の全体像がすぐに、正しく推測できてしまうのである。少なくとも、私にはできてしまった。
・その上、大変残念ながら、私の推測した全体像と終わりが大部分正解であり大どんでん返しは最後までなかった。私は正直なところ推理が得意なわけでも謎解きが得意なわけでもないと思っているが、最後に一つだけとんでもない結末の可能性が待っているのではと期待して推測していたのだ。それも裏切られた。
・ゲーム体験の設計、正しく言うなら感情の盛り上がりの設計、本作はこの大事な要素の設計に失敗していて平凡である。具体的に見ていこう。まず最初の1時間は文句なしに最高の体験が得られる。それから最終盤も、大きな謎が解き明かされ、驚くような発見をし、それらが結びつきあってエンディングへ向かう素晴らしい体験があるが、逆に言えばそれ以外の箇所に盛り上がりが薄い。何に例えればいいだろうか、日常系のギャルゲーやラノベの日常が永遠に続いているだけ、みたいな感覚だ。ループを繰り返すごとに新しい場所に移動もするし、新たな証拠の発見もあるのだが、それが普通になってくる、もっと言うなら作業化してきてしまう感覚があるのだ。すでに何が起こるか推測できてしまっている謎解きの答え合わせをして、答えが出てくるたびに「ああやっぱりそうなのかよ・・・」とがっかりしてしまったからかもしれない。
・これら凡庸さの原因は長所の裏返しだ。すなわちオープンな世界でありユーザーがどこから手を付けてもよい、というのが体験の足かせになっている。どこからユーザーが探索して手がかりを辿っていってもある程度ゴールに導かれるように情報を配置せざるを得ないのだ。そのため場合によっては一度見た情報が別の場所でも現れがっかりするだとか、早期に重大な発見にたどりついてしまって推理が進んでしまうという問題点が起きている。
・謎解きの話をすると、一部のヒントがヒントになっていない。具体的には1つ、すべてのヒントを自力で集め、船の探査ログに残されないような些末な情報まですべてスクショを取りメモを取り考察したにもかかわらず、結局どうすればいいのかわからないため攻略サイトのお世話になった箇所がある。私の推測は100%正しかったのだが、信じられないようなゲーム的理由で成功できなかったのだ。ヒントの出し方も悪いしゲーム側の実装もお粗末でパズルが台無しになっている。気づくとか気づかないとかの問題ではない。おまけにクリアのためには絶対に通らなくてはならない箇所なのでなおさら質が悪い。他にもいくつか偶然私が気づいたものの偶然でなければ気づけなかったような謎解きがあり、すべての謎解きが優良であるかと言われると疑問符がつく。
・日本語の翻訳についても、何箇所かパズルに直接影響がある次元の致命的な誤訳が放置されてしまっている。謎を解くゲームにおいてこのレベルの誤訳は絶対に許されない。これのせいで私は不要なやり直しを何度も繰り返す羽目になってしまった。

クソゲーの位格
・アクション要素が絡むほぼすべての箇所。論を待たずにクソゲーであると断言して良い。反論してくる人間にはこう言い返せばいい。本作が22分で宇宙がループせず、アドベンチャー要素も謎解き要素もないゲームだったとしたらどう思うか、と。すなわち、銃でも何でも握って、この操作性の中、敵をバンバン撃って殺して先に進むFPSだったり、プラットフォーマーみたいにジャンプアクションを強いられるアクションゲームだったり、宇宙遊泳しながら敵の弾を交わすシューティングゲームだったらお前はプレイするのかと。言うまでもないが、私は絶対にしないし、その場でコントローラーを捨てて返金要求をする。それぐらい操作していて何のカタルシスもない。上達してもカタルシスがないというのがさらなる問題点で、難易度が高いゲームでもダクソなどは十分に操作性がよく、プレイヤーの上達と操作が連動し、思い通りに動かせれば相手の攻撃をすべて見切って反撃も許さず完封できるようになるという最高のカタルシスがあるのだが、本作では別に着陸が上達しようがジャンプが上達しようが何も楽しくならない。単に苦痛が軽減されるに過ぎない。
・アクションの操作性にあまりにも問題点が大きすぎるにもかかわらず、本作はかなりの量の「正しくアクション操作しなければならない」箇所が存在する。これは序盤からクリアに至るまで一貫しており、最初だけくぐり抜ければ楽になる、といったことは一切ない。プレイヤー本人の腕が上達に至ったり、3D酔いを克服できないのであれば、仮にすべてのネタバレを見てそのとおりにプレイしても本作をクリアすることは絶対にできないし、本来の面白さの1無量大数分の1も味わえないだろう。
・更に自体を悪化させるのが本作の22分でループする作りである。22分の最中に進捗を保存することはできず、したがってあと少しで目的が達成できるというタイミングで足を滑らせて落ちて死んだり、ジェット操作を誤って激突して死んだり、ジャンプに失敗して無残に死んでしまえばまた最初からやり直しである。クイックセーブがあればまだ苦痛も抑えられたのであろうが、そのような救済措置も存在しない。単に謎解きを楽しみたいだけのプレイヤーは延々と苦痛極まりない操作と3D酔いに苦しめられ絶望の中ループを過ごすことになるのである。
・いくつかのアクション要素については実は謎解きが絡んでくるため存在したほうが良いと確かに言えるのであるが、体感で8割ぐらいはなくていいアクション要素ばかりである。具体例をここで列挙したら盛大なネタバレになるためしゃべれないのがもどかしいのだが、それらはいずれも単なる作者のオナニーであり、プレイヤーに苦痛を与えることで快楽を引き出すという昭和のゲーム思考である。今は令和だ、年寄りらしく過去の成功はとっとと忘れろカス。本来の面白い要素をすべての人類が別け隔てなく遊べるようにするのが令和の世に求められているゲームなのであり、だからこそCelesteはイージーモードをあえて導入したのだ。このゲームは見事に逆を行っている。我々は宇宙の謎を解き明かしたいのだ。一体全体どうして何の面白みもない苦痛に満ち溢れたジャンプアクションゲームなんかしなくちゃならないんだ。

本作のレビューは以上になる。【三位一体】などと意味不明な表現になってしまって申し訳ない。「もっと良い表現もある」のだが、それはまたの機会とさせていただきたい。とにかく大事なのは、本作はある人にとってはこれ以上ない10年に1度の神ゲーに選ばれるだろうし、ある人にとっては海千山千あるアクション・アドベンチャーのうちの一つだなという体験に落ち着くだろうし、ある人にとってはプレイするたびに作者を太陽に突き落として燃やし尽くしたくなるぐらい殺意を覚える超ド級のクソゲーに感じられるだろう、というこの1点に尽きる。


以下蛇足

したがって私は元記事の筆者に、いや本作を賛美するすべての記事を書いた人類に対して、あえてこう言いたい。



「本作は10年に1度の稀代の名作ゲームでもあり、名作ではないゲームでもある」と。


さて、私にとってはどちらであっただろうか?