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西宮ストークス観戦記#73 Intensity&Mobility

前回は、西宮ストークスに新しく加わった3人の外国籍選手について紹介しました。

その最後をこのように締めくくっています。

一貫性があり、確かなビジョンの元に集められた選手たち。間違いなくこれはフィッシャーHCの主導によるものでしょう。

私は3人の外国籍選手のチョイスには明確な基準があると感じています。今回はこの「ビジョン」について考えてみたいと思います。

◉外国籍選手3人に見られる「傾向」

まずはサイズ。Bリーグの外国籍選手の多くはインサイドで身体を張るビッグマンタイプですが、ストークスに加わる3人にはいわゆるセンタータイプはいません。一番近いのはムボジ選手かな。身長は208cmあるけど、体重は107kgと「重い」タイプではない。その代わりウィングスパンがすごいんだ。完全にバスケットボール向きの体型。

この手足の長さや機動力の高そうな身体的特徴は他の2人にも当てはまるところでしょう。そもそもルオフ選手とジョーンズ選手はウィングタイプ。インサイドを意識し過ぎず、コートを広く使い、ボールムーブを中心に据えたバスケットボールへの志向が窺えます。ドイツ出身のフィッシャーHCが、本格的にヨーロピアンスタイルのオフェンスを導入したいのだと考えれば合点のいく話です(外に広がればヨーロピアンなのかという話ではあるんだけど、それはまたいつか)。

また、バスケットボールプレーヤーとしてのキャリアにも共通点があります。3人ともヨーロッパのリーグを中心にさまざまな国のリーグを転々としてきた選手ばかり。1チームで長く過ごすのも美しいわけですが、自らの才能をもって複数のチームを渡り歩くのもまたプロ。チームが変われば求められる役割も変わるわけで、それを乗り越えてキャリアを重ねるためには、その時々のチーム状況に応じたプレーをができるアンセルフィッシュさと多くの引き出しを持っていなければいけません。

全員が30代なのも偶然ではなく、チームへの貢献を考えられる経験値の豊富な選手を狙い撃ちしたのでしょう。そう言えば日本人選手も渡邊選手以外は30代だね。誰か一人に頼るのではなく全員でプレーするのだ。そんなメッセージが伝わってきます。

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◉ユニークな編成で目指すのは

インサイドが主戦場のセンターがいないことに加えて、ウィングが2枚。これはかなり特徴的な外国籍選手のチョイスと言えそうです。気になるのは、それでどんなバスケットを目指すのか?

コートを広く使ったオフェンス
オフェンスでは、5人全員がスリーラインよりも外側にポジショニングするような「ファイブアウト」と呼ばれる戦術が多用されるかもしれません。ひょっとしてポストプレーとか全然やらないんじゃないかな。スクリーンを絡めたドライブからパスを回し、オープンをつくってシュートをクリエイトする。シュートの得意な選手が多いストークスには合いそうな戦術です。となると、鍵になるのはスリーポイントの精度ですが、ルオフ選手はスリーの、ジョーンズ選手もなかなかのよう。日本人の新加入選手もみんなスリーは得意だしね。

ハンドル&ドライブ
とはいえ単に外でボールを回して外から放り込むだけのバスケットにはならないと思う。もちろんスリーは打つんだけど、ディフェンスとのズレができたら果敢にドライブを仕掛けてレイアップを狙う。むしろ、それをセットにしないとコートを広げた意味がない。となるとシュートだけじゃなくボールハンドリングもできる選手が必要になるんだけど、これもストークス的にはクリアしている。

SFながらボールハンドリングが得意で、ドライブやそこからのアシストもできるルオフ選手のスキルセットは完全にこのためのもの。ジョーンズ選手のどこからでも得点できるオフェンス力は広いスペースがあってこそ活きる。グッドスクリーナーでありフィニッシャーでもあるムボジ選手は、高い位置からスクリーンをセットして相手ビッグマンを外へ引きずり出し、ドライブスペースをつくり出してくれることでしょう。

シュート力を兼ね備えたPGである渡邉選手は言うに及ばず、福田選手もドライブ上手いんだよね。昨シーズンは谷選手もピックを使ってハンドラーをやってたり。コートを広く使うためにはマルチなスキルが必要だし、そうするとどんどんポジションという概念は薄くなってくる。フィッシャーHCの理想がなんとなく透けて見えます。

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ところで、話が逸れるけれど、スリーポイントとレイアップって全然違うように思えて、効率よく得点するという観点からは同じこと。ゴール下のシュートの平均的な確率は60%くらいと言われますが、スリーでその期待値(シュート確率×そのシュートが入った場合の得点)を得ようと思うと40%の確率で決めないといけない。単なる戦術論ではなく、効率のいい得点というコンセプトも見据えているようなフィッシャーHCなのでした。

ディフェンスでのスイッチング
昨シーズンも取り組んでいたスイッチングディフェンスを本格的に導入しそうな予感。日本人選手(特にガード、ウィング陣)はやっていたけど、バンズ先生とブラッドさんのところで機動力とスタミナが欠けるためにオールスイッチはできず、結局完成の域にまでは達しませんでした。

今野・福田・渡邉とディフェンス力の高い日本人選手を加え、外国籍選手にも動けるタイプを求めたのはこのためだと思います。相手のスクリーンに対してもミスマッチを厭わず積極的にスイッチして、プレッシャーを与え続ける。ミスマッチを突かれてビッグマンが押し込んできても、機動力を使ってすぐにスイッチバックできるし、裏を取られてもムボジさんのブロックが高速で跳んでくるぜ。

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高さやパワーより身体的な長さや動ける範囲の広さを重視した外国籍選手のチョイス。そして、ディフェンダーを揃えた日本人選手のラインアップ。この編成を求めた背景には「mobility」と「intensity」という上位概念があるように感じています。

mobilityとは機動性。すなわちどれだけ動けるかですが、単に速く走れる、高く跳べるといった単純なものではありません。コートを端から端まで駆け回る能力のことです。それでなければコートを広く使ったオフェンスも、スイッチディフェンスも機能しない。昨シーズンは攻撃回数が少なく、B2では一二を争うほどペースの遅いストークスでしたが、今シーズンはもしかすると少しペースを上げてくるかもしれません。

intensityは最近よく使われる言葉ですが、一つひとつのプレーに込める強度を意味します。激しさ、厳しさに近い概念です。これはある意味ではmobilityと双子のような関係。つまり、動きの量とその強度を高めることによって、高さやパワーといった物理的な力に対抗しようとするものです。このような大きなビジョンと戦略が、オフシーズンの選手獲得には感じられました。想像と言われればまあそうだけどね。

そしてもう一つ大切なことは、これらの動きがおそらくフィッシャーHCの主導により進められた点です。今季は極めて特殊なシーズンで、先行きが見えず、選手たちには早く所属先を決めてしまいたいという意識が働いていたことは想像に難くありません。また、どれだけ負けても降格はしないB1と勝てば昇格のチャンスがあるB2では、人件費の投資に対するインセンティブがまるで違う。その影響もあって外国籍選手も含めてB1→B2の移籍が多く見られたわけですが、ストークスもまた例外ではありません。

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このような状況下では、選手を獲得してから戦術を考えるというケースもままあるような気がします。言い方は悪いけど、「獲れちゃった」みたいな。その点、ストークスは一環したビジョンをコーチもフロントもオーナーも共有して補強を進めているようで、だとすればそれは選手たちにも伝わっているはず。チームスポーツにおいてそれが有利に働くことは、言うまでもありません。

ただ、仮に「獲れちゃった」場合でも、スタークラスの実績のある選手を獲れるチャンスに恵まれたのならば乗らない手はないとも思う。タイミングにもよるけれど、それがその選手を中心にシステムを組むのにふさわしい選手だったりすることもあって、チームマネジメントって難しいよね。

だからこそ、優良なスポンサーをたくさん見つけられたとはいえ、まだまだやっぱりスモールマーケットチームの西宮ストークスが、ビジョンに基づいたプランによってチームを強くしようとしている姿勢は正しいと思えるのでした。さらに言えば、それがとても個性的な方針であることに胸がすく思いがするわけですが、長くなったのでそれはまた次回。


※このnoteは単なるファンの個人的な感想であり、
西宮ストークスとは一切関係のない非公式なものです。



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