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西宮ストークス観戦記#58 エースと呼ばないで

西宮ストークスの「エース」は誰か?

すぐに答えられるようで、この質問は考え始めると案外難しい問いだったりします。

そもそも「エース」の定義って何だろう。例えば「一番得点する選手」ならばブラッド選手ということになります。あるいは「チームに勢いを与える選手」をそう呼ぶのなら谷選手もそうだし、はたまた「試合への影響力」を重視すればバーンズ先生だって。これらをすべて兼ね備えた選手はBリーグ全体を見渡しても限られているし、ことに西宮の場合は難しい。少なくともオフェンスで打ち勝つチームではないからね。

という感じで、すんなりとではなく、ちょっと悩むんだけど、それでも落ち着く先は「やっぱり道原選手だよね」。え、悩まない? そうかもしれない。でも、少なくとも私は悩む。あるいは試合の中で疑問に思う時がある。

というわけで、今回は道原紀晃選手について。彼を「エース」と呼ぶ時に訪れるほんの少しの逡巡にこそ、道原選手を特徴付ける何かがあるのではないかという観点から書いてみようと思います。なんだかわかりにくい話になりそうだ。

◉2017-18シーズンにブレイク

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道原選手のプレーで思い浮かぶのは、やはり精度の高いジャンプシュートと積極果敢なドライブでしょう。シュートは調子のいい時はアンストッパブルで、特に強豪との対戦時の方が集中している感じがするのは気のせいでしょうか。広島とか名古屋とか信州とかさ。

得点関連のスタッツを確認しましょう。ここ3シーズンはお見事です。

■道原選手の過去3シーズンのFG%
season  3PM/3PA    2PM/2PA    FGM/FGA
2017-18 0.9/2.3=40.3% 3.3/7.7=43.0% 4.2/10.0=42.3%
2018-19 1.6/3.6=44.7% 3.8/7.5=50.5% 5.4/11.0=48.6%
2019-20 1.3/2.9=45.3% 3.2/6.4=49.8% 4.5/9.3=48.4%

B1で過ごした2017-18シーズンにその得点能力を開花させ、翌シーズンは一気にジャンプアップ。今シーズンもほぼ同水準で、3Pはさらに向上(B2の全体3位)。FG成功数212本は堂々の日本人選手トップです。

兵庫ストークス時代から数えて7シーズン目となった道原選手。28〜30歳にかけてのベテランの域に届こうという時期にこうして成績を上げていく選手は、あまり見たことがありません。しかもまだ伸びそうだから怖い。

ブレイクスルーのきっかけとなった2017-18シーズンの成績を詳しく見てみると、面白いことがわかります。

■道原選手の2017-18シーズンのFG%
GAME     3PM/3PA    2PM/2PA    FGM/FGA   

1〜28試合  26/58=44.8%  80/206=38.8% 106/264=40.2%
29〜60試合 30/81=37.0%  118/255=46.3% 148/336=44.0%

一目瞭然。後半に大きく成績を伸ばしています。B1の壁をまざまざと見せつけられていたこのシーズン、コナー・ラマート選手を怪我で欠くことになった後半戦において、道原選手はPGを任せられる時間帯が多くありました。ハイピックからのジャンプシュートなど、得点を量産するようになった道原選手は、ここでスコアラーとしての才能を自覚するようになったのかもしれません。だとすれば、これって天日謙作コーチの置き土産だよね。というか、なんで俺はこんなデータを調べてるんだ。

◉物足りなさとチーム内の序列

でもなあ、「エース」と呼ぶにはなんか物足りないんだなあ。特にアテンプトはもうちょっと増やしてもいいと思うんだ。道原選手の今シーズンのFGA総数は438本。茨城の眞庭選手が428本、福岡の城宝選手が470本、広島の朝山選手が472本だから、各チームの日本人エース級選手と同レベルと考えれば少なくはない(出場試合数は無視してます)。

一方で、奈良の西選手が436本で、東京Zの久岡選手が424本と聞くと、なんとなくもうちょっと打ってもいいような気もする(両選手がどうこうという話じゃないよ。念のため)。ちなみに、B2の日本人選手のシュートアテンプトでは、熊本の石川選手と東京Zの増子選手が600本近く打っていて双璧。これくらい打ってる選手もいるわけだし。

数字から離れると、チームが停滞した場面で、強引でもいいからシュートを打ってほしいという時でもパスを回したりして、ガツガツした感じがないのが玉に瑕。外すのを怖がるタイプではなさそうだけど、だからこそ淡白な感じがしてしまう。

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2017-18シーズンのブレイクを経て、個人的には道原選手を攻撃の核としたチームづくりが進むのかと思っていたのですが、翌シーズン(2018-19)にはわかりやすい形の変化は見られませんでした。アテンプトが増えたものの1本だけ。1試合の平均シュート数はバーンズ、ブラッド、谷に次ぐ4位と、個人成績は向上しているものの、チーム内での「序列」はこうだったわけだ。

今シーズンは逆にアテンプトが2本近く下がっており、2017−18シーズンよりも低い数字。ただ、選手間の内訳はけっこう変化していたりします。

■各選手の平均シュート数の増減(2018-19 → 2019-20)
ブラッド  13.8 → 14.9(+1.1)
バーンズ  12.4 → 9.8(-2.6)
道 原   11.0 → 9.3(-1.7)
 谷    11.1 → 8.4(-2.7)

ブラッドさんの存在感がより高まった一方で、他の選手はそれよりもシュート数を減らし、かつ1桁台になっています。チーム全体のシュート数は昨シーズンから大きく減ったわけでもないので(-2本くらい)、チーム内での平均化が進んだと捉えて良さそうです。

これはライコビッチ前HCとフィッシャーHCの考え方の違いが表れているポイントで、どちらも「このチームに毎試合20点や30点を取る選手はいない」と同じようなことを言っていたものの、フィッシャーHCの方がよりそれを戦術として落とし込めているのかもしれません。「全員で勝つ」と言った時の「全員」に、どこまで含むかということね。

◉オールラウンダーへの志向

ああ、やっぱりとっ散らかってきた。つまり、何が言いたいかというと、シュートの精度やそれを可能にするセンスやスキルは十分にエース級なんだけど、それを試合で存分に発揮しているかというとそうでもなくて、かつコーチもそれを道原選手に求めようとはしていないということです。

それが何によるものなのか。確かに、いくらシュートが上手いとはいえサイズに恵まれているわけでも極端に運動能力が高いわけでもないので、コーチとしてはすべてを託すには頼りなく見えるのでしょう。それよりは「確率のいいシューター」として位置付ける方が使いやすいということかな。ここ2シーズンが外国人コーチだったこととも関係しているかもしれません。

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それに、本人的にもあまり「エース」とは呼ばれたくなさそう。これはこれで理解できるところで、スタッツがすごいと言ってもそれはここ2シーズン半くらいの話。「お前がエースだ」と言われてもピンとこないのかもしれません。あくまで役割として担っているだけ。

性格的にも他の選手を引っ張っていくというより、「俺も頑張る、お前も頑張れ」的な感じな気がする。チームで唯一、SNSをやらないし、スポットライトをほしがるタイプではなさそう。でも、負けん気は強いはずだし、もっと欲張ってもいいはず。そこが物足りないと感じる部分なんだろうな。

だったらダメなのか? いや、そんなことはないはず。得点ばかりに注目してきましたが、実はむしろ特筆すべきかもしれないのはその他の部分です。……おい、散々引っ張っといてちゃぶ台ひっくり返すのかよ。

今シーズンの道原選手は、1試合平均のリバウンドでB2の日本人ランキング6位(3.4本)、アシストで12位(3.8本)となりました。これらは2シーズン連続で伸びており、ここから窺えるのはエースというよりもオールラウンダーへの志向です。今シーズンはオフボールスクリーンをもらって自分がオープンになってボールをもらうところから始まるセットが増えました。ハンドラーとして状況を見ながらシュート・パス・ドライブを使い分け、あるいはドライブからお洒落パスを繰り出すこともしばしば。これらを可能にするのは持ち味であるシュート精度であり、ならばこの役割は道原選手にとって理想的なものでしょう。

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何気に今シーズンは1試合平均のシュート数で初めて谷選手を上回っているのもポイント。バーンズ先生とほぼ同じ数だけ打ってるしね。そういう意味では、オフェンスでは量より質を求めるフィッシャーHCのバスケットボールにとって、高い確率でシュートを決め、同時に味方の得点を演出することもできる道原選手はやっぱりエースであると言えるのかもしれません。

また、今シーズンはディフェンスも上手くなったなという印象で、それを示す指標になるかどうかは微妙だけど1試合平均のファウル数は昨季よりも減らしています。フィッシャーHCのシステマティックな守備で、無理をして身体を張らなくてもよくなったからかな。

自らの役割を自覚し、得点をベースにアシストやリバウンドでも結果を残しつつある道原選手。エースと呼ぶには悪い流れを無理やりひっくり返す力強さに欠けるけれど、だからこそ外国籍選手や他のチームメイトとも共存できるわけで。ある意味では、西宮ストークスを象徴するようなナイスガイと言えるでしょう。

ほならやっぱりエースやないか(ミルクボーイ風)。


※このnoteは単なるファンの個人的な感想であり、
西宮ストークスとは一切関係のない非公式なものです。





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