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西宮ストークス観戦記#57 恋に落ちたビッグマン

「恋に落ちるように大好きになりました」

誰かにこんな風に打ち明けられたら、あなたはどう思いますか? いえ、あなたが西宮ストークスのブースターなら、実はもう告げられているのです。ブラッドリー・ウォルドー選手から。

昨シーズン途中から加入し、今シーズンも再びストークスでプレーすることを決めたブラッド選手は、契約延長時、「西宮の街、そしてストークスという組織、ファンの皆さんのことを、恋に落ちるように大好きになりました」とコメントし、ブースターは感涙に咽びました。

思い起こせば昨シーズン、開幕から5連敗を喫し、20試合を終えて6勝14敗と不調を極めていたストークスは、大胆なテコ入れを敢行します。弱点だったインサイドにパワーと高さを兼ね備えたブラッド選手を加えて一気に調子を上げ、以降の40試合は28勝12敗。実に勝率7割という好成績でシーズンを終えたのでした。

40試合すべてに先発出場したブラッド選手は、19.6得点・10.6リバウンド・4.0アシスト・1.1ブロックと獅子奮迅の働き。FG%は65.7%でB2全体で1位となるなど、文句のつけようのない成績でした。

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スモールマーケットである西宮はこれまで、外国籍選手(に限らないけど)が活躍してもすぐに他チームに引き抜かれて移籍してしまうケースが多く、ブラッド選手の大活躍に目を細めながらも、「来シーズンはいないのかな」と内心はビクビクしていたブースターも多かったことでしょう。そうした中、いかにも陽気なブラッド選手らしい屈託のないメッセージでチーム残留を表明してくれたのですから、むしろ恋に落ちたのはこちらの方。ときめく恋に駆け出して、吐息を白い薔薇に変える勢いだぜ。

◉「エリート」から遠く離れて

今シーズンも開幕から変わらぬ活躍ぶりを見せてくれているブラッド選手。FG%は59.9%と昨シーズンからは6ポイントほど落としていますが、十分に立派な成績。昨季が手のつけようがなかっただけで、各チームが対策をしてくる2シーズン目ならば当然のこと。それでいて平均得点は1.5ポイント向上してるんだから、いやはや最敬礼。

そんなブラッド選手は、シーズン中止が危ぶまれ、他のチームでは外国籍選手の帰国や契約解除のニュースが報じられる只中にあって、再びこんなツイートでブースターを泣かせます。

ガールフレンドが帰国するのを見送りながら、自らは日本に残り、シーズンを最後まで戦い抜くというブラッド選手。正直、「なぜそこまで?」と思ったのは、私一人ではないでしょう。その背景にはブラッド選手の真面目で謙虚な性格が関係しているはずです(他の選手が不真面目と言ってるわけじゃないよ)。しかし、それだけではこの世界的危機に際しての決断の理由としては不十分な気がします。一体何が彼をこのように導くのでしょうか。それはやはり、ストークスを「恋に落ちるように大好きになった」からではないかと思うのです。

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日本にやって来る前、ブラッド選手はフランス2部リーグの「カーン バスケット カルバドス」でプレーしていました。移籍時に調べた限りでは、ブラッド選手は控えセンターだったようで、プレータイムも少なく、成績もパッとしませんでした。特にフリースローの成績が酷く、「あまり期待できないな」と思ったことを正直に告白します(それが間違いであることはすぐに明らかになったわけですが)。

フランス以前のキャリアを見ると、2015年にベルギーのチームでプレーした後、2016年にフランス、2017年にポーランド、2018年に再びフランス(カーン)と、1シーズンごとにチームを変えています。2015年には、ミルウォーキー・バックスほかNBAの数チームのドラフト前ワークアウトにも参加していたようです。残念ながらドラフトで指名されることなく、ベルギーに渡ることになったようですが、アメリカでプレーするバスケットボール・プレーヤーがNBAの舞台に立つことを夢見ないはずがありません。つまり、ブラッド選手のキャリアは「エリート」からは程遠いものでした。

NBAの夢は破れ、ヨーロッパのチームを転々とし、2部リーグのセカンドだかサードだかの控えセンターだったブラッド選手。2度目のフランスでのシーズン途中の移籍で辿り着いたのは、言葉も文化もまったく異なる日本。それも西宮という決して大きくはない街でした。しかし、そこには自分の活躍に期待を寄せるチームと仲間たち、そして心優しくも熱狂的なブースターが待っていたのです。

移籍初戦からスターターに起用され、長い時間プレーし、試合を重ねるごとに自分が得点するパターンが増えていく。その活躍がチームの成績をどんどん押し上げ、瞬く間にチームの中心となる。これほど選手にとってやりがいのある環境はないと言ってもいいでしょう。ブラッド選手にしてみれば、これほどまでに自分が必要とされていることを実感できるチームは初めてだったのはないでしょうか。決して順風満帆とは言えないキャリアを考えれば、その感動がひとしおであることも想像に難くありません。

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ブラッド選手の献身的でエネルギッシュなプレースタイルは、これまでのキャリアの中で、なんとか自分の居場所を見つけるために自然と培われたものでしょう。それが遠い異国で花開くことになるとは。肉弾戦を物ともせず、むしろ楽しむようにハッスルし、審判のジャッジに不満があっても黙々とプレーする。そんなブラッド選手の大きな背中を観ていると、試合に出られることを喜び、バスケットボールができることに感謝しているように感じられるのでした。

来シーズンはおろか、今シーズンの先行きさえも見えない中ではありますが、願わくば来シーズン以降もストークスでそのプレーを観られることを期待して、恋をしたロマンチックなビッグマンに声援を送り続けましょう。


※このnoteは単なるファンの個人的な感想であり、
西宮ストークスとは一切関係のない非公式なものです。

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