《往復書簡》 金川晋吾より③

大崎さま

 こんにちは。ものすごく暑い日が続いていましたがだいぶ落ち着いてきましたね。夏は体にはなかなかこたえるのですが、でも気持ちは開放的になってやっぱりいいですね。今年は夏はいいものだと改めて思いなおしています。
 以前のお便りからもう1ヶ月以上が過ぎてしまいました。プラータナーは僕も観ました。上演時間も4時間以上と長いものだったので観ながら感じたことはたくさんあったのですが、あのときまず強く感じたことは、性やセックスにまつわるいろんなことが語られるのを聞くのがとてもよかったということでした。よかったというのはいろんな意味でなのですが、聞きながら恍惚としていたし、何か感動もしていました。性的なものにふれるよろこびということもあると思うのですが、何かそういうものが語られている、表出されているということが自分には重要だったのだと思います。プラータナーを観て自分も性やセックスについて何か語ったり記述したりしたいと思ったというか、実は前からそういうことをしたいと思っていたことが思い出され、やっぱりしたいのだと改めて思いました。
 ここ1年ぐらい、ときたまヌード写真を撮ったり、また撮られたりもしていました。撮られると言っても誰かが僕の裸を撮りたいと言ってきたわけではなくて、僕が自分のことを撮るようにたのんで撮ってもらっています。おそらく父の写真を撮って作品として発表して、そこで父との関係における自分のことについて語ることが増えたことも影響しているのだと思いますが、ここ数年、撮られること、撮られた自分のイメージをみることがおもしろくて、セルフ・イメージに対する興味も出てきています。
 詩に登場する出来事には、自分の外側で起こった出来事と内側で起こった出来事があって両方実際にあったことだけれども、内側の出来事を書くときにはそれは「フィクション」になるのかもしれないというのは、おもしろいなと思うしなるほどとも思うのですが、自分には寓話なり何かに変換するということができないからなのか、うまく実感することはできないなと思いました。これは大崎さんの言う意味での内側・外側とはちがう話かもしれませんが、写真を使って何か作品をつくったりしている自分の場合は、書くことの魅力を内側の出来事と外側の出来事が平然と並置できてしまうところに感じているのだと思います。
 日記の場合だと書くのに時間はかかりませんが、それは誰かに読まれることを前提としていないからだと思います。あとはこれは同じことかもしれませんが、日記だと説明みたいなものをはぶいて書けるので書きやすいというのもあります。
 なぜ書くのに時間がかかるのか自分なりに少し考えてみたのですが、まずなんとなく思っていることや感じていることはあるのですが、それが自分でも把握しきれていない、自分のなかで定まっていないことが多いんだと思います。だからそのことを相手に伝わるように書こうとすると手探りしながら書くことになり、文章になってやっとなんらかのかたちをとるということになるので書きながらの逡巡が多くなり、時間がかかる。そういうことではないかと思ったのですが、こうやって書いてみるとこんなことはよくあることで、でも書く人は逡巡しながらもどんどん書いていくのだろうなと思いました。
 何かを言うために、あるいは何かを言うことの気持ちよさのために、定まっていないものに過剰に言葉を与えてしまうということがあると思うのですが、そうなってしまうことへの不安というか抵抗が自分は強いのだと思います。これはもう自分はそういう人間なのでそういう部分を尊重してやっていけばいいのだと思うのですが、でも現状はちょっとこの不安や抵抗が強すぎる気がしています。
 自分はもっと文章を書きたいと思っています。あったことを書くという日記の形式は自分に合っている気がするので、とりあえず不安や抵抗が少なくてすむかたちで書けるものをできるだけ書いていこうと思っています。
 大崎さんは今小説を書かれているのですか? ぜひ読んでみたいです! あと、フィクションを書こうとするときの力みについてと、詩の場合だとその力みはどうなるのかについて、もう少しお聞きしたいです。 先日のアクシスのイベントで大崎さんが朗読された散文詩がとても魅力的でした。これまでは自分が詩を書くということを考えたこともなかったのですが、大崎さんと会ったり話したりするようになったからか、詩というものを自分にも関係のあるものとして考えることができるようになってきています。そして、先日の大崎さんの朗読を聞いて、こういう文章を書く可能性は自分にも開かれているのだと思い、気持ちが盛り上がりました。
 二村ヒトシさんの本はちゃんと読んだことがないのですが、10年以上前、まだ大学生だったころににアダム徳永の「スローセックス実践入門」という本を買ったことを思い出しました。その本にもいいことがたくさん書かれていて大変勉強になりました。アダム徳永はその後さらなる研鑽を積んで「新・スローセックス実践入門」を数年前に出しているみたいでとても気になっています。
 大崎さんからの返信をもらったのは7月のはじめで、自分がこれを書き始めたのは8月のはじめで、今は8月の終わりです。えらく時間がかかってしまいました。明日撮影の仕事で大崎さんにお会いするので、その前に返信をしておきたいと思いました。書き終えるためには締め切りをもうけるというのはやっぱりとても重要なことですね。それではまた明日お会いできるのを楽しみにしています!

8月28日
金川晋吾


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