夕立、ラブ
夏が好きで、夕立が好き。
昼時、少しだけカフェで勉強をして、
帰ろうと外に出たら、空が灰色と白色のもくもくに変わっていた。
生暖かい強風が顔にあたり、一瞬息が止まる。
夕立だ。
あれだけギランギランに光り散らしていた太陽は、すっかりその鳴りを潜め、どこかへ隠れている。
さっき、流石に暑すぎるよーって怒ったからかもしれない。
ごめんね、と思った矢先に、遠くで稲妻が落ちた。
だから、ごめんって。そうやって、夏のわがままな所も、可愛くて好きだって。
雷が、雷雨が好きになったのは一体いつからだったっけ。
怯えて隠れた布団の中で、大汗をかいた時のことも、その布団を面白半分に兄にひっくり返されてマジでブチ切れた時のことも、父親に対落雷に関して、一番安全な場所はどこか尋ね、車という答えを聞いて、車を開けてくれと泣きながら頼んだ時のことも覚えている。
が、いつからか、雷の音が聞こえると、
おーいいぞーもっとやれーと思うようになった。
小さい頃のわたしへ、
こんな意地の悪い大人も、この世界には存在するみたいですよ。
ともあれベランダに干しっぱの洗濯物に想いを馳せて、少しだけペダルを踏む足に力を入れる。
夕立は、洗濯みたいだなって思う。
あなたを想うこのよこしまな気持ちも、
アイツを嫌うこのよこしまな気持ちも、
すべて、いったん、この大きな街ごと洗われるような、そんな感覚に陥る。
それは多分、リセットでもある。
夕立のある日は、一日がふたつになる。
夕立前と、夕立後。
だからさ、お得だよ。
夏はたくさん時間があるからさ、
ふたつの一日がたくさんあるからさ、
湿ったコンクリートのあたたかさを感じて、
ビチャビチャになった髪の毛を乾かして、
また鳴り出した蝉の声に苦笑いしたら、
汗ばむ手を繋いで、アイスでも買いに行こうよ。
すっかりゴキゲンになって、顔を覗かせる綺麗なグラデーションの夕焼けが、君のえりあしの汗を、きらりと輝かせる瞬間を、想像する。
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