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煙草とベランダと夜

煙草をベランダで夜に吸うのが好きだ。
空には星が見えて、その広い広い夜の目下には、人工的で擬似的な星みたいな夜景が見える。
時々変な色に染まる京都タワーもちょっと小さめに見えて、光の漏れたたくさんの窓から営みが見える(ここで言う見えるとは比喩表現だけど)。そしてそんな街を囲うように山の輪郭が見える。

ベランダで煙草を吸うと、よく見えるようになる。1本が無くなる頃には、濃い夜に目が慣れて、頭上の星が増える。星座だって見える。ような気がする。遠くの夜景は揺れている。夜景って、揺れるのだ。まるで海に浮いている丸いアレみたいだ(調べたらタマと言うらしい)って、思う。というか、夜景の付け根が見えないから、遠くで光る生活は海みたいだ。
夏の夜はなんでか、山の輪郭が冬よりもぼやけている。それが好きだ。ひとつの山の後ろから光が漏れていて、その境目の上の夜だけが、ぼんやりと白んで明るい。未だあの山の向こうの光の出処が分からないが、きっと死ぬまで分からないんだろう。

ひとつの窓の電気が消えて、また別の窓のカーテンが閉まる。そうして幾千の命を抱えた街は、今日も眠りにつく。それが見える。2本、3本吸い終わる頃には少しだけクラクラして、夜にしか見えない光がぽわぽわと、永遠にそこにあるみたいに思える。

好きだ。こんなに長い時間、景色を眺めるなんて、煙草がなければ多分飽きてしまうから。手持ち無沙汰な私に、「退屈」に隠された夜の街を、煙草は見せてくれるみたいだなあと思った。魔法みたいに煙が登り、蝕むみたいにオレンジの火の光が指へと近付いた。


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