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2021.10.12

じいちゃんが、私のことを忘れてしまった。


辛いけど、涙は出るけど、
忘れてはいけない今日のこと
きちんと書き留めておく必要があると思った。

祖父と祖母が居る施設まで会いに行った。
祖父はやっぱりフラフラしていて、無機質な歩行器を支えに歩いていて、前にあった時よりも痩せていた。
痩せて痩せて、顔が小さくなって、たてがみみたいに髪の毛だけが残っているのがなんか可笑しくて少し笑った。

もうほとんど動かない口で名前を尋ねられて、
ああ、まあそうか、そうだよなと思った。
前よりも大きな声で、ゆっくりと「涼香です」と伝える。
祖父が持ち歩いているノートに震える指で書いた、
涼香という文字を見た瞬間、
なんだか自分の名前が世界一素敵な名前であるような気がした。

祖父は私のことを忘れてしまった。
いつかこの日が来る事は分かっていた。
しかし、どうしたって悲しいものは悲しい。
人生で初めての悲しみとの遭遇。
ずっと知りたいと思っていた感情だったが、感動はなかった。
でも19年間生きてきて、初めて悲しみを教えてくれたのが、世界一尊敬している祖父で良かった、とも思った。

祖父は色々なものを、ことを、人を忘れて、
この世を去っていくのだろう。
今までの記憶や思い出を攫ってから逝かせるなんて、
人間の死とはなんて酷なのだろう。

でも、あんまり大切な物が多過ぎても、
この世にうまく見切りを付けれないのかもしれない、とも思う。となると、死というものは
もしかするとうまく出来ているのかもしれない。

だとすると、これから死に向かってゆく祖父の足枷にならないのは良い事である。
祖父は私を忘れてしまったけど、祖父と過ごした時間は確かに存在している。
これからはこの想い出を私だけが抱えて生きてゆく。
おじいちゃんが手を離したのだから、私がしっかりしないと。今までよりかは重くなってしまうけど、ひとつも取りこぼすことなく抱えて生きなければ。

おじいちゃんが手を離したことで、
より一層大切になったもの達が、きっと私を生かしていく。
いつまでも、私はおじいちゃんに生かされていく。


今まで祖父に会った時は、健やかで幸せな日々を願った。
今日は初めて、穏やかで幸せな死を願った。

おじいちゃんはこんな変な事を言っても、
不謹慎だって怒ることは絶対に無いこと、
わかっているから。

世界一尊敬できて、世界一大好きなあなたが、
どうか安らかに眠れますように。
その時が来るまでは、ずっと幸福でありますように。

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