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曲解(曲に対する歪んだ解釈)〜AstrumとParallax編

 ありがとうございます、鯖の缶詰です。
 2024年3月13日、GITADORA(以下、ギタドラ)の前身であるGuiterFreaksの稼働開始25周年を祝う記念作品とも位置づけられる新バージョン『GALAXY WAVE』が稼働しました。
 『銀河の音楽番組』をテーマにBEMANI Sound Team(以下、BST)制作楽曲やお馴染みの顔触れだけでなく、アニメ主題歌やボーカロイド楽曲、BEMANIシリーズへの楽曲提供が初めてとなるアーティストやボーカリストの楽曲を多数収録。
 さらに初代GuitarFreaksの稼働日となる3月15日午前0時、2018年11月にコナミアミューズメントを定年退職した泉陸奥彦さんによる完全新曲の追加収録がサプライズ発表され大きな話題となりましたが、このままだと別記事が一本できてしまいそうなのでこの話はここまでにしておきます。

 そんなお祝いムードが漂うなかで新しい楽曲たちに触れ、そのなかでどうしても現時点で感じたこと・今まで言いたかったことを言い尽くしておきたい楽曲『Astrum』に出会ったため、久し振りに記事を書きます。
 作曲者たちの意図するところや見解とは異なるかもしれません。時間経過とともに私の気持ちや捉え方・考え方が変わるかもしれません。あくまで現時点での筆者個人の感想であり冷奴(※深読みしすぎの考察・拡大解釈)です。そこだけはご了承ください。

『Astrum』の概要

 Astrum(アストルム)はSTANDARDモードを一定以上の成績で3曲クリアしたプレイヤーのためのおまけステージ、いわゆるENCOREステージ(以下、アンコールステージ)でのみ出現する隠し楽曲のひとつです。
 初期段階ではアンコールステージでしか選曲できませんが、指定された楽曲の選曲を繰り返すことで解禁され通常ステージでも選曲可能になります(選曲の手段はほかにもありますが本題から外れるため省略します)。

 この楽曲はBSTのHu∑eR(ハマー)さん、ゲストコンポーザー・零 -zero-さん(以下、零さんと表記します)の二名による合作となっています。
 Hu∑eRさんは主にBeatmaniaIIDXシリーズにおいて楽曲制作やシステムサウンドの制作を担当。自身が熟練のIIDXユーザーであった経験を生かしたユーザーが遊んで楽しいと感じる楽曲や、等身大の人間の心の機微を描き出す親しみやすい歌詞づくりに定評があります。
 また零さんはSOUND VOLTEXでの公募や各種BEMANIシリーズ楽曲でのギター演奏以外にも、さまざまな音楽ゲームへの楽曲提供・ギター演奏などの経験を持つ実績豊富なギタリスト・作曲家です。
 今回は特に零さんのギターサウンドの魅力について掘り下げる内容となっています。
 前置きが長くなりましたがお付き合いください。

触れておきたいもうひとつの楽曲

 本題に移る前にAstrumを読み解くうえでもうひとつ触れておくべき楽曲『Parallax』の話を少しだけします。
 ざっくり説明すると先述のお二人がBEMANI楽曲として発表した初めての合作曲です。ギタドラHIGH-VOLTAGEの隠し曲として収録されています(2021年12月22日初出・2024年3月25日現在解禁不可)。
 楽曲収録が発表された当時はコロナ禍の真っ只中。ゲームセンターになかなか足を運ぶこともできず告知より少し遅れて年明けに楽曲解禁となりました。
 初めてParallaxを聴いたとき、あまりのギターの迫力に鳥肌が立ったことは今でも覚えています。
 まるで熱風だ。初めてギターの音色から灼けるような熱さを感じた瞬間でした。
 Hu∑eRさんの音楽が持つ風を思わせる浮遊感や疾走感が零さんの炎のように熱いギターの音色を増幅させ、天まで焦がすほどの熱さを感じさせたのかもしれません。
 これまで音から色・光・匂い・味など聴覚以外の感覚を得ることは多々ありましたが、ここまで強く温度を認識できた音はParallax……零さんの弾くギターが初めてでした。
 世の中にこんな音を出せるギタリストがいたのかと驚き、すぐに彼のX(旧Twitter)をフォロー。彼がこれまでに発表・制作に携わった楽曲を追い、新たな活動報告を心待ちにし、現在に至るまで応援しているアーティストのひとりとなっています。
 それからというもの、Parallaxはゲームセンターに足を運ぶたびにウォーミングアップや高難易度を遊びたいときなど折に触れて選ぶほどのお気に入りになっていきました。

「ずっとずっと、待っていました」

 Parallaxを何度も選び続けるうちに「Parallax以外の彼らの曲を、さらに言えば零さんのギターをギタドラでもっと聴きたい」と思うのは当然のことでした。
 2023年夏に行われた公式アンケートにも彼の楽曲がまた聴きたいと回答し、彼がギター演奏を担当した楽曲をたびたび選んでプレー回数という見える形で運営にも静かに熱意を伝えていました。
 FUZZ-UPの楽曲追加やイベントの更新が止まり新作稼働の空気がユーザー間でほのかに漂い始めた頃、こんな発言をしていました。

 学生の頃から長年応援してきた肥塚さん、若手ながら毎作素晴らしい楽曲を発表するYvyaさん。そんな応援したいアーティストの並びの中に、今回は零さんもいました。
 稼働日当日は用事があってゲームセンターには行けなかったため情報を追いながら今作はのんびり楽しもうかなと思っていた矢先、私が彼のファンであることを知る友人からLINEが届きました。 

夢じゃないよね……?

 またギタドラが零さんを呼んでくれた。その事実がとても嬉しくて、出先で声をあげて喜びました。
 そんな浮ついた状態を見た家族からも「様子がおかしい」「大丈夫か」と指摘される有様でした。
 翌日、逸る気持ちを抑えながらゲームセンターへ。初日にプレーした人の感想や聴きどころなどの前評判が軒並み良かったため期待を膨らませていました。
 そして待ちに待ったアンコールステージ。大型スピーカーから聞こえる心臓を揺さぶる零さんの熱いギターの音色、そして彼のギターの音を後押しする風のように透き通ったピアノのハーモニー。たった10秒のプレビューから流れ込む情報の多さに圧倒されました。
「ずっとずっと、待っていました」
 
思わずそう声に出ました。

 普段は新曲が出るとまず低音の動きを知るためにベース譜面から選ぶことが多いのですが、この楽曲に限ってはまずギター譜面から選ぼうと決めていました。
 イントロのアコースティック・ギターの優しく温もりのある音に心を揺り動かされ、ピアノとせめぎ合う中盤ではやや後ろに下がりつつも音の存在を感じ、メインフレーズでは胸を締めつける切なくも熱いメロディーを歌い、身体の芯から絞り出す叫びにも似た高音に心臓を貫かれるような衝撃を受けました。
 ゲームの面においても最後の高音の余韻とアコースティック・ギターの音色をきちんと聴かせるためにあえて空白を設けてくれる譜面づくりにも音に対するこだわりが表れていて非常に好感が持てました。

 ギタドラ新作初プレー後、2分間のアンコールステージで受けた衝撃に言葉も出ずベンチに腰掛けたまましばらく呆然としていました。言葉が出ないそのかわりにしばらく泣き、花粉症でもないのにずっと鼻をすすっていました。
 Parallaxとの出会いから2年。Astrumと出会ったその日。彼らの音楽が再び新たな世界を見せてくれたことに感謝するよりほかに何も言えることはありませんでした。

終わりと始まりがそこにあった(楽曲考察)

 Parallaxでは赤々と燃え上がる炎の熱さが連想されましたが、Astrumでは一変してグラスに注いだウイスキーやブランデーが青く静かに燃える『冷たい熱さ』のような温度がありました。
 地球から遥か遠くで淡く輝いている星の光を思わせるアコースティック・ギターの美しい旋律から始まり、やがてピアノとエレキギターのハーモニーが次々に押し寄せ星の雨のごとく降り注ぐ。Astrumからはそのような光景が見えるように感じます。

 Astrumはラテン語で『星』の意味を持ちます。
 ところでこの『星』は一体どこからやってきたのか……筐体の前で何度も音楽を聴き考えるうちに、AstrumはParallaxから続いている物語なのではないかと考えるようになりました。
 楽調の話になりますが、ParallaxはEマイナー(ミの音を基音とする短調)から始まり、終盤で半音上がってFマイナー(ファの音を基音とする短調)に転調し最後まで進行します。
 対してAstrumは終始Fマイナーで進行する楽曲で、BPMの違いこそありますがParallaxの最終盤から転調せずそのままAstrumに繋げることが可能であるとも考えられます。
 またParallaxの最終盤の残響によく似た音はAstrumの冒頭、アコースティック・ギターの音が入る直前にも薄く聞こえています。
 風に煽られ赤く燃え上がった炎によって空高く巻き上げられた灰がやがて宇宙の彼方に届き、青白い光を放つ新たな星が生まれた……あの残響こそがParallaxの終わりでありAstrumの始まりなのかもしれないと感じました。

21グラムの質量を持った唯一無二のサウンド

 Hu∑eRさん特有のコードの使い方が生み出す不安とその解決、ピアノ以外の音が生み出す楽曲の厚みなどにも触れたいところですが、ここからは零さんの持つギターの音色について少し掘り下げていきます。
(なお筆者は楽器・エフェクターなどの機材や音楽理論への知識は聞きかじった程度にしか持ち合わせておらず、この先の文章も筆者の主観に基づいて話すことが多々あります。ご了承ください)

 「温度を感じる」と先述したとおり、零さんのギターサウンド最大の持ち味は音の持つ熱量の大きさ・喜怒哀楽さまざまな感情を乗せた聴き手の心に訴えかける説得力のある音色にあると思います。
 以前ご本人がホストのスペース(※X・旧Twitterにおけるユーザー間の通話機能)を拝聴した際に「自分はアマチュアだけど自分にしか出せない音がある(大意)」とお話していたのがとても印象的だったことを覚えています。
 これはBEMANIシリーズ以外のシーン(他社音ゲーへの公募、M3での頒布物、配信・公開されている個人作など)で発表された楽曲を聴き自分なりに音への理解を深める中でも強く感じました。
 あるときは弦を切るかのごとく力強く、あるときはすべてを焼き尽くすほどに熱く、あるときは涙をぐっと堪えるかのように切なく、そしてあるときは優しく包み込むような甘く艶のある音色を魅せることもあります。
 また別のスペースでもある楽曲について「(当該楽曲のギターは)魂込めて弾きました」とお話してくださったことがありました。このお話がきっかけで、彼のギターサウンドが持つ魅力の根底に触れることができた気がしました。

 『魂の質量は21グラム』という俗説があります。現代科学においてこの説は否定されていますが、人間の存在証明を端的に表すこの表現にはとてもロマンを感じます。
 その言葉を借りるなら、零さんのギターの音は筐体のスピーカーやヘッドフォンを通しても21グラムの質量を保ったまま身体すべてに響いてくるように感じるのです。
 音の向こう側に奏者の手や身体の動き、息遣い、シルエットといった『人間』の存在を感じる音が私は大好きです。
 彼の奏でる音にはいつだって魂が宿っていると、私にはそう思えてなりません。

おわりに

 生み出したものがこれから先も愛されていくと良いと思う親心は、どんな形であれものづくりを経験した人間なら誰しも一度は願うことです。
 それは限られた人生の中で時間と魂を削り、作品という自らの分け御霊(わけみたま)とも呼べる存在を送り出しているからこそ思うことなのでしょう。

 天体望遠鏡を覗いては「あの星はね……」と誰かに語りたくなるように、お二人が生み出した『Astrum』という新しい楽曲をこれからも一介のファンとして末永く愛していきたいです。
 零さん、Hu∑eRさん。ギタドラ25周年を迎えた春に素敵な音楽との出会いをくださってありがとうございます。


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