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曲解(曲に対する歪んだ解釈)〜Kilonova編

 noteでははじめまして、鯖の缶詰と申します。
 ギターフリークスを中心にBEMANIシリーズのAC音ゲーを嗜む、どこにでもいる普通の主婦です。
 BEMANI Sound Team(以下、BST)では肥塚良彦さん・Yvyaさん、既に退職された方では黒沢ダイスケさん・TAGさんの音楽が大好きです。

この記事は何?

 2022年11月1日より始まったBEMANI大型連動イベント『いちかのっ!ごちゃまぜmix up!』(以下、連動イベント)で解禁された新曲『Kilonova』について自分なりに感じたことを形にしたくて今回初めてnote記事を執筆しました。
 いわゆる冷奴(※深読みしすぎの考察・拡大解釈)です。よろしければお付き合いください。
 また本記事はBEMANIシリーズをそれなりに遊んでいるユーザーが読むことを想定しているため、音ゲー用語・連動イベントの仕組みについての解説は省略する場合がございます。予めご了承ください。

『Kilonova』の概要

 まず今回の連動イベントでは、おすそわけ楽曲と称してGITADORA(以下、ギタドラ)とDance Dance Revolution(以下、DDR)の間で以下の楽曲の相互移植がありました。

  • キヤロラ衛星の軌跡(ギタドラ→DDR)

  • Pursuer(DDR→ギタドラ)

 このふたつの楽曲をアレンジャーであるBSTのYvya(ゆうや)さんが独自に解釈・ミックス・再構築。双方の持ち味の中に彼の個性が織り込まれ、まったく新しい楽曲として誕生したのが『Kilonova』です。
 Yvyaさんはギタドラを中心に楽曲制作やギター演奏を行う若手の作曲家・ギタリスト。思わず口ずさみたくなるキャッチーでかっこいいインスト楽曲の制作を得意としています。

そもそも『キロノヴァ』とは?

 この楽曲が公開されるまで、私は「キロノヴァ」という単語すら知りませんでした。

 キロノヴァは、高密度の天体が融合する際に起こる大規模な爆発現象である。
 中性子星の連星または中性子星とブラックホールの連星が融合することによって発生すると考えられている。

Wikipedia「キロノヴァ」より

 このことから『Kilonova』は、もとになったふたつの楽曲を天体になぞらえてつけられた曲名であると考えられます。
 オリオン座を構成する星の名前(アルニラム・サイフ・メイサ)や筋状の雲が波打つ現象(フラクタス)など、天文学や気象学に由来する曲名の多いYvyaさんらしい発想だと感じました。

感情の衝撃波に飲み込まれる

 ギターフリークスの大きなスピーカーから流れるプレビューを聴いた瞬間、思わず「うわあ……!」と声が出ました。
 音ゲーにおけるプレビューはその楽曲の自己紹介であり顔であるともいえます。完全新曲のプレビューを聴くときは「これがあなたの音なんだね」と淡々とした感想を抱くことが多いのですが、今回は心を大きく揺さぶられるものがありました。
 名前のつけられない感情が溢れてくる楽曲との出会いは久し振りで、手は止まり膝は震え目頭が熱くなりました。
「難度を選んでね」
 時間切れで楽曲が決まり聞き慣れたシステムボイスに次の行動を促されるまで、新たな楽曲の産声を全身で浴び続けていました。

 前述のおすそわけ楽曲が発表された段階で、どちらもギター主体の楽曲でBPMが近く、また同主調であることなどからMix楽曲同士の親和性は高いだろうと感じていました。
(同主調:同じ主音を持つメジャーとマイナーのキーの関係。今回の場合、主音はともにE(ミ)の音)
 しかし『Kilonova』はそんな想像や期待を軽々と超えてきました。
 タイトで疾走感のある『Pursuer』と、美しく壮大な『キヤロラ衛星の軌跡』。それらの持ち味・魅力を極限まで引き出し、どちらのものであるとも解釈できるサウンドへと創り変えるセンスは流石の一言に尽きます。
 さらに聴けばYvyaさんのものとわかるリズムパターンやメロディーラインが随所に滲み出ており、ふたつの楽曲の中にちらと顔を見せる彼の個性に気付いて思わず口角が上がりました。
 しかもこれだけの要素を2分間のなかに盛り込んでいるにもかかわらず、すべてのコンセプトが破綻せず絶妙なバランスのもと唯一無二の楽曲として成り立っているところに非常に感動しました。

 人はその場で受け止めきれないほど大きなエネルギーを持った作品を見聞きしたとき、言葉を失い泣くか笑うしかできなくなるものです。
 時間の許す限り楽曲を楽しみ、ゲームセンターを出てから車の中でしばし放心。気付けば頬には熱いものが伝っていました。
 車を走らせながら考え唸り、信号待ちで「あー!」と声をあげるなど、いつ職質されてもおかしくない奇行を繰り返しながら帰路につきました。
 感じたことや言いたいことは山程あるけど、下手に口にしてしまえば野暮になる。初めて筐体の前で『Kilonova』を聴いた当日はこの衝撃をうまく言語化できず、歯がゆい思いをしました。

 あの日の衝撃からしばらく経ちイベント開催期間も終わりに差し掛かったいま、ようやく落ち着いて文章にまとめることができています。
 感想をしたためるには遅すぎる気がしますが、その場の勢いに任せて支離滅裂な文章を書き上げる、いわゆる「深夜のラブレター」にならずに済んだのでむしろこれで良かったのかもしれません。

なぜこの2曲を選んだのだろう

 ※ここから先は執筆者個人の勝手な想像や憶測・深読みの過ぎた拡大解釈の表現があります。これらは作曲者の意図を代弁したものではありません……と前置きをさせてください。

 『Kilonova』を何度もプレーして楽曲を聴き込むうちに「どうしてYvyaさんは『キヤロラ衛星の軌跡』と『Pursuer』を選んだのか」と考えるようになりました。
 もとになった楽曲やYvyaさん本人の楽曲を聴いたり楽曲にまつわるエピソードや有志による考察などを拾い上げるうちに、自分の中では2点ほどこの理由として思い当たるものが浮上しました。

①共通するテーマ

 前述のとおりYvyaさんの楽曲には宇宙や天文に関する単語をタイトルにしたものが多くありますが、それと同様に『キヤロラ衛星の軌跡』を作曲した工藤吉三さんの楽曲にも『ジュピターガンズノベル』『葬送のエウロパ』(いずれも木星とその第2衛星がモチーフと考えられる)など宇宙をテーマにしたものが複数あります。
 『キヤロラ衛星の軌跡』も宇宙をテーマにした楽曲のひとつで、ジャケットに描かれた土星を模した惑星と壊れた探査機から、土星の大気に突入し20年にも及ぶ長旅を終えたNASAの土星探査機『カッシーニ』が楽曲のモチーフであると考えられます。
(※カッシーニの運用終了は2017年9月15日、『キヤロラ衛星の軌跡』の発表は2018年9月12日。EXCHAINバージョンアップ時の一番最初のプレミアムアンコールでした)
 また歴代のプレミアムアンコール楽曲をメドレーにした『The ULTIMATES』シリーズのうち、Yvyaさんが編曲した『The ULTIMATES -reminiscenceー』では前述の『ジュピターガンズノベル』を中心にメドレーが構成されています。
 これらのことから今回『Kilonova』の原曲に『キヤロラ衛星の軌跡』を選んだのもおそらくYvyaさん自身が工藤さんの楽曲が好きで、彼への強いリスペクト・宇宙をテーマにした彼の楽曲に対するエンパシー(共感)を感じていることの現れだろうと読み取りました。

②外部アーティストへのメッセージ

 『Kilonova』の原曲にはどちらも外部アーティストの作品という共通点もあります。
 前述の『キヤロラ衛星の軌跡』を作曲した工藤吉三さんはベイシスケイプ所属、また『Pursuer』を作曲した白澤亮さんはノイジークローク所属のアーティストです。
(ちなみにMix楽曲の原曲がどちらも外部提供の楽曲なのは『Kilonova』のみで、ほかのMix楽曲は少なくとも一方はBSTアーティストの楽曲を使用したものでした)

 かつてギタドラを含むBEMANIシリーズの楽曲はほとんどが自社アーティスト(現在のBST)制作のものでした。
 現在では収録楽曲のバリエーションを広げたりそのときのトレンドをゲーム内に取り入れるなど様々な理由から外部のアーティストによる楽曲提供や公募・コンペティションでの楽曲選考も行われ、BST制作の楽曲の比率は以前より低くなっています。
 BST楽曲が減ったことについては賛否ありますが「公募採用の楽曲で知ってファンになった」「BST楽曲の歌唱で知ってライブにも行った」など肯定的な声も多く聞きます。
 かく言う自分もギタドラへの楽曲提供がきっかけで応援するようになったギタリストや作曲家がいます。
 新作稼働時のデフォルト楽曲でも常連になった外部のアーティストは数多くいますし、いまやBEMANIシリーズは外部の音楽制作会社やフリーランスのアーティストの協力なしでは成立しないと言っても過言ではないでしょう。
 『Kilonova』は、ギタドラに限らずBEMANIシリーズを支えているたくさんのアーティストへの感謝のメッセージなのかもしれません。

おわりに

 『Kilonova』はゲームセンターに行くたびに、そして実力相応の譜面をフルコンボしても選び続けるお気に入りの楽曲になりました。
 数字を意識したいわゆる「グレ削り」が目的ではなく、音楽が見せてくれる世界を楽しむために選ぶ――自分にとってはそんな一曲です。
 この先フルコンボがエクセレントに変わっても、今よりもっと上達して『Kilonova』が対象から外れることがあっても変わらず選び続けると思います。

 『Kilonova』ができるまでには一介のファンにはわからない、様々なご苦労があったのでしょう。
 Yvyaさんにとって『Kilonova』はきっと大切な一曲に違いないと思っています。

 Yvyaさん、素敵な楽曲をこの世に送り出してくださって本当にありがとうございます。
 思い入れのたくさん詰まったあなたの人生の一部のような楽曲を、ひとりのファンとしてこれからもずっと大切にしていきたいです。

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