ゲラの話

私は、ゲラである。

ゲラとは大声でとめどなく笑うさまをあらわす『ゲラゲラ』の略で、すぐにゲラゲラと笑い出してしまう人や笑い始めたら止まらない人など、笑い上戸な人を意味する。                     

ただ、よく笑うだけならいいのだが、笑いのツボが浅く、一度笑うとなかなか治らない。
私のバイト先では、お客さんがいない時に雑談をするタイプのお店だったのだが、なかなか治らずに、お客さんが来た際に接客しに行こうとすると「お前はお客さんの前で平然と笑うから、今は行くな!!!」と先輩に止められたことがあるくらい笑ってしまう。

そして、笑うタイミングに疑問を持たれる事も多い。

以前、大学で「何で先週休んだのか」と友人に尋ねた際「キャンプ」と答えられた時。私は周りの人が「ふーん」となっている中、1人で笑っていた。
私は、キャンプで学校を休むこと、そしてまっすぐな目で「キャンプ」と答える友人、そしてそれに対して「ふーん」と答えている聞き手に対してキャンプが当たり前の世界線になっているというのがすごく面白かった。

そう言うものなのだろうか。キャンプは、人生において必要不可欠であり、法事などと同じ扱いなのだろうか。それはキャンプに対する人それぞれの価値観なのでよくわからないが、私は、キャンプに縁もゆかりもない人生だったので笑ってしまった。「なんでそんなに笑ってるのかがわからない」と怖がっていたのを覚えている。

私と関わりの深い人間は、「いつも笑ってるイメージ」と言ってくる。


私の大好きな先輩は、短気でなんにでも怒り、世界に対して何かしらの不満を持っているタイプの人間だ。私は、そんな彼とは対象的に、そこまで感情的になれないタイプなので怒っているというのが面白くなってしまう。
その先輩は、帰りのタイミングが被ると毎回ご飯へ連れて行ってくれる。また、興味のない恋愛事情や、出会い系アプリでのトーク報告を毎回してくる不思議な先輩だ。関わることが多かったので、怒っている所を何度も見た。

この前は、勝手にコンビニのwi-fiが繋がってインターネットに繋がらなくなった時も「おいクソwi-fiがよ!!!」とキレていた。こう言う時に、怖いよりもおもしろいが勝ってしまう。wi-fiへの怒りは、wi-fiには届かない。どう書いても煽りで笑っている女になってしまうが、本当に煽りではなく、単純に「そんなに!?」と驚きを上回った純粋な笑いである。

先輩は、世の中への不満は多いけれど、私には怒鳴ったり怒ったりしない。
先輩の洋服で汚れを拭いた時、(流石に怒られるか?)と思ったが、何も言わなかった。「よく怒らないね」と言うと「別に洋服くらい洗えばいい」と返された。すごい。wi-fiよりも嫌なはずなのに、キレポイントは不思議なのである。

先日、偏頭痛で頭が痛い時に、先輩と車に乗っていたら「 ーナツ直売店」と言う看板が見えた。最初の文字が剥がれ落ちていたが、その下には産地直売と書いてあった。
頭がいたい私は、その看板に「ドーナツ!?!?!?!?」と驚いたのだが、隣にいた先輩は「いやピーナツだろ。ドーナツの産地とかないだろ。」と冷静に突っ込み、「ドーナツだとしても、そんなに驚かないよ」と畳み掛けてきた。
「ドーナツ工場、見たことないんで…」と返すと「怖かったよ、頭痛そうに俯いてると思ったらすごいでかい声でドーナツって叫ぶから…」と怖がっていた。

ここでお気づきだと思うが、私はゲラなだけではなく頭も少し悪い。
これを言うと、先輩は「少し…?」と突っ込みを入れてくるくらい、頭が悪いのである。
自分の頭の悪さにもツボる時があるので、自分で何かを言って(あっそんなわけないか)と自己解決をし、笑っていることが多々ある。
今まで付き合ってきた恋人にも友達にも、「あなたと話していると、なんか置いてかれた気持ちになる」と言われる。電話だと特に、置いてけぼりにされて悲しい気持ちになるみたいだ。置いていってるつもりはないのだが、申し訳ない。

そして、「笑っていると笑うことに集中して、だいたい話は忘れていて、2度同じ話をしても同じように笑うんだよ。覚えてないから。」と解説もされる。なんてバカな女なのだろうか。なぜこんなに周りの人間が一緒にいてくれるのか不思議だ。

そんな先輩は、「一緒に働いてる時に、変わっている子」だと思っていたらしい。
「こんなに笑う?ってくらい、普通の話してる時に笑ってくるんだよ。でも、笑わせるぞ!って思うとびっくりするくらい笑わないの。」
そう、人が面白い話をしても笑うわけではないのだ。いや、大抵のことは笑うはずなのだが、先輩曰くウケを狙うと全然ダメらしい。

ウケを狙う、として一度だけ「走って近づいてきた時に"密です"って止めたら、めっちゃツボって、その日一日中俺に使ってきたんだよ。あれだけだよ、俺のボケがちゃんと通じたのは」と言われ、この人私を”笑わせたい”なんて芸人でも目指しているのか?となったが、それを言うと殴られそうだったので、先輩の愛を感じながらぐっと堪えた。

多分、これに関しては、私は話していて(これって〇〇ってことなのかな??)という疑問が生まれたら、その疑問に対して1人で考えてしまい、面白いと言う感情より不思議が勝ってしまうからだと思う。頭が悪いので、2つの感情を一緒に出せないのだ。

しかし、ゲラは怒っていても気付かれないと言う難点がある。
これは世界のゲラに共通するのか、私だけの悩みなのか分からないが、いつも笑っていると、なんか口を開けた瞬間にもう口角は上がっているのである。

人に、いじられることが多々ある私だが、あまりにも不愉快ないじりをされた際に、それは失礼だ!!!と怒る。しかし、そういう少し熱の入った突っ込みだと思われてしまう。
これは、すごく厄介なもので、どんどんいじりはエスカレートをする。一応頭が悪くてもプライドは人並みに持ち合わせているので、他人によく分からない悪口を言われると、かなり怒ってしまう。
しかし、この怒りは通じないので、怒って文句を言っている時でも「本当に怒らないよね〜〜」と言われる。今まさに目の前で怒っているのにも関わらず、だ。

本当に怒っているんだよ!というと、もっと笑われ、結局私は家に帰り、湯船に浸かりながら思い出して悔しい気持ちになる。
次の日になれば忘れているのだが、人生においてこのような経験は減らしたい。

「ゲラをやめたい」
と、よく言うのだが
『まぁ、笑ってて嫌な気持ちになることはないだろうから、いいと思うよ。』
と、毎回言われる。

周りの人間がいいと言うのなら、良いだろう。ゲラは、ゲラとしてこれからも口角を上げて生きていく。

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