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家が燃えた話


小学校の頃に、家、というよりキッチンが燃えたことがある。

小学校4年生の頃、スイミングスクールに通っていた。行きと帰りは家の近くの公園までバスが出ていたので、1人で通っていた。
姉も、当時体験スクールを一緒に受けたが水を顔に付けられず断念し、私だけ通い続けた。

スイミングスクールの、独特の空気が好きだった。塩素の匂い、夕方になるにつれて夕日に赤く照らされるプール、疲れ切った帰りのバスに揺られながら外を見る時間、帰り道の当たり付き自動販売機でジュースを買う時間、全てが懐かしく、好きな時間だった。

ある火曜日、いつも通りスクールバスから降りて、寄り道せず暗い夜道を早歩きで家まで歩く。家に着くと、すぐさまテレビの前に座り込み、リモコンの電源ボタンを押す。これは当時の火曜日に行っていた私のルーティーンである。

『怪談レストラン』のOPが流れ出すと自然と笑みが溢れた。私はこの為に火曜日の水泳を頑張っているのだ。

この時、後ろのソファーに長女がいた。
長女は当時、インターネットにのめり込んでいたので、帰ってきた私に気付かずに、ヘッドフォンを装着してパソコンを眺めていた。

そんな姉を気にせず音量を大きくし、のめり込む。OPが終わる頃に、テレビが突然消えた。

「??????」

何度も電源を入れ直すが、付かない。横を見ると、ダイニングへと繋がる扉のガラスが赤く光っていた。
不思議に思いながら、ガラス越しにダイニングをのぞき込むと奥にあるキッチンが燃えていた。


もう、これは、まさに火事だ!というくらいに火が舞い上がっていたのである。
私は夢か現実か分からなくなり、パニックになった。長女に、「燃えてる!燃えてる!!!」と泣きつくと、緊急事態に気付いた彼女は、急いでヘッドホンを投げ捨て、当時飼っていたうさぎのケージを外に出した。

「これをだせ!!!はやく!!!」

と、怒鳴られ、私も一生懸命2つ目のケージを外へ運んだ。
姉は、お風呂に溜まった水を桶いっぱいに入れ、火の元へと走った。私もついて行き、何か出来ることはないかと辺りを見回した。

「邪魔だ!!!!!!!」

と投げ飛ばされ、私は火を眺めながら呆然と座り尽くしていた。姉がお風呂場とキッチンを三往復した時、火は消えた。

ブレーカーは完全に溶け切っており、暗闇の中私達は息切れをしながら外へ出た。
この時には、怪談レストランのことなんて忘れていて、ただ全焼しなくてよかったという気持ちでいっぱいだった。うさぎのケージを覗き込むとヒクヒクと鼻を動かしているうさぎがいて安心したのを覚えている。

お姉ちゃんがいなかったらどうなっていたのだろうか、そんな事を考えながら『ありがとう』と、お姉ちゃんに言うと、お姉ちゃんは怒りながら母親に連絡をした。

その後、人生で初めて救急車に乗せられた。煙を吸っているか、火傷をしているか、と様々な検査をしたが、幸い長女も私も何も無く無事で帰宅した。




原因は次女だった。天ぷらを作るために鍋に油を注いだ後、材料を買いに出たのだと言う。それから次女は料理をしなくなった。

病院に父が迎えに来て、車に乗っているとなんだか先程までの火事が現実味を帯びてきた。アドレナリンが切れて、本当に死んでしまうところだったと思うと怖かった。

今回、火が消えたからよかったものの今思えば、燃えている油に水を注ぐなんて非常識である。本当に爆発をしていたら私達は今頃生きていないだろう。

私があの時間に帰ってきていなかったら、テレビを見ていなかったら、私がキッチンを覗かなかったら、イヤホンをつけてネットに夢中になっていた姉は早い段階で気付けずに家が燃えていなかったかもしれない。
様々なかもしれないの中、不幸中の幸いで私達は何事もなかった。

このような災害は、自分が意図していなくても起こり得るので「もしなったら」を考えておくのは非常に大切な事なんだと思う。



消化器、10本くらい家に置いておくべきなのかもしれない。
そして、出かける前は必ずコンロの確認をしよう。


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