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縁起のいい街、道具屋筋で生まれた福をつなぐ「縁起物の和柄グラス」

千田硝子食器株式会社(大阪市中央区)

鍋に食器にのれんに伝票...と飲食店向けの調理器具や什器を扱う店舗が軒を連ねる「千日前道具屋筋商店街」。現在、問屋街から観光地へと激しく姿を変える商店街の中で、ガラス類食器全般の商いを70年以上続けてきた千田硝子食器が新たに挑戦するのは、意匠を凝らした縁起物のグラスです。

業務用食器は「いつもあること」と「壊れない強さ」が大切

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水掛不動尊で有名な大阪千日前の法善寺から商売繁盛の神様である今宮戎神社へと栄えた参道筋に、明治時代の中頃から古道具屋や雑貨商たちが商いをはじめたのが「千日前道具屋筋商店街」の起こりです。その後の道具屋筋は、調理用具や器を売る飲食店向けの問屋となり専門店化が進み、1912年(明治45年)のミナミの大火、1945年(昭和20年)の大阪大空襲で二度、焼け野原になるという苦難を経験しながらも、たくましく生き残ってきました。

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戦後、バラック小屋から再スタートした戦後の道具屋筋がようやくお客様や得意先が戻り生活が落ち着き始めた1948年(昭和23年)に創業しました。その後、日本の高度経済成長とともに順調に発展。千田硝子食器は以来70年以上、飲食店で使う業務用のグラスやガラス食器類を中心に、この地で商売を続けています。

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硝子食器業界のトレンドは薄口グラスです。薄口グラスとは非常に薄い生地のグラスで、通常のものに比べ数倍の価格であるにも関わらず、品切れ続出の人気アイテム。流行の理由は日本酒ブームとクラフトビールブームです。飲み口を薄くすることで口当たりが上品になり繊細な味をより楽しめる、と評判になり、タンブラー、ワイングラスから猪口まで、薄口グラスは多くの飲食店で使われるようになりました。

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業務用のガラス食器では、新鮮なデザイン性や季節感よりもむしろ汎用性の高い「定番のデザイン」と割れにくい「強さ」が求められます。飲食店向けの商売なのでブームや流行よりも、いつもの商品が安心して手に入ることの方が大切なのです。

「グラスアート体験」でガラスにふれてもらう

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千田硝子食器は販売だけではなく、道具に関する目利きの力を生かしお客様の相談にのって提案するという商売を続けてきましたが、インターネット通販の普及や中抜きなど時代の変化に伴い、2018年から飲食店以外の一般のお客様に来店してもらうことを目的とした「グラスアート体験」という新たな事業に踏み出しました。

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グラスアートとは、砂の粉をグラスに吹きつけることでグラス表面を切削し、さまざまな柄やデザインを描いていく「サンドブラスト」という技法を用います。ガラスを彫る切子や塗料を印刷するプリントとは違い、ひとつひとつ切削するので自分だけのデザインも楽しめます。

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グラスアート体験事業「グラスアート工房 彩」を任されている川村佳子(かわむら よしこ)さんは千田硝子食器に入社後、元グラフィックデザイナーという経歴を生かし、サンドブラストのデザインと体験の指導、ホームページやSNSでの情報発信まで行っています。

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グラスアート体験にお邪魔して、体験の様子を見せてもらいました。ちなみにみなさんグラスアート体験ははじめてです。

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まずはグラスをチョイス。
ガラス食器を取り扱っているので、たくさんのグラスの中から選べます。グラスアート体験ではテープやシールでマスキングしますが、スクエアのグラスは平面が多いのでシールやテープが貼りやすく、曲線が多いワイングラスのような形状のグラスはシールを貼るときに少し難しくなります。

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次にデザインを考えながら、テープやシールでマスキングしていきます。
ポイントは削った後の白くなる部分を想像できるかどうかです。スプレーで砂を吹きつけて削るのでシールを貼っているところが透明に残り、貼っていないところが白く削られます。

「みなさんやっているうちにどっちだったかな?と迷ってしまうこともあるので、そんな時は深呼吸して頭の中を整理していただきます」

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集中しているので、最初は楽しそうにワイワイやっていた参加者たちも徐々に無言になっていきます。

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「今年の夏はとても暑かったせいか、室内で楽しめるもの体験を探していました、というお客様がいらしてくださいました。前日は遊園地で騒いだので今日は静かに落ち着いて、というお客様も。グラスアートはすぐに持って帰れるのもいい、というご意見もありました。あと、無心になれると会社帰りの方が来られたり」

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削ってはいけないところにシールの貼り漏れがないかを入念にチェックし、

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絵柄が出来上がった人からサンドブラストの工程へと進みます。

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サンドブラストの機械の中へ作品を起き、砂を吹き付けていきます。
コツは吹き付け漏れがないよう、まんべんなく砂を吹きつけることだけ。作業はそんなに難しくありません。

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砂を吹き付けたら、砂を洗い流し水でシールを剥がして完成です。

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「仕上がりは想像通りで満足です。メロンソーダとか色のはっきりしたものを中に入れてマイグラスを楽しみたいです」

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グラスアートで自社ブランドを作る

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千田硝子食器では、このグラスアートの技術を使って自社ブランドの商品づくりに挑戦しています。

商品の制作ではマスキングテープの代わりにフィルムを使用します。

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パソコンで作ったデザインを紫外線硬化樹脂フィルムに転写し現像します。現像の原理は写真のフィルムと同様で、紫外線が当たったところが硬化します。その硬化した部分が現像液で溶かされ、溶けて穴の空いた部分がサンドブラストで削られるという仕組みです。

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今回の商品開発では、はじめて直面する課題が数多くありました。

「商品をイチから作った経験はありません。メーカーから飲食店に商品を卸すという商売をしてきた中で、ものづくりは会社としてもはじめての体験です。商品開発をサポートいただいたアドバイザーからは、“ブレない芯のあるコンセプト”をもつことが大切だと助言をもらいました」

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当初は、道具屋筋商店街にもたくさんの外国人の方がきてくれるので、お土産に買ってくれるかもと、なんとなく思い決めた和柄でしたが、桜や七宝といった意匠はもともと決まったものなので単にその柄を彫ったグラスになってしまう、ということに気づきました。

そこで「和柄」という大きな土台に『こんなシーンで使ってもらう』『こんな飲み物を入れてもらう』『ギフトの場合渡す人と受け取る人は誰か』などイメージを膨らませながらコンセプトを固めていきました」

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「さらに千田硝子食器がこの道具屋筋商店街という場所で作る商品はどうあるべきか、を考えました。この商店街はもともと今宮戎神社への参道で、毎年1月上旬には十日戎が催され商売繁盛を祈願しにたくさんの人が訪れます。今宮戎神社は『えべっさん』の愛称で商売繁盛の神様と親しまれていることにちなんで『縁起物』というキーワードが浮かびました。

ターゲットは30~40代の女性で、家族や仕事、ご近所や親戚といったさまざまなコミュニティの中で生きている人。友人や同僚へのプレゼント、出産や誕生日のお祝いなどのイベントや行事で贈り物に使えるものを想定しました」

お祝いの気持ちや願いが込められた和柄をアレンジ

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グラスにあしらう和柄には、子供の成長を願う「麻の葉」、末広がりの「扇」、長寿を願う「亀甲」や厄除けの「鱗」、永遠の美を表す高貴な花の「椿」などお祝いの気持ちや幸せを願うものがたくさんあります。それぞれのお祝いのシーンごとに意味のある和柄をシリーズ化しました。これで「縁起物の和柄をシリーズ化したグラス」というコンセプトが決定。

デザインの細部は、まだ詰めが残っています。
「自分でデザインして自分で合格を出すのは本当に難しいです。和柄があしらわれた手ぬぐいなども参考にしましたが、他の製品とグラスの違いは色をつけることができない点です。パソコンの上でデザインを考えているときは楽しいし、ラフスケッチもかわいくできる。しかし透明のグラスにサンドブラストをかけても白一色で、色を使わずにそれぞれの柄を魅力的に表現できるのかが今の悩みです」

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「同じ品質のものを作る」ということが大切だと学んだ、という川村さん。作業はグラスアート体験で行っていることほぼ同じなので技術的な壁はありません。グラスアート体験で好きなように自分だけのものを作れば良く、何より楽しんで作る時間が大切。しかし商品を作る場合は、天地にわずかな隙間ができるだけでも不良品になります。「同じ品質で作る、そしてきちんと検査する」というものづくりの基本を経験することができました。

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「試作品を作っていると、昔は道具屋筋で私たちのような店と職人さんが密に相談しながらものを作っていたのではないか、と思うことがあります。今はなんでもネットで買える時代なので、自分たちからもっと積極的にアクションを起こさなければならない。このグラスで何か新しいことをはじめてもらえる“きっかけ”になればいいなと思います。

このグラスを買いにお客様にご来店いただいて、千田硝子食器のこと千日前道具屋商店街のことも知ってもらいたい。そしてここがもっと賑わいのある通りになればいいなと思っています」

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お店と商店街に賑わいと新たな価値が生まれることを願って手作りで加工される、福を呼び込む縁起物の和柄グラス。

皆さんのもとにも、福が届きますように!

贈る方のタイプに合わせて選べる縁起のいいグラス
福結(ふくゆい)

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詳しくはこちら

社名:千田硝子食器株式会社(グラスアート工房 彩)
住所:大阪市中央区難波千日前8-21 難波道具屋筋商店街
連絡先:06-6632-2512



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